ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■もちろん「底つき」は必要ですとも(その2)
(続きです)

さて、12&12のページを先に読み進めると「底つき」について書かれています。最近では底つき不要論も出てきて、AAの本に「回復には底つきが必要だ」と書かれているのは古いんじゃないか、という指摘もあります。しかし、それについて話をしようにも、

「底つきとは何か」

という共通理解がないと、話がかみ合いません。少なくとも「AAの本では<底つき>はこういう意味で使われています」ということをハッキリさせないと、それぞれ違う底つきについて話してしまい、かみ合うはずがないのです。

では、底つきとは何か。AAができたばかりの頃は、重症で「死にかけ」の人たちしかAAで助からなかったと書いてあります(12&12 p.31)。

これは「どん底のケース」low-bottom case、底つきが深い人たちの話です。AAが始まった頃は、そういう人たちしか助かりませんでした。これが、仕事や家族や財産などを失わなければ「底つき」できないという誤解につながったのでしょう。

しかし、この本(12&12)はそうした「何かを失う底つき」の必要性を明確に否定しています。

ところが驚くべきことに、それから数年で、事情がすっかり変わった。まだ元気で、家族もいて、仕事も失わず、そのうえガレージには車が二台もある、といったアルコホーリクたちも、自分のアルコホリズムを認めはじめた。この傾向が広がって、まだほとんど潜在的アルコホーリクと言ってもよいような若い人たちも加わった。この人たちは、私たちが通った、文字通り地獄の十年ないし十五年を経験しないですむようになった。ステップ一は、思い通りに生きていけなくなっていたと認めることを要求しているのに、この人たちはどうやってそれを実行できたのだろうか。(p.32)

何も失わなくても底つきはできる、とハッキリ述べています。そのためにどうすれば良いか。それはAAメンバーが新しい人に対して、自分が気付いたよりずっと以前から、すでに飲酒のコントロールが効かなかっていたこと、それはアルコールによる死の始まりだったことを伝えれば良い、としています。

それを伝えるためには、新しい人に「渇望現象と強迫観念」の二つをしっかり伝え、あなたももうこの悪循環に陥っているのじゃないか、と問いかけることが必要です。そして、それに同意しない人を無理矢理説得する必要はないとも書かれています。

このような受け止め方はすぐに具体的な効果を示した。一人のアルコホーリクの心に、もう一人のアルコホーリクがその病気の本質を植えつけたなら、その人はもう以前と同じではありえない。それが分かったのだ。それ以後、飲むたびにその人はこう考えるだろう。「ひょっとすると、あのAAの連中の言う通りかも」。そしてこういう経験を何回か繰り返し、最悪の状態になる何年も前に、納得して私たちのところに戻って来る。その人も私たちと同じように本当に底をついたのだ。

「アルコホーリクの心にその病気の本質を植えつける」というのもビルの修辞ですが、これは新しい人に「渇望現象と強迫観念」の二つをしっかり伝えるということです。

新しい人はこれが「その二つは自分には当てはまらない」と否定するかも知れません。そして、適量の酒を飲み続けようとするでしょうが、渇望によって飲酒のコントロールが効かないし、強迫観念があるため自力での断酒も続かない。そこで「ひょっとすると、あのAAの連中の言う通りかもしれない」と考えて、納得してAAに戻ってくるでしょう。

これは基本的な介入技法の提案です。まずこの病気についての基本的な情報を教えること。相手がそれに納得すればAAに留まるでしょうし、納得できなければAAを去り、節酒あるいは自力断酒にチャレンジするでしょう。それに失敗し続けたとき、私たちが伝えた情報が生きてきます。AAを拒む人を無理に説得する必要はなく(病気の本質を伝えさえすれば)あとはアルコールがその人を説得してくれるとしています。

「アルコールは偉大な説得者だった。アルコールはとうとう私たちを打ち負かし、正しい状態に叩き込んでくれた」(AA p.70)


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06月14日(金)
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