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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■断酒の覚悟 vs. 行動
先月はAAのメッセージ活動で初めて刑務所内に入りました。今月は病院メッセージの輪番にあたっていて、県内の病院に行きました。精神病院には独特の匂い(病院臭)が漂っているものですが、ここは建て替えられたばかりですがすがしい感じです。その状態が今後も保たれるのかどうか関心があります。
さて、病院メッセージでは、AAメンバーが病院の一室にお邪魔し、入院中の依存症患者の人がそこへやってきて話をします。形式は様々で、病院の治療プログラムにしっかり組み込まれて患者の参加が強制されている場合もあれば、部屋をAAに時間貸ししているだけで患者が参加するもしないも自由という病院もあります。
中身もいろいろで、普通のAAミーティングに近い形式だったり、一方的にAAメンバーがしゃべるだけだったり、決まった形式はありません。
僕が担当するときは、終わる前に質疑応答の時間を設けることにしています。入院中の人は聞いてみたいことがたくさんあるわけですから。今月は僕が司会進行役ではなかったのですが、やはり質疑応答の時間が設けられていました。
その中で「ノンアルコールビールは飲んでもいいのか?」という質問が出ていました。それへの回答は省きます。その後で、質問された方自身が自問自答され、「ノンアルコールビールのことを聞くなんて、私はまだまだ(断酒の)覚悟が足りませんね」とおっしゃってました。それはつまり、まだ酒を飲みたい未練があるからこそノンアルコールを話題にしてしまうわけで、そんな中途半端な気持ちでは自分は酒をやめられない(再飲酒してしまう)かも、という不安の吐露であったことでしょう。
ノンアルコールビールに関心を寄せるのは、酒がまだまだ飲みたいからである・・・それは確かにその通りでしょう。じゃあ、酒への未練を断ち切って、断酒の覚悟を決めれば酒がやめられるのでしょうか? その答えはどうやらノー(否)らしいのです。
アメリカで1935年にAAが誕生する以前にも、様々なアルコホーリクのグループがありました。しかしそのどれもAAほど大きく成長できず、多くは消えていきました。なぜAAが成長できたのか、AAとそれ以前のグループを比較して論じている人たちがいます(ウィリアム・L・ホワイトとかアーネスト・カーツとか)。
今まで酒を飲んでいた自分を悔い、酒を断つ固い決心をする・・これをAA以前のグループは改心(reform)と呼び、どうやったらアルコホーリクにこの改心を呼び起こさせるかに腐心しました。しかしこの覚悟・決心・改心には欠点があります。「酒をやめるのは簡単だよ、俺はもう何十回もやめている」というジョークがあるように、覚悟では再飲酒を防げないからです。
そこでAAは戦略を変えました。AAに参加する資格は「酒をやめたい願望」だけですが、その願望ですらそれほど強く求められていないことは、現在AAにいるメンバーの多くが、AAにやってきた頃はそれほど酒をやめたいとは思っていなかった事実が証明しています。断酒の覚悟を語る言葉は信用されません。固い決心をしてもまたいずれ飲んでしまうのがアル中だからです。
その代わりAAは行動が大事であると説きます。行動とは、例えばAAミーティングへの出席です。話す言葉ではなく、ミーティング会場への登場を信用するわけです。そしてやがて行動がその人の気持ちを変えていきます。(ステップ3でも決心は求められていますが、それは断酒の決心とは別のものです)。
もちろんAAが成功した理由は他にもいろいろあるでしょうが、この改心の哲学から行動重視の哲学への転換はきっと大きな部分を占めているでしょう。
アルコール医療にたずさわっている人たちからよく聞かれる質問があります。「どうやったら入院中の患者さんたちに、AAメンバーのような断酒への意欲を持ってもらえるでしょうか? あなたの場合はどうでしたか?」という類です。
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11月14日(月)
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