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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■打たれ弱さ
そういう新しい人をグループ受け止めるには「傷の舐めあい」的要素も実は結構役に立ちます。自尊感情が低くなっている人は、自分が非難される場所に通いたいとは思いません。非難されないことで、AAがその人にとって「安全な場所」と受け止められるのでしょう。
AAは自省を大事にします。「自分に正直になれ」と言われますし、ミーティングでは正直な話をしろと言われます。それは他者から指摘されるのではなく、自分で自分の欠点を見つけていくことを大事にしているからです。しかし、自分で自分を評価するのは、他者に評価されるのに比べて、甘い評価になるものです。人間誰しもそうで、アル中も例外ではありません。
わざわざ自分に罪悪感や自責の念を強く呼び起こすような考えを持とうとする人はいません。だから、過去のトラブルについて、自分のやったことは責任を軽く、相手が自分にしたことは責任を重く評価してしまうものです。そもそも悪いことは思い出さないでおくにこしたことはない、という戦略も使います。
そのままだと、多責的で、批判に弱く、自分と違った意見を許容できない、という飲んでいた頃そのままの性格が残ってしまいます。だからこそAAはスポンサーシップを大切にします。「スポンサーが厳しい」と言う人が多いのですが、それはスポンサーはその人の欠点を指摘する役割だからです。ステップ4・5の棚卸しを通じて、過去の行動がどのように他者を傷つけ、悩ませてきたか指摘する役割をスポンサーが担っています。12ステップを経験することで、バランスの取れた自己評価と、批判や自分と違った意見を受け止める力を身につけていけます。
AAメンバーの約半数はスポンサーを持っていませんし、持っていたとしても「悩んだときの相談役」ぐらいにしか捉えておらずスポンサーを活用していない人もいます。だから「打たれ弱い」回復をする人も少なくありません。打たれ弱いとは、批判を受けると強く落ち込んだり、批判を回避しようと大事なことを放棄してしまう傾向があるということです。AA内でサービスの役割に就いたり、何かのイベントの実行委員長に就いたとき、成功の基準が「批判や非難を受けないこと」だったりするわけです。価値基準が歪んでますよね。
AAのミーティングは「言いっぱなし、聞きっぱなし」とされ、対話やクロストークを排除しています。このことは分かちあいが非難の応報になるのを避ける点では都合がよく、参加者に「この場所が安全だ」と感じさせる利点があります。しかしながら世間は「言いっぱなし、聞きっぱなし」ではありません。休職が終わって復職したり、あらたに就職したりして、責任を負うようになると、注意や警告を受けたり、些細な失敗を指摘されることは避けられません。そのたびに激しく落ち込んでしまったり、興奮してしまうようでは、社会の中で生きていくのは大変です。
AAでミーティング中心で回復している人の中には、何年たっても「AAミーティングだけが安全な場所」だと感じている人もいます。その人にとっては職場も(ひょっとしたら家庭も)危険な場所なのでしょうか。人間には確かに安全な場所が必要です。それは荒海を航海する船にとっての港のようなものです。朝、家庭という港から出港し、職場という港に着く。夕方になればその港を出て、AAミーティングという港に行き、そしてそこを出て家庭という港に戻る。このように、港から港へと航行する人生は充実して幸せでしょう。しかし、AAミーティングという港しか持たない人にとっては、家庭や職場は批判という嵐が荒れ狂う海なのでしょうか。そうなってしまったのは、環境のせいではなく、自分を変えてこなかったからなんですけどね。
こんな感じで、本人だけの集まりであるAAでは、打たれ弱い回復になってしまいがちです。それを避けるためには厳しく回復をサポートしてくれるスポンサーの存在が欠かせないでしょう。
もちろん、AAでもオープンミーティングに家族がたくさん参加しているグループでは断酒会みたいな力関係が働きますし、断酒会でも本人中心の会だとAAみたいな感じになっちゃったりするでしょうから、AAでは、断酒会では、と単純化できるものではないですね。
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06月03日(火)
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