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原案帳#20(since 1973-)
by 会津里花
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自転車で高校まで通うことになったとき、「やばい」と思った、マジで。
案の定、ほとんど「毎朝」って言ってもいいぐらい、俺は登校路を間違えた。
初日、町の東の端にある高校へ行くつもりが、気が付くと西の海岸のあたりまで来ていた。
おかしいと思って、2日目はしっかり道順を聞いておいて、目印なんかも確かめながら行ったのに、いつのまにか目印が見当たらなくなっていた。
戻ろうと思って今来た道を引き返したのに、次に気が付くと、さっき通ったのと違う道を走っていた。
学校に到着したら、1時間目が終わろうとしていた。
で、2度続けて遅刻しちゃったから、3度目は道に迷っても遅刻しないように、30分も早く家を出た。
前の日は1時間半ぐらい迷ったので、「30分」でいいかどうか、心配だったのだが……。
そうしたら、ぜんぜん道に迷わずに、学校に着いてしまった。
まだ誰もいない校舎が妙に新鮮で、俺は図書室とか音楽室、美術室なんかがある建物の端の方を歩いて回った。
教室だと、先輩の中に入っていくのは怖かったし、2日続けて遅刻したのを見られているやつらに「今日はやけに早いなあ」と冷やかされるのもいやだったから、始業まで人がほとんどいないままのところを選んで見て回ったのだ。
ところが、最上階の音楽室にいたら、始業のチャイムが鳴った。
鳴ってから1階の自分の教室まで降りていったのでは、間に合うわけがないじゃないか!
……というわけで、3日目も遅刻みたいなものだった。
迷子になるパターンはさまざまだった。
太陽の見える方に向かって走ればいい、と思って実行してみた。
そしたら、いつのまにか高校を通り過ぎて、もっと東に行っていた。
父に地図を描いてもらって、目印を通過するごとにチェックを入れた。
なのに、必ずどこかで目印がいつまでたっても出てこなくなるのだ。
日曜日、父の車に乗って通学コースを走ってもらった。
どの目印も―コンビニは同じ看板の店が多いから、必ずその隣の店や家の様子もセットで―見間違えてはいなかった。
週が明けると、また30分早く家を出た。
また、迷わなかった。
今度は、学校に着いてからフラフラして失敗するのがイヤだったから、文庫本を持って行って、席につくなりそれを読み始めた。
いつのまにか、小説の内容に没頭していた。
始業のチャイムが鳴ったのでようやく我に返ると、俺の席の横に女子が一人、半分泣きそうになって立っている。
「そこ、……あたしの席なんだけど……」
俺は隣の教室に来ていたのだった。
2週間たって、どうやら「30分早く家を出る」と、少なくとも学校へは迷わずに到着してしまう、というパターンに気が付いた。
もうちょっと遅くてもいいだろうと思い、25分早く家を出てみた。
そうしたら、やっぱり迷った。
でも、このときはギリギリで遅刻しないで学校に着いた。
20分早く出たらどうなるか。
やっぱり迷った。しかも、遅刻した。
35分早く家を出た。
迷わなかった。
けれど、やっぱり学校に着いてからが大変だった。
早く着くと、油断してしまうのだろうか。
友人と一緒に通うようにしようか、とも思った。
ところが、友人宅を探して迷子になってしまった。
「待っていた俺まで遅刻しそうになっちまったじゃねーか!」
そいつは二度と一緒には行ってくれなかった。
別の友人に、家まで迎えに来てもらうことにした。
ところが、その友人は、俺と一緒に迷子になってしまった。
「ひょっとして、おまえも方向音痴?」
「バカヤロー、俺は今まで迷子になったことなんかねーんだよ!!」
そいつも、二度と俺と一緒に通学してくれることはなかった。
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05月14日(日)
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