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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■助けにくい人たち
あまり雑記を更新しないままだと叱られるので、軽いテーマで。
昨夜はステップミーティングでした。ステップ12。どうやって新しく来た人にAAのメッセージを運んだらいいか。もしそれが分からないのなら、自分がAAに来た頃に、どうやって「先ゆく仲間」から助けられたか思い出せばよいのです。たぶん忘れているでしょうけれど。
AAの序文はこういう文章で始まっています。
「アルコホーリクス・アノニマスは、経験と力と希望を分かち合って共通する問題を解決し・・・」
共通の問題とは何でしょう。ミーティングにやってくる人は、男もいれば女もいます。職業も学歴も家族構成も様々で、どこに共通点があるのか。
僕が初めてAAグループに属したとき、そこには3人のメンバーがいました。一人の男性は中卒のヤクザで両手の小指がありませんでした。彼はキレると、男が二人がかりでないと止められない「狂犬」と呼ばれた男でした(後に彼は僕のAAスポンサーになってくれた人であり、まさに恩人です)。もう一人の女性は、彼が精神病院入院中につかまえた奥さんで、やっぱりアル中でした。もう一人の男性は、高速道路のサービスエリアにおみやげ物のお菓子を補充して回る職業でした。年若く世間知らずだった僕は、そんな職業があることを初めて知りました。
そこに僕がやってきました。ビックブックには「私たちはふつうなら出会うことさえもなかった者同士だ」とありますが、まさにそんな感じでした。いったいこの4人にどんな共通点があったのでしょう。
彼らは「かつてどのようであったか」。つまり酒を飲んでいた頃はどのようだったかを話してくれました。僕もたいていの人と同じように、最初の頃は「自分はこの人たちほど重症じゃない」と思っていたものですが。
でも、何ヶ月か経った後に、「もう俺たちは気持ちの良い酒なんて飲めないんだぜ」と言われたときに、僕もその通りだと認めざるを得ませんでした。飲み始めの早い時期は気持ちの良い酒を飲めたのですが、飲んでいた最後の頃は、確かに酔っぱらいはするのですが、全然気持ちよくありませんでした。それでも酒がやめられませんでした。そして、いまは飲んでいなくても、やがて酒に手を出す可能性が高いことも認めざるを得ませんでした。
AAにやってくる人は「アルコールの問題」を抱えています。それが「共通の問題」です。ミーティングではそれを話さなくちゃなりません。
酒がやめられないと言う人もいるでしょう。また飲んでしまったという人もいるでしょう。そういう人をAAメンバーは叱ったり、説教したりしません。かわりに「私もあなたと同じだった」と言うのです。でもいまは飲んでいないことは相手にはわかるでしょう。すると相手は「どうやって問題を解決したのか」と疑問を持つようになります。アドバイスに効き目が出てくるのは、それからです。
AAミーティングは「自分の背中のほくろを見る作業」だと言われます。背中のほくろは直接見ることはできません。自分の顔だったら鏡を使えば簡単に見られます。けれど背中のほくろは鏡を使っても難しい。2枚使えば良いと言われるかもしれませんが、実際やってみるとこれが意外と難しいものです。
だから僕らは、ミーティングではつまらないプライドという服を脱ぎ捨てて、自分の背中を相手に見せるのです。つまり飲んでいた頃の過去の話をします。「ほら、俺の背中はこうなっているんだぜ」と。すると相手はこう思うかも知れません。「あいつの背中がこうなっているのなら、俺の背中も同じかも知れない」。
自分の抱えている問題というのは、それほどまでに直視するのが難しいものです。だから、こういった技法が必要になるのです。
9月に松本俊彦先生の講演を聞きました。依存症者は援助希求能力が低いという話でした。援助を求める能力が低い。助けてくれと言えない人たちです。
これから年末は町に酔っぱらいが増えます。酔っぱらいに「大丈夫か?」と尋ねてみれば、「らいじょうぶ、らいじょうぶ、れんれんらいじょうぶ」という答えが返ってくるでしょう。全然大丈夫じゃないのにね。でもこれは酔っているからだとお考えかもしれません。
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12月20日(火)
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