行人徒然

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懐かしい時間を
2001年06月08日(金)

 高校生だったころ、毎日毎日忙しくて、それでもちゃんとどこかに時間はあった。冗談抜きでつまらない授業とか、お目当ての人の姿を見つめるためだけに入部した部活も終わって、疲れた体を癒してくれる場所はどこにあるのか考えたりもした。
 名倉君はそんな自分を何時間も部活が終わるまで一人で待っていてくれて、それからの数時間を大切にすごしたのを覚えている。
 二人で毎日立ち寄ったミスタードーナツ。ノートを広げてたくさんの話を書いたよね。二人でたくさんの話をして、たくさん絵を書いて、テスト前に勉強しているつもりがいつのまにか二人で考えたオリジナルの話に熱中してる。
 あれから進んだ学校も違ったし、今はもう生活も生き方もぜんぜん違うけど、あの時、やっぱり同じミスタードーナツで過ごした時間はもう10年くらい前と何も変わらなかった。
 眉根を寄せて話を書く自分は相変わらずのスロースターター。帰る時間が迫るころにペンが紙を引っかいていく。どうしても目の前に浮かぶ現象を言葉にできなくて、何度も何度も書きなおしたりため息ついたり天を仰いで目を閉じたり。
 その前で無心に鉛筆を走らせる名倉君は、魔法を使っているように見えるよ、いつも。鉛筆の中に閉じ込められていた画像が、指先からあふれて形を作っていくみたいに。描く表情そのままにくるくる変わる名倉君の頬。ニヤニヤ笑って、眉寄せてしかめっ面。泣きそうな唇と情けない微笑み。あどけない表情で挑発。こっちがニヤニヤ笑ってしまうよ。ほらほら、人が見ているのに気づいたからってすねないでよ。
 帰り道、昔に戻ったみたいだねなんていわれたって、それに同意なんてしてあげない。恥ずかしいでしょ、そんなことに頷くの。そぉ?ってとぼけて帰る道の途中で、たくさんの記憶を思い出すよ。
 あのころは楽しかったね。
 でも、今も楽しいよ。
 ありがとう。



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