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連休最終日。 空港行きの地下鉄の駅へと向かう階段を降り始めた直後、 足が止まって、また外に戻った。
*********************************************************** 好きな街には、好きな公園がある。 札幌の大通公園も良い、ソウルのオリンピック公園も良い、 日比谷公園も、葛西臨海公園も。
福岡には、僕が抱えていることの全てを話すことができる 唯一の大切な友人がいる。東京と福岡。 適度な距離感があるから、お互いのプライベートを 何でも話せるようになったのだと思う。
大手町、札幌、霞ヶ関、と僕の周囲の環境が変わって、 人間関係が様変わりしても、その友人との関係だけは、 変わることがなかった。
ここ数年、僕は、半年に一度くらいの割合で、 福岡へ行って、その友人と飲んで、話した。 水炊き、モツ鍋、お刺身、博多ラーメン。 いつも素敵なお店に案内してくれて、 福岡のおいしい料理を食べながら、 時間を忘れて話した。
******************************************************** 2〜3軒のはしごが終わって、日付も変わるころ、 いつしか、友人の家へ向かう途中にある、 大濠公園に立ち寄るようになった。
周囲2キロほどの池の周りは、ランニングコースに なっていて、夜遅くでも、ジョギングをする人たちがいる。
僕らは池に面したベンチに座り、水面に揺れる オレンジや白の街灯を見ながら、途切れ途切れに 会話を続けた。
沈黙も多かった。 けれど、その沈黙すらも大切な時間だった。
********************************************************** 水が高いところから低いところへ流れるように、 自然の流れに従って、その友人は、来月福岡を去ることとなった。
3連休、僕は福岡へ向かった。 連休2日目の夜、天神でご飯を済ませ、公園へ向かった。 夜には雨の予報だったけれど、雨は上がってくれていた。
こうして深夜の大濠公園で話をするのも、 今夜がきっと最後になる。僕は言葉があまりつなげなかった。
池の真ん中の島へと渡る橋を観月橋という。 この日は十五夜で、観月橋のたもとから空を見上げると、 雲の合間から見事な満月が顔をのぞかせた。 「月がきれいだ」
別れ際、これまでのお礼を伝えた。 「何かお別れみたい」という友人の言葉が辛くて、 僕は急いで背を向けた。
*********************************************************** 地下鉄の入り口を出た僕は、 疲れていたし、重い荷物を持っていたけれど、 衝動的に大濠公園へ向かった。
お昼に、一人で、この公園へ来るのは初めてのことだった。 深夜からは想像もできないくらい、たくさんの人が思い思いの 休日を過ごしていた。
池を眺めながら、売店で買ったホットドックを食べた。 そして、1枚の写真を撮った。
********************************************************** 昨夜、僕は、もう2度とこの公園で満月を見ることは ないと思ったし、そう感じていたから、言葉が継げなかったの だということはわかっていた。
羽田行きの飛行機に乗って窓の外を眺めると、 ずっと泣くのを我慢してくれていた曇り空から、 雨が降り始めた。
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