みゆきの日記
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2003年05月30日(金) 菜子が生まれた日のこと/28歳の誕生日/人見知り

異変に気づいたのは、年が明けて間もない頃だった。
11月に入籍して、12月の初めに会社を辞めてトモユキを追ってこの国に来て、
まだ1ヶ月しか経たない。

「あれ・・生理遅いなァ。」

なんとなく友だちに話したら、オススメの妊娠検査薬を教えてくれた。
そんなはずはないと思いながら、ちょっと好奇心で試してみた。
結果は、、、ポジティブ。

2月に結婚式を予定していたし、その後はタヒチに新婚旅行に行こうと思っていたから、
まったく予期しない妊娠だった。
今までヒヤッとしたことはあったものの、一度も妊娠したことはなかったので、
なんとなく妊娠しにくい体質なんだと思っていたのだ。
結婚したとたんに妊娠するなんて、なんてよくできたからだなんだろう。
実感はわかなくて、嬉しいとも思わなかった。
もう昨日までの私とは違うんだ、とちょっぴり淋しい気持ちになったほどだ。
このからだは、27年間私一人のものだったのに・・今はこの中に赤ちゃんがいるんだ・・。

トモユキにとっても同じような感じだったらしく、
胸がドキドキするといって煙草が吸えなくなったりしていた(笑)。

それから9ヵ月後、予定日よりも2週間早く菜子は生まれた。
逆子だったので、帝王切開での出産になった。
全身麻酔って初めてだったから興味があって、どんな風に意識が薄らいでいくのか
できる限り覚えていようと思ってがんばったけれど、
麻酔医が来て、今から麻酔をします、と言って私の手の甲に管を刺し、
"Here we go"と言ったところで記憶は途絶えている。

お腹の痛みで目が覚めた。
もう終わったのかどうかもわからなかった。
反射的にお腹に手をやると、もうぺちゃんこになっていた。
すごく、お腹が痛い。
キャスターつきのベッドで私は運ばれていて、トモユキが歩きながらのぞきこんでいる。

「みゆちゃん、大丈夫??」

「いたい・・」

私は、いろいろ話したいのに、まだ麻酔が効いていて口もうまく動かせない。

「終わったの・・・?」

「うん。そうだよ!大丈夫??ねぇ大丈夫?」

「赤ちゃん・・見た・・・?」

「見たよ。ちっちゃかったよー。」

「そう・・可愛かった・・?」

「うん、可愛いよ!後でつれてきてくれるよ。
 みゆちゃん、痛かった?大丈夫?」

「うん・・いたい・・」

トモユキは興奮状態だったけど、私はまだ意識が朦朧としていて
時々眠ったりしていたみたい。
後でビデオを見たら話してる途中で眠ったりしているのがおかしかった。

菜子はものすごく小さくてふにゃふにゃして壊れそうで、
そんなに小さいのにトモユキにそっくりなのがおかしかった。

「ねえ、トモちゃんに似てるね。」

そう言うと、

「えー?俺こんな顔かなぁ?」

なんて、不満そうだったけど(笑)。


菜子が生まれた次の日は私の誕生日だった。
赤ちゃんの顔を見に来てくれた友だちも私の母もそんなことはすっかり忘れていて、
私も忘れていたくらいだったけれど、
病院に来たトモユキはクリスチャンディオールの袋を持っていた。

「みゆちゃん、お誕生日おめでとう。」

箱の中には綺麗に刺繍をほどこしたミュールが入っていた。
それは、トモユキと二人で大きなお腹を抱えて買い物していたときに、

「こんなの、いつ履けるようになるのかなァ。」

って私がため息をついて眺めていたものだった。

「こんなヒールの高い靴、もう当分ダメだよ。」

トモユキはそう言っていたのに。
ちゃんと覚えていてくれたんだ。

びっくりして嬉しくて私は泣いてしまった。
私のベッドの脇には小さいベッドがあって、生まれたばかりの菜子が
元気に手足を動かしている。

28歳の誕生日は、今までで一番嬉しい誕生日になった。

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午前中、いつもと違う時間に菜子を連れて散歩に出たら、公園に日本人の小さい子を連れたお母さん方が何人かいた。
幼稚園に行く前の小さい子ども達らしく、よちよち歩きの子もいる。
菜子はまだ歩けないから一緒に遊べないけれど、子どもが遊ぶのを見て手足をバタバタ動かしだしたので、
近くに連れて行った。
同じくらいの月齢の赤ちゃんが遊びに来ても、
いつも活発に動き回っているから、喜ぶかなぁと思ったのに。

「わぁ、赤ちゃんだよー。可愛いねー。」

お母さん方や子どもたちが集まってきたのを見て菜子は固まっている。

「あれ?泣いちゃってるよー・・どうしたの?」

お母さんの一人が言ったので顔をのぞきこんだら、菜子は目に涙をいっぱいためて、
唇をへの字にまげているので驚いた。

これが人見知りって言うのかな。
今まで同じ人とばかり会っていたから、急にたくさんの子どもが集まってきて
驚いたのかもしれない。
なんだかちょっと菜子が大人になったような気がした。


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