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ゆれるゆれる
by てんのー
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■高野悦子、北村薫、1949年、2003年
消防活動の進化の証。たばこ、台所の不始末に続き、放火が原因の第3位である。
医療技術の進化の証。自殺は死因の確か第3位である。
まったくもう、と嘆いたり、真剣に考えたりするのは気が利かない。全体として火事が減り、死者が減っているのだ。ただの結果である。
もっと喜べよ。
毎年3万人が自殺を実行しながら、その事実が生きている僕たちに訴えかけるものはほんのわずかである。
電車に飛びこむ奴に対しても、また人身事故かよ、ラッシュ時に迷惑なことすんなよ、くらいしか感じない。俺は感じなかった。
小学生だった俺が初めて見た、救急車に乗せられる患者の姿。
「あの人、ショクブツニンゲンだって」
恐かった。風が吹いて、かさかさした白っぽいものが触った気がした。
その後半年くらい、その単語が、友達との間に飛び交っていた気がする。
車輪が乗り上げる、あのくにゃりとした感触の意味がふと蘇ってきて、いきなりおののいたりする。
高野悦子『二十歳の原点』を読む。
僕に影響を与えるのは、30年以上も前に電車に飛びこんだどっかのお嬢さんの日記であり、きのう七輪と練炭を駆使して死んでいった同世代の人間ではない。
頭のいい誰かさんなら、コメントがあるだろう。評して曰く、「どうだい。まるでガラガラと音を立てて今にも崩れそうな文章じゃないか。」
僕たちは頭のいい全共闘世代によって、まさに彼らによって、たたかうことが無意味でむなしいことを頭に叩き込まれてきた。被害妄想? ほう。
一世代前に出された思想について、古臭いとか単純だとか安直だとか、とにかくけなすのはよくない。それは少なくとも創造的態度ではない。
僕はただ単に、彼女がなぜあのように書き、また何を書かなかったのか、についてだけ興味がある。
なぜこの本が大ベストセラーになったのかは明らかすぎて、興味もない。扉の写真の彼女はずいぶん美人すぎる。
決めつけはたいそう馬鹿らしい。文学とは未熟さである、などという文句はその最たるものだ。彼女の死すらネタに見える。といったら怒られるか。
高野悦子とタメである北村薫の『スキップ』を読む。
不覚にも泣きそうになる。
07月23日(水)
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