ID:54909
堀井On-Line
by horii86
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■1882, 新潟県活性化案−2
ここにも娼婦らしい若い女がいて、女将さんとしきりに話している。
昨夜の客が、昔遊んだ女を覚えていて、その女のことをしきりに尋ねたらしい。
ひんがら眼の女らしいけど、おばさんは知っているか、と尋ねていた。
女将は、ひんがら眼なら3〜4人は知ってるが、誰かなと興味なさそうだった。
私はその女の話を聞きながら、この娼婦と遊んだ男は、長い間、
ここに姿を見せなかったのだろう、と思った。
その間、男は何をしていたのか、刑務所にいたのだろうか、
飯場を転々としていたのだろうか。
そんなことを考えながら飲んでいると、小説を書きたくなった。
実際に、飛田界隈は不思議なところで、飲みに行くと、
必ず創作意欲が湧くような人物にあったり、そういう話を聞く。
これは他の場所では、殆ど味わえない。つまり、飛田界隈には、人間の原液が、
そのままの姿で流れているせいかもしれない。
某月某日
このところ賭け事につきはじめているので、久しぶりに競馬でもやってみようと思い、
近くに住んでいる新橋遊吉君に電話をして競馬に引張りだした。
新橋君は競馬の専門家である。
作家になる前は、競馬で飯を喰っていたような男だから、私も心強い。
仕事がオーバーだったので、競馬で勝ったら夜は大散財をしてやろうと思い、
いき込んで阪神競馬に出かけていったが、結果は損得なしであった。
新橋君も同じである。
競馬の帰りに、キタの新地で飲んだ。競馬でいささか興奮したせいか、酔いが廻り、
大声で歌った。最近は酔うと歌うのが楽しみである。
ハッキリ言って歌は下手だ。
それなのに歌うのは、得もいえなく自己陶酔を覚えるからである。
だから聞かされるものは実に迷惑に違いない。
そのため私は、行きつけの店にマイクを二本寄付をしている。
酔って歌い、よい機嫌になって、午前二時頃、新橋君と大阪読売の角にある屋台の
ウドンを喰いに行く。この屋台は手打ちウドンが実に旨い。
黒門市場の狐ウドンは余りにも有名だが、この屋台も味は負けない。
私は音を立ててウドンの汁を吸った。ウドンなどというものは、音を立てて食べる
ところに味があるので、これが出来るのは屋台に限るようだ。
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田中小実昌
ーわめき酒
某月某日
新宿花園街の「まえだ」で飲んでいると、佐木隆三が入ってきて、
「コミシャーン」とぼくのからだを抱き上げた。
佐木さん沖縄に行っていて久しぶりだったのだ。
ところが、ぼくを抱き上げただけで、後は面倒をみず、手を離した。
おかげで、ぼくはほうりだされたカッコになり、木の角に脛をぶっつけ、青く腫れ上がった。
澁澤幸子さんも来て、歌をうたう。
澁澤さんのテーマ曲は「アッツ島玉砕の歌」。
そのほか、ナツメロ、シャンソン、なんでも歌う。
流しのアコーデオンのマレンコフは、いつもの大サービスで、何十曲歌ったかわからない。
渋澤さんは、度胸がある。なんてケチなものでなく、育ちがよいせいか、にんげんを
怖がらない。
はじめてあった夜、新宿南口のおっかないところにつれてったらちょうどガタついている
最中で、ガラスがこわれ、かなりの血がながれたのか血なまぐさく、ところが、
幸子さんはコウモリを逆手に持って、「やれやれ」とけしかけ、ぼくはあわてた。
某月某日
歌舞伎町の「かくれんぼう」でミイ子とあう。
ミイ子は学生だが、何かの雑誌で川上宗薫と対談したことがあり、そのあと、
ぼくと飲んで、
「感度だとか、構造だとか、肌のきめぐあいだとか、川上先生は、ぜんぜん、
女をわかっちゃいないのよ。あんな男はフンサイだわ。断固、フンサイ!」と
ぼくと意気投合したことがある。
ところが、たまたま、包茎のはなしになると、
「ホウケイってなあに」とミイ子はなにも知らないんだ。
ホウケイで思い出したが、石堂淑朗は、三光町の飲み屋へ、
ぼくが惚れてる女のところへいって、「いっぺんヤラセロ」と
しつこく言っているらしい。
石堂はやたらでかいせいか、ナマケモノで、もてないものだから、
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05月29日(月)
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