ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■翻訳権の十年留保
交野市断酒会 をリンクしました。
「翻訳権の十年留保」というのは、先進国から後進国への文化の輸入を促進するために、先進国側の著作者の翻訳権を制限したものです。日本はこの規定の適用を前提にベルヌ条約に参加しており、国際的に認められた権利?です。主要国では日本にだけ認められていますが、それは欧米の言葉から日本語への翻訳の難しさを考えてのことだそうです。
1970年までの旧著作権法では、海外で発行された著作物が発行後10年間日本で翻訳出版されていなければ、翻訳権は消滅し誰でも自由に翻訳出版できることになっていました。これが「翻訳権の十年留保」です。1970年に新著作権法が施行され、この規定はなくなりましたが、1970年以前に発行されたものにはこの規定が有効です。
さらに、著作権の戦時加算というものがあります。第二次大戦中に戦勝国側の著作物の権利が尊重されなかったことを理由に、戦勝国側の著作権の有効期間を10年ほど延長しました(国によって長さが違います)。翻訳権の十年留保に対しても戦時加算が有効であるため、戦勝国側の著作物に限っては、1980年頃までに本国で出版されたものが対象となります。
したがって「一日二十四時間」の例で言えば、Twenty-Four Hours a Day は1954年に初版であり、これが1964年までに日本で翻訳出版されていなければ、日本での翻訳権は消滅しており、誰が翻訳出版しても問題ありません。したがってP神父が翻訳を出版することに問題はありませんでした。
しかし翻訳されたものには新たに日本語での権利が発生しますから、P神父の翻訳である「一日二十四時間」をそのままリプリントして出版してしまうと、P神父の翻訳著作物の権利を侵害することになります。別に新た日本訳したものであれば、この問題は発生しません。
「翻訳権の十年留保」というのは、原著作者にとってみれば勝手にどんどん翻訳されてしまい、印税も入らないので面白くないはずです。実際日本の出版社では、翻訳出版に当たって原著作者への連絡をしていないそうです(無用なトラブルを避けるため)。しかし、戦後の日本ではこの項目のおかげで、多数の翻訳出版が行われ、一冊の原著に複数の訳本が出版されることも珍しくありませんでした。その競い合いによって日本の翻訳の技術は向上し、現在の出版文化を支える基盤となりました。
12月10日(木)
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