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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■書評:ギャンブル依存との向きあい方(その1)
書籍『ギャンブル依存との向きあい方』の評を何回かに分けてお送りします。

本人・家族・支援者のための ギャンブル依存との向きあい方
 〜一人ひとりにあわせた支援で平穏な暮らしを取り戻す
認定NPO法人ワンデーポート/編
中村努・高澤和彦・稲村厚/著
明石書店
http://www.akashi.co.jp/book/b102419.html

僕らは「ギャンブル依存症」という言葉を使いますが、まだそれは依存症として完全に認知されたわけではありません。病気の国際的な診断基準(IDC-10)でも、アメリカ精神医学界の基準(DSM-IV)でも、依存症のカテゴリに入れられているのは、アルコールその他の薬物だけです。

(病的賭博は別の「衝動制御の障害」というカテゴリの中に、窃盗癖や放火癖と一緒に入れられています。2013年に発表される予定のDSM-5では、アディクション(嗜癖)というカテゴリが設けられ、そこにアルコール薬物依存と一緒にギャンブル依存も入る予定ですが、反対もあるようで蓋を開けてみなければ分かりません)

医学が保守的に構えている一方で、当事者のほうは先に走り出していました。1957年にはアメリカでギャンブラーズ・アノニマス(GA)が始まり、家族のためには翌1958年にギャマノンが始まっています。(それぞれ1989年、91年に日本でも始まっています)。そこではアルコールや薬物と同様に、12ステップを使った解決が提案されています。

AAの12ステップとGAの12ステップの間には微妙な違いもありますが、基本的に同じ手段が使えるということは、アルコールがやめられないのも、ギャンブルにハマるのも「同じアディクションであろう」という考えにつながります。

人がハマるのはアルコール(薬物)やギャンブルだけではありません。セックス、買い物、ネットなど、様々なものにハマるのも「依存症」であると考えられ、20世紀後半には様々なグループが誕生していきました。そうした当事者活動の観察から、「依存症」を三つに分類するコンセプトが生まれました。

1. 物質依存・・・・(アルコール、薬物)
2. プロセス依存・・(ギャンブル、買い物、セックス、ネット、食べ物)
3. 人間関係依存・・(共依存)

※食べ物を物質依存にカテゴリする場合もありますが、ここではプロセス依存に分類しました。

こうして最初はアルコールと薬物だけだったアディクションの概念が、次第に拡大されていくことになりました。たくさん誕生した新しい「依存症」が、本当にアルコールや薬物の依存症と同じ仕組みの病気なのか、同じ手法が使えるのか、検証されることはなく、援助職や当事者の分野で、依存症概念の拡大はほぼ無批判に受け入れられていきました。

また、依存症概念が拡大されていった時代は、アルコール依存の援助の中で発見された概念が普及した時期でもありました。その概念を象徴するのが、イネイブリング理論、底つき理論、タフラブ、直面化などのキーワードです。これらの概念やキーワードも、プロセス依存や共依存の分野に普及しました。

現在、アルコール・薬物の分野では、イネイブリング理論や底つき理論の有効性への疑問が出され、MATRIXや動機付け面接など新しい手法が提唱されています。ただ、その話は別の機会にしましょう。

ここで取り上げたいのは、アルコールだったりギャンブルだったりと対象が違っていても、同じ仕組みの病気なのかどうか。もっと話を進めて、同じギャンブルに「依存」している人が全員同じ仕組みの病気なのかどうか。そのことを突き詰めて考えることをせず、みんな同じ依存症と捉えていたのではなかったか。そして、同じアプローチが使えると思っていなかったか、ということです。


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01月09日(水)
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