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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■回復施設について
他の利点として「回復に集中できる」ことが挙げられます。AAのようなグループ(共同体)が一人ひとりのメンバーを支える力はとても強いもので、断酒の維持に役立ちます。しかし、毎日ミーティングに通っていても、仲間と接していられるのは一日のうちの限られた時間に過ぎません。酒や薬というのは、一人でいる時間に忍び寄ってくるものです。長時間仲間と一緒にいることになる施設利用は、まず酒や薬を断つという、回復の基盤を作るのに役立ちます。
だから、なかなか酒をきっぱり断てず再飲酒の繰り返し、だからといって入院ばかりしていられない、という人には施設利用を勧めることになります。(依存対象からの物理的隔離だけでは根本的な解決にはなりませんが、上に書いたように回復の基盤作りに役立ちます)。
そして多くの施設では「12ステップ」を回復のプログラムとして取り入れているのも利点と言えます。アメリカの施設でも12ステップをプログラムの中心に据えるところが多いそうです。12ステップを使ったプログラムについて州政府の認可が得られ、保険が適用できるのであれば、それを「治療(treatment)」と呼んで良いのだそうです。ですので、同じプログラムがある施設では「治療」、認可の取れていない別の施設では「回復」と呼ばれていると聞きました。
(日本では12ステップが有効な治療手段として認められるに至っていないので、治療と呼ぶのはやや時期尚早かもしれません)
残念なことに、日本の施設で12ステップ全体を提供しているのは少数派です。多くはステップ1・2・3を中心に、利用期間中にステップ4・5の棚卸しまで済ませる、というパターンです。これはマックがそのようなプログラムを組んでいた影響によるものと考えられます。(現在では12ステップ全体を行うところも徐々に増えています)。
日本のAA共同体では12ステップが弱体化してきました。12ステップに取り組むメンバーの比率は下がり、ミーティングの中で12ステップのことが分かち合われることが減っています。弱体化が起きた原因はさまざまあると思いますが、そのひとつはマックとの分離もあるでしょう。
12ステップの前半に偏ったプログラムとは言え、施設は12ステップを回復プログラムの柱に据え、スタッフは毎日それを利用者に提供するのを仕事にしています。スタッフから12ステップを受け取った利用者は、アフターケアとしてAA(やNAなど)に通い続け、やがてグループの中で新しい人に12ステップを伝えるようになっていきます。つまり施設スタッフという職業家の存在が、AA共同体への12ステップの供給源になっていたものと考えられます。しかし、共同体と施設との分離が起き、しかもしれが必要以上に厳密に行われた結果、AA共同体は12ステップの供給源を失ってしまったのではないでしょうか。
分離後のAAの中でスポンサーシップが隆盛し、12ステップが一対一で伝えられていけばうまくいったのでしょう。でもそうなりませんでした。「ステップをやるもやらないも自由」「ステップはどう解釈してもかまわない」というのはそうなのですが、それを口実にステップに取り組む人は減っていきました。今、日本のAAはステップをやる団体ではなく、ミーティングをやる団体になってしまっています(そりゃミーティングは必要だけどね)。
ビッグブックをテキスト(教科書)として12ステップ全体に取り組む運動が目立ってきたのは2003年ごろでした。あれから10年。運動の担い手から気になる言葉を聞くようになりました。「俺たちがAA共同体のなかでいくらがんばってみても、これ(弱体化)は食い止められないのじゃないか」。まあ、弱音を吐きたくなる気持ちも分からなくもない。一度失った生活習慣を取り戻すのが簡単でないように、共同体が失いかけたプログラムを取り戻すのは簡単ではないのかもしれません。
僕も視野の広い人ではないので、以前は(AA共同体がしっかりしていれば)施設は不要だと考えていました。だから、過去のこのサイトのリンク集には施設へのリンクはまったく張られていませんでした。しかし、AA共同体には限界があることを知り、施設の現状をいろいろと見聞きする中で、その必要性を認めるように考えが変わっていきました。
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03月05日(火)
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