ID:54909
堀井On-Line
by horii86
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■3083, 哲学人 −1
* 小説の作り方

哲学研究者の、ブライアン・マギー著『哲学人』を、半年がかりで読んでいる。
なかなか難しいが、時どき解りやすい部分もある。分野の違う人の「小説の作り方」も、
小説作法の全くの素人からみると新鮮で解りやすい。 自分の欠けていた部分を満たす作業としての小説も、
読んでいる方も、書いている方も、リアルに感じるだろう。 自分の体験を補充するなら事実に近い
深みのある内容になって当然である。 まずは、その内容から〜
 ーーー
《 私の希望は、相思相愛の果てしない追求だったが、そうした愛を経験したことは一度もなかった。
経験できなかった理由は、私が愛されなかったからではなく、愛さなかったからである。
行き場のない強烈な感情の内海は私のなかでせき止められ、誰かが愛してくれたときでさえ、表に現れることはかなわず、
自由に流れることもできなかった。そのため大きな不満が募り、激しい感情に支えられた衝動が蓄積され、
私はそのはけ口を求めた。 そこで思いついたのが、小説を書いてこの衝動をつぎこむことだった。
その小説のなかでは、大海のごとき感情があふれ出ると同時に癒され、私に欠けていたことが、ある意味で達成される。
それも想像のなかだけではなく、現実のもの、自分の外に存在するもののなかで、である。
私はこれを『ラブ.ストーリー』と名づけようと思った。 驚くべきことに、このタイトルはその時点では
まだ使われたことがなく、少なくとも私の知りあいに過去の例を覚えている者はひとりもいなかったのである。
私の構想では、中心人物は最低でもふたり必要だった。 女と男がひとりずつ、これは当然である。
では、このふたりをどうするか? 単純に、彼らは恋愛中という設定にして、その愛を表現してみるのか?
それだけを二、三百ページにわたって情熱的に語っていくのか? これをうまくやってのけることが想像できなかった
わけではない。 私が、本来の私とは違う作家になれば、それも可能だったろう。
壮大な散文詩、淡々とした、それでいて、たゆまぬ愛の賛歌というわけである。ただし、作品自体がだれることなく
飛翔しつづけるためには、その勢いは単に力強いだけでなく、本質的に詩的でなければならない。
そしてこの場合、私の勢いに力はあるが、詩情はないとわかっていた。 この本の背後にある衝動は、何よりも
まず心理的、感情的なものだった。 私が探していたのはリピドーのはけ口だったのである。
それに、私にとって自然なはけ口とは、叙情的であるよりむしろ劇的であるべきだろうと感じてもいた。
波乱に富んでいて、望むらくは力強いものでなければいけないのだと。 しかし、だとすれば本のなかで何か
たいへんなことが起こらなくてはならない。 そして、このたいへんなことが本の内容に大きくかかわるのだとしたら、
恋愛関係に影響を及ぼすものでなければならないだろう。 さらに、それがささいなことでないとしたら、
重要なことでなくてはなるまい。いずれにしても、劇的な効果をあげるにはそうである必要がある。
考えれば考えるほど主人公たちの恋路を邪魔するもの、なんらかの障害でなければならないという思いが強くなっていった。
いわゆる三角関係についても、思いつくかぎりの可能性を検討してみた。だが、そのうちのどれかが読者の心を
つかんだとしても、本来無条件であるはずの主感情に制限を設けることになってしまう。 それは避けたかったので、
別の登場入物を巻きこまずとも、彼らの恋愛にとって大きな現実の脅威となるものを考えてみた。
浮かんできたのは、重大な病気や事故というアイデアだった。 》
 ーーー
ここで、著者は「相思相愛」の経験が無かったと正直に告白している。
そのリピドーのはけ口を『ラブ・ストーリー』にしたのだと。  相思相愛?の恋愛結婚をした人は、
そのまま、脚色をすれば小説になる。  が、本当に面白いのは、著者の方だろう。
所詮は共同幻想、いや自己幻想、いや他幻想だから、『達成したことに何かを付け加えるより、達成できなかった

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09月13日(日)
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