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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■After 311
ホームページにも載せていますが、4月2日は国連の定めた自閉症啓発デーで、この日から4月8日までが発達障害啓発週間となっています。4月2日には厚生労働省と日本自閉症協会の主催でシンポジウムが開催される予定でしたが、地震の影響で延期されました。

地震の影響が及んだのはシンポジウムだけでなく、NHK教育の番組「福祉ネットワーク」で前の週に大人の発達障害の特集が放映される予定でしたが、これも延期されました。いつになるかと気を揉んでいたのですが、ちょうど一週間遅れで今週放映になるので、今夜から見るのを楽しみにしています。第1回に登場するテンプル・グランディンは僕の現在最も敬愛する専門家であり、その著書は僕にとっての教科書となっています。

阪神大震災の時もそうだったのですが、こうした大きな災害や事件が起こると、世間の関心はそれによるPTSDに向かってしまいます。長期的に見ればそれによって増えた依存症に目が向いていくでしょうが、それまではアディクションや発達障害への関心が薄まってしまうことを懸念しています。

原発事故に関しては「日本政府の情報公開が足りない」と国民からも諸外国からも言われています。それはその通りだと思うし、隠蔽されている情報はあるでしょう。ではすべての情報を公開すべきかというと、僕は必ずしもそうは思いません。例を挙げます。

統合失調症は人口の約1%が罹患する病気です。遺伝とやや関係があるものの、この病気から完全に安全でいられる人は一人もいません。この病気が恐ろしい病気だと思われているのは、幻覚や妄想や興奮の印象が強いからでしょう。しかし激しい陽性症状は実は予後良好の予兆です。

この病気の1/4は完全に治癒します。病気で大学を休学したけど、完治して復学、数年会社勤めをした後に結婚して出産、幸せに暮らしている・・服薬も通院も必要なく一生再発もしない、という例は山ほどあります。また1/4は完治はしないものの、服薬と生活上の注意をすることで、普通と変わらない生活をすることが可能です(社会的治癒)。

また1/4はときどき入院治療が必要になるものの、他の期間は外で過ごすことができます。しかし残念なことに1/4は、次第に無気力になり、感情が乏しく、人との交流をしなくなる人格的荒廃(末期状態)へと向かってしまいます。医者がどうがんばってみても、一定数の荒廃は避けられない。これは現代の医学の限界です。

しかし最近の研究では、発病後最初の5年間にきちんと治療することで、治癒の割合を増やし、荒廃を少なくすることができると分かってきました。早期発見・早期治療が有効な病気なのです。

近年インフォームド・コンセントということが言われます。病気に関する正確な情報を伝え、患者自らが同意して治療法を選ぶというものです。しかし、それが最善とは限りません。しばしば起こることは、統合失調の病名の告知によって、本人や家族が治療を中断してしまうことです。この病気に染みついたスティグマ(偏見)や激しい陽性症状や荒廃が与える「恐ろしい病気」という印象が、当事者を否認へと導いてしまいます。そうして精神科に近寄らないとか、症状を隠して別の医者にかかりうつ病として治療を受ける・・、こうして貴重な最初の5年間が失われます。統合失調の人の2割は自殺するそうですが、自殺の多くは最初の5年間に起こります。適切な治療が行われていれば、それは防げるはずです。

(実際にはアルコール依存症の方がよほど回復率の悪い恐ろしい病気だと思う)。

すべての情報を知らせ、それを受け取った人がめいめいに判断する。それは理想的な考えです。しかし、情報を受け取る側の人間はコンピューターのように機械的なデータ処理ができるわけではありません。人間は感情を持った動物であり、その判断は常に感情に左右されています。


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04月04日(月)
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