行人徒然

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ベナルシ
2002年03月04日(月)

 NHKで、インドのベナルシの特集をしていた。ベナラシとも言う。

ガート(ガンジス川に面した木浴場や火葬場)を中心に抱く街。
死者と生者と神々の街。

 一つの家族にスポットが当たっていた。
 200キロ以上離れた農村からやってきていた家族。
 ベナルシという聖地で死にたいと願ったその老人は、もう半年以上前から歩けなかった。ひざをかかえた格好で座ったまま、移動するのも息子に抱えられないと駄目になっていた。もう足は動かないのだ。
 老人は、妻と長男と長女に連れられてその部屋に座っていた。彼らは一人の人の死をずっと待っているのだ。
 テレビを一緒に見ていた父親は嫌な顔をした。彼はこういう番組が嫌いなのだ。死へ向かうときに、それが妻であろうと迷惑をかけるわけにはいかない。自分は彼らの考えがわからないと言った。
 それは宗教的、民族的な問題なのだ。
 かつて日本では姥捨て山に代表される様に、老いて死ぬ時は人知れず死ぬのが当たり前だった。老いてまで周囲の人々に迷惑をかけない。そう言う事が美徳だった。

 そうではない国もある。
 そうではない文化もある。
 このくににも、姥捨ての習慣がない場所もある。

 そう言うものを、自分で理解できないからと言って目をそむける父は、少し・・・なんと言うか、甘いような気がするのだ。
 だが、それを父に言えるほど、自分は彼よりも完全でもない。



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