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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■医学の価値+宗教の価値=AAの価値?
英語のAAの文章を読んでいると、時々 coincidence という言葉に出会います。インシデンスは発生という意味です。co というのは「一緒に」という意味ですから、コインシデンスは「同時発生」あるいは「偶然の一致」という訳になります。
この言葉がAAの歴史に対して使われる場合には、12ステップの成立に先んじて起きたさまざまな出来事に対して使われます。もしその出来事が起きなかったら、AAが成立しなかった、もし成立していたとしても今とは全く違った姿をしていただろう、という出来事を指して使われます。
ローランド・ハザードが会いに行ったのがカール・ユングだったこと。これも coincidence のひとつです。
当時のヨーロッパには他にもジークムント・フロイトやアルフレッド・アドラーがという精神医学の権威がいたにもかかわらず、なぜかハザードはユングを選びました。僕は精神医学に詳しいわけではありませんが、フロイト、ユング、アドラーの3人の中で、唯一ユングだけがスピリチュアル(霊的)なことの価値を認めていたと言います。ハザードがユングを選ぶ偶然がなかったら、AAは成立しなかったわけです。
ビル・Wが、1930〜40年代のアメリカの状況について、こう書いています。
> 精神医学のいくつかの学派を代表する探究者たちの問には、この新しい発見の真の意味をめぐって、当然、かなりの意見の相違があった。一方でカール・ユングの弟子たちは宗教的信仰に価値と意味と現実性とを認めていたが、当時の精神医学者の大多数はたいてい、ジークムント・フロイトの説を固守していた。その説とは、宗教は人間の未熟さゆえの苦しみを和らげる空想であり、人が近代学問の光の中で成長したときには、もはやそのような支えは必要としないであろう、というものだった。(『AA成年に達する』 p.4)
ビル・Wは、彼自身がAAの原理を創造したのではなく、医学と宗教から考えを借りて作り上げたに過ぎないと言っています。結果としてAAは医学でもなければ、宗教でもない存在になりましたが、AAの源流が医学と宗教の両方にあることは強調しておきたいところです。
AAは、医学という点ではカール・ユング、ウィリアム・シルクワース、ハリー・ティーボウらの、宗教という点ではリチャード・ブックマン、エドワード・ダウリング、サミュエル・シュメイカーらの影響を受けています。
AAの価値を理解するためには、医学の価値と宗教の価値の両方が分かっていなければなりません。多くの人は医学の価値を認めています。なぜなら、幼い頃から医者にかかったことがない人はまずいませんから、誰もが医学の世話になって、何らかのかたちで自分が救われたという経験を経ているからです。医学の価値は経験的真実として皆の身に沁みています。
ところが、宗教によって何らかのかたちで自分が救われた経験を持つ人は、(少なくとも現代の日本においては)かなり少ないのです。なぜなら困ったときに宗教の世話になろうという人が少ないからです。
戦前の日本について当時の外国人が書いた文章を読むと、日本人はたいそう信心深い民族として描かれています。現在でも街のそちこちに神社仏閣という宗教施設がたくさんあり、人々は誕生・結婚・出産・死亡という節目に、さらに年始にまで宗教施設を訪れて熱心に祈りを捧げています。そのように極めて信心深い民族であるにもかかわらず、今の日本人は宗教を頼ろうという意識は薄く、むしろそれは危険であるとすら感じる人が目立ちます。
戦前は内面でも行動面でも信心深かった日本人が、戦後になると行動面では信心深いものの、内面では宗教を忌避するようになったのはなぜか。それは敗戦後の日本を占領したGHQの方針によるそうです。
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09月24日(火)
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