ID:51752
原案帳#20(since 1973-)
by 会津里花
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■
亮介 おとうさん!帰りました!
由央 おお、亮介!帰ったのか!話してくれ、外で一体どんな体験を積んで来たんだ?
亮介 家を出て、すぐ盗みをして捕まりました。少年院は辛かったなあ。出所して、今度は人を殺して捕まりました。えっ?保護者?そんなもの居ないと答えちゃったよ。どうにかこうにか出所して、今度は日雇いの労務者になりました。楽しかったですよ。落ちて来る鉄筋の下敷になりそうだったこともあったし、有毒なガスが何処かから漏れて意識不明になったこともありました。
由央 おお、凄い!…何という生活だ!
亮介 そのうち、職を失いました。上野公園でゴロゴロしていました。夜になるといろいろな人間が現れて…ほんとうに楽しい毎日でした。
由央 よく生きていられたなあ!えっ?凄いじゃあないか!
亮介 いえ、驚く程のことではありませんよ。全部嘘ですから。
――亮介は、ふと立ち上がり、由央の真正面に立ち、由央を凝然(じっ)と見つめる。――
由央 あっ!おまえは…いや、誰でもそんなふうに見えるらしいな。この間だって、良子が、…ああ、いや、そんな筈は無い。
亮介 言ってください!僕は、一体何者なんですか?
由央 嫌だ!
亮介 いや、言うんです!僕は、一体何者なんですか?
由央 おまえは…嫌だ!
亮介 言って下さい!(興奮し、涙を流し)早く、僕は、何ですか?早く!
由央 おまえは、おまえは、…おまえは…
亮介 さあ!わたしは、あなたの、何なんですか?言ってください!
由央 おまえは…おまえは私の妻だ!涼子っ!
亮介(ないしは涼子) そうです、あたしは涼子です!(言うなりばったりそこに倒れる。)
暗 転
風景、変わらず。相不変(あいかわらず)普通の部屋。由央が煙を不安そうにふかしながら、何か考えている。傍には亮介が倒れている。
由央 また、妻を見出してしまった…。あの涼子は、熱い涼子だった。私の幻影か?それとも、涼子が、涼子の霊が姿をあらわしたのか?一体、何だろう…?
――亮介が起き上がる。――
亮介 (涼子の声で)あなた…あたし、生き返ったのよ。ねえ、あなた…
由央 おまえはやっぱり妻の涼子か?…ああ、そうだ。月光の中にいるようだ…しかも、おお、虚しさがない!故意に亮介に憑りついたのか?
涼子(亮介の姿の) えっ?この体、亮介なの?ああ、亮介…(泣きながら)この子には、ほんとに辛い思いをさせてしまったわ。赦してちょうだい…
由央 (涙を一滴)いや、私のほうが罪が重い。私は、この手でおまえを死なせたのだ。
涼子 (嗚咽)いえ、…そんなこと、もう…いいのよ。あたしは、わずかでも…あなたに…会えて…良かっ…た…(声は消え、亮介倒れる。そして退場)
――そこに、亮介と殆ど入れ違いに良子が入って来る。――
良子 叔父さん、また来たわよ。
由央 おまえは涼子だろう。
良子 いいえ?どうしたの、一体…あなた…
由央 わっ!やっぱり憑いている…
良子 冗談よ。何をそんなに怖がっているの?(またピアノを弾き始める。弾きながら、)ねえ、伯母さんて、どんな人?亮ちゃんのお母さん。
由央 えっ伯母さん?…どうして、そんなこと尋ねるんだい?
良子 何となく、聞きたくなったの。
由央 (独白)やっぱり憑いているのか?
良子 (涼子の声で)うふふっあなた、あたしは涼子よ。あなたに会いに来たのよ。あなたに…
由央 (瞳孔は大きく開き、冷や汗を流し、四肢は震え、)な、何んだ…一体…私を…おれを、…からかう気か?うるさい!消え失せろ!
――その瞬間、閃光――
暗 転
牢獄。囚人服を着た由央がすみの方にうずくまっている。
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05月29日(月)
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