みゆきの日記
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中学・高校時代にもてた人がすごく羨ましい、と昨日の日記に書いたんだけど、 そういう人が私のごくごく身近に一人いたのよね。 私の妹のなつき。 彼女はものすごーく、もてた。 いつも学年で一番可愛いとか学校で一番可愛いとか言われて、 一番カッコイイ男の子とつきあっているような子だったのだ。
私より二つ年下の彼女が同じ中学校に入学してきたときは、 私の同級生たちの間でもちょっとしたざわめきが起こった。
「あの子、お前のイモートなんだって? すっげー可愛いじゃん!」
なんて、好きだった男の子に言われちゃったりもした。 でも私にとっても自慢の妹だったから嬉しかったりしたんだけど。
美人でしっかりもので昔からおマセさんだったなつきは、 あらゆる点で、ちょっとぼんやりだった私をリードしていて、 私は彼女のことが自慢だったり、ちょっと複雑だったり、 まあその時々で変わったけど、大体において大好きな仲のいい妹で。 楽天的でいきあたりばったりな私は、ちょっと傷つきやすくて心配性な面もある彼女のことを、 心配したりもしたものだ。
複雑な気持ちが表面化したのは私が大学生のとき、 高校をアメリカで卒業したなつきが帰国して日本の大学に入ったときだった。 一旦日本に帰ってきた家族はまた海外に行っちゃってて、 私は一人で日本に残っていた。 大学はあと1年で終わろうとしていて、なつきが帰ってきて一緒に暮らせるのを 私は楽しみにしていた。
「みゆちゃん、日本の大学ってどう? 私、すごく不安なんだよね。 アメリカの大学に行かなくてよかったかな?」
私は、大丈夫、楽しいよ、と答えた。
「なっちゃんならどこでも大丈夫よ。 それにあの大学をでておけば、就職もいいところにできるじゃない。」
なつきはわりと名の通った私大の、当時もてはやされていた学部に合格していて、 その学部を卒業した学生の就職率は100パーセントに近いとも言われていた。 そしてなつきは日本に帰ってきた。 大学生活はうまくいっているように見えた。 彼女は相変わらずすごく美人でもてたし、男も女もたくさん彼女の周りに集まってきて、 家にはいつもたくさんの友だちが訪ねてきたし、 電話はひっきりなしにかかってきた。
でも、なつきはちっとも楽しんでいなかった。
「みゆちゃん、あたしダメ、やっぱり。 アメリカに帰りたい。」
そう言ってアメリカの大学の入学書類を取り寄せたり、 父に電話をしてアメリカの大学に行かせてほしいと頼むようになった。
「お願い、お父さん。 アメリカに帰らせてください。」
毎晩泣きながら父に電話で懇願するのを聞きながら、私は複雑な気持ちでいた。 一体、なにが不満なの?
父が仕事で帰国したとき、二人が話し合った時私も同席していて、
アメリカに『帰る』って、お前はなんなんだ、日本人だろう。 そう言う父が傷ついているような気がしてなつきが憎らしいと思った。
私よりずっとたくさんのものを持っているなつき。 それなのに、もっとほしいって言って泣いている。 そして病気になるのだ。 どうしてそれに同情したり共感したりできるだろう?
その時私はそう思ったけれど、それはやはり間違いで、 人はそれぞれに自分なりの『幸せ』の基準をもっていて、 それは他人には推し量れない種類のものだということが今ではわかる。
「日本の大学じゃダメなの。あたし絶対にお金持ちになりたいの。 アメリカに行かなきゃダメなの。」
どうしてアメリカの大学に行くとお金持ちになれるのか私にはわからなかったし、 どっちがいいのかなんて、父にも、きっと誰にもわからなかっただろう。
でも、とにかくなつきは父を説得してアメリカに戻り、大学を卒業した。 卒業後、帰国した彼女はある外資系の会社に入社して、今年で3年めなのだけれど、 うまくやっているみたい。
先日、なつきから電話がかかってきた。
「みゆちゃん、聞いてよ。あたしお給料倍になったのよ。」
「ええー、倍?なっちゃん、すごいじゃない!」
「そう。部署が変わってからすごく成績があがってさー。 同期でトップになっちゃったの、スゴイでしょ?」
部署異動になる前はトモユキと同じ仕事をしていて、それには数学の素養が求められるらしく、 かなり苦労していたのを知っているので、私は嬉しかった。 トモユキもその話を聞いて喜んでくれた。
今年27歳で2000万円近い収入を得ることになったなつきは、 「成功してお金持ちになりたい」と言ったあの日の言葉をちゃくちゃくと 実現させていっている。 コレってすごいことよね。
「残された人生の楽しみは、子どもを産むことだわ。 あたし、みゆちゃんが羨ましい。」
菜子を抱きながらなつきが言う。 私が得たものの中でまちがいなく一番素晴らしいものはトモユキと菜子で、 何もしてこなかったあたしにはあなたを羨ましいと言う権利はないけれど、 あなたをすごく自慢に思うよ・・。 自分の人生を自分で切りひらいてきたがんばっている彼女が、 どうか幸せになれますように、と願う。 私みたいに・・ね。
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