ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■しゃべりまくるんだ・・何を?
ごめんねエイプリル・フールのネタじゃなくて真面目な話で・・・。

12ステップを伝えるときに、まずステップ1で必ず取り上げなければならないことが二つあります。

その一つは、ビッグブックの「医師の意見」の文章を書いたシルクワース医師が「身体のアレルギー」と呼んだものです。彼はアルコホーリク(つまりアルコール依存症の人)は、アルコールに対してアレルギー体質である、と述べています。

少しでも医学知識を持つ人は、これを聞いて疑問を持つに違いありません。現在ではアレルギーとは「免疫反応が特定の抗原に対して過剰に起こること」を指します。依存症は免疫の病気ではありません。彼は医師なのに、医学的にとんちんかんな主張をしている、と思われるでしょう。

しかし医学用語ではなく、アレルギーという言葉が一般的な英語としてどんな意味を持っているかを調べてみましょう。それには英英辞典を使うのがよろしい。手元にあるオックスフォードのワードパワー英英辞典を引いてみると、allergy の項にはこうあります。

a medical condition that makes you ill when you eat, touch or breathe sth that dones not normally make other people ill

つまり、他の人々にとっては問題がない何かを、ある人がそれを食べたり、触れたり、吸ったりすると具合の悪い状態がもたらされることです。

花粉症の人が花粉を吸うと具合の悪い状態がもたらされる。その害は、鼻水やくしゃみや目のかゆみです。しかし、花粉症じゃない人々にとっては、花粉は何ら問題にはなりません。これがアレルギーです。

同様に、アルコホーリクが酒を飲むと具合の悪い状態がもたらされる。しかし、アルコホーリクでは無い人にとっては、アルコールは何ら問題にはなりません。シルクワース医師はこれを指してアレルギーと呼びました。

では、その具合の悪い状態とは何か? 彼はそれを渇望と呼びました。アルコホーリクが酒を一杯飲むと、次の一杯が飲みたくなる「渇望」が沸き上がります。それによって二杯目を飲むと、どうしても三杯目が飲みたくなる・・・。こうしてアルコホーリクは酒の量をコントロールできずに飲み過ぎてしまいます。この渇望は意志の力で打ち勝つのが難しいほど強いのです。

しかしこの病気に理解のない世間一般は、アルコホーリクが酒を「飲み過ぎる」ことについて、こう思っています。アルコホーリクは、我慢しようという意志が弱い、快楽主義で心地よさを求めすぎている、酒に逃避している・・・。そういう面がないわけではないが、しかしそう思ってしまうのは病気への無理解ゆえ。誤解と偏見です。

シルクワース医師は、それはアレルギー同様の生理的現象だと述べています。花粉症の人が、鼻水やくしゃみが出るのは、意志が弱いからでしょうか? 快楽主義だからでしょうか? そんなことはありませんね。生理的現象に意志の力で打ち勝つのは難しいのです。例えば「下痢」という生理現象に意志の力で打ち勝てるでしょうか? しばらくは我慢できるかもしれませんが、いつかは堪えきれずに悲惨な結末を迎えます(意志の力で我慢しようとせずに早くトイレに行った方が良い)。

同様に意志の力で酒をコントロールする(節酒する)ことをアルコホーリクに求めるのは無理なことです。そのことを理解すると、それまでなんとか酒をコントロールして飲もうと努力してきた人も、飲酒を諦めて完全に酒を止めるしかない、と思うようになります。

もしアルコホーリクが、もう二度と酒を飲まないと決意して、それを一生続けることができたら、すばらしいことです。しかし多くのアルコホーリクが、二度と飲まないと誓い、周りの人にもそれを公言したにもかかわらず、再飲酒してしまいます。

多くの人たちが「ついうっかり」とか「魔が差した」などと表現しますが、飲み出せばいずれは渇望によって元の飲んだくれに戻ってしまうと分かっていながら、最初の一杯に手を出すのを避けられないわけです。その瞬間、私たちアルコホーリクの心は、正常な判断ができないほど不健康な状態に陥っています。つまり、狂気の瞬間が訪れてしまうわけです。


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04月01日(火)
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