ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■ステップ4の訳のmoralについて
AAの12のステップの4番目は、原文ではこうなっています。
Made a searching and fearless moral inventory of ourselves.
で、現在の日本語訳はこれです。
「恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行い、それを表に作った」
日本語訳と原文を対比してみると、moral という言葉が訳から抜け落ちていることに気づかれるでしょう。だからこれが不完全な訳であり、「モラル」という言葉を入れるべきだという指摘があります。
今回はこの moral がどんな意味なのかという話です。
その前にちょっと脇へ逸れ、この部分が日本の様々な12ステップグループでどう訳されているか調べてみましょう。ネットに12ステップを公開しているグループの moral inventory of ourselves の部分です。
・自分自身の棚卸し(現AA・OA・SA・SCA・EA・ACA)、生きてきたことの棚卸表(アラノン)、モラルの棚卸表(NA)、モラルの棚卸し(GA)、個人的棚卸し(MA)。
実に様々です。さて、moral の意味を問う前に、棚卸しとは何かという話をしなくてはなりません。これはもちろん商売の棚卸しを元にしたものです。ビッグブックには、それを説明した文章があります(p.93)。
Taking commercial inventory is a fact-finding and a fact-facing process. It is an effort to discover the truth about the stock-in-trade.
棚卸しは、事実を把握し、それに正確に向き合おうとする過程であり、在庫品の現状を知るための努力である。
日本語英語の言葉をを一対一に対比させてみましょう。
棚卸し = commercial inventory
事実を把握する = fact-finding
正確に向き合う = fact-facing
在庫品 = stock-in-trade
現状 = truth
これはステップ4の文章「恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行い、それを表に作った」に対応しているので、それも同じように日本語英語を対比させます。
棚卸し = inventory
探し求め = searching
恐れずに = fearless
自分自身 = ourselves
= moral
moralに対応する言葉がありません。日本のAAは2000年にステップの文章を改訳しましたが、それ以前に使われていた旧訳ではこうなっています。「探し求め、恐れることなく、生き方の棚卸表を作った」。生き方という言葉が moral に対応しています。
(生き方) = moral
一つにまとめます。
棚卸し(commercial inventory) = 棚卸し(inventory)
事実を把握する(fact-finding) = 探し求め(searching)
正確に向き合う(fact-facing) = 恐れずに(fearless)
在庫品(stock-in-trade) = 自分自身(ourselves)
現状(truth) = (生き方)(moral)
商売の棚卸しと、ステップ4の棚卸しが、一対一に対比された表ができあがりました。ビル・Wの文章は論理的です。
この表を見ると moral が何を意味するかが見えてきます。ステップで言う moral とは、日本語のモラルや道徳という意味ではなく、「自分自身の現状」「自分自身の真実」を示しています。fact-finding も fact-facing も truth も、一つのことを示しています。
つまり、自分自身について、目を背けることなく、ありのままを表に書き記す。棚卸し表は回復の根源をなすものですから、そこにウソ偽りやごまかしがあっては回復の成果はおぼつきません。(だから、どうしても moral を訳せというのなら「ありのまま」とでもするしかありません)。
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11月11日(金)
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