ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■12ステップの利点・欠点
AAを最初に作ったのは、禁酒法と大恐慌の時代に酒で身を持ち崩した白人男性たちでした。経済的にも社会的にも落ちぶれた彼らには自らが身につけた教養しか頼れるものがありませんでした。また当時は人種差別も、男女差別も激しい時代であり、彼らがターゲットにしたのは自分たちと同じような白人たちでした(だからビッグブックの初版には白人のストーリーしか掲載されていません)。やがて、彼らの見つけた12ステップという原理は、人種・性別・貧富・教養のあるなしに関係なく役に立つことが分かってきてAAが大きく発展するのですが、ともかくAAを始めた人たちは、その時点では「本を読み慣れていない人たちのために、平易な文章でビッグブックを書く必要がある」とは考えなかったようです。

ビッグブックの内容(あるいは12ステップ)を批判する人たちは、その内容よりも、ビル・Wの修辞に惑わされてしまっている場合が多いのです。そういう人たちでも、12ステップの本ではないけれど同じAAの本である『どうやって飲まないでいるか』ならば受け入れやすいと言います。こちらのほうが平易な文章で書かれているからでしょう。

じゃあ、ビッグブックがそんなに小難しいなら、易しい文章に書き直したらどうだ? と思うかも知れません。しかし、それは無理です。ビル・Wやドクター・ボブは特別な存在であり、彼らの代わりができるメンバーはAAにはいないからです。ビッグブックの読みづらさ、使いにくさはAAの中で意識されていますが、現実問題として当面それが解決される見込みはありません。

ビッグブックを教科書とするなら、参考書みたいな本はいくつもあります。ビル・W自身も十数年後に『12のステップと12の伝統』(12&12)を書きました。しかしこれは、ビッグブックを補う立場の本です(なので12&12だけでは12ステップは分からない)。

他にもAAメンバーが12ステップの参考書・解説書を書いてきました。古くは『リトル・レッド・ブック』、『スツールと酒ビン』、最近訳出されたジョー・マキューのものもそうです。これらに人気があるのは分かりやすいからです。しかし、これらの参考書は「ビッグブックを置き換えることを目的としない」としています。あくまでもビッグブックを補うもので、ビッグブックの代わりにはなりません。

そんなわけで、AAメンバーが12ステップに取り組むときは、どうしてもこの小難しいビッグブックを相手にせざるをえません。だからこそ、その人を一人でビッグブックを読んで陥る「???」という状態から救い、手順通りにことを進める手助けをしてくれる介助者が必要になります。それがスポンサーの役目ですね。

他にも、12ステップに取り組むには、少なくとも数週間から数ヶ月の期間は必要ですし、もっと長い時間が必要な人も確かにいます。労力も時間もかかります。

また相手をするスポンサーが必要です。12ステップの中には自己査定が含まれています。しかし、自分で自分を吟味するのは大甘な評価になりがちです。自分で吟味するより配偶者や親に吟味してもらった方が正しい評価がされるぐらいなんです。でも妻に棚卸しを聞いてもらおうという人はまずいませんから、「もう一人のアルコホーリク」が必要です。その人の労力や時間も必要になります。

こうしたように、12ステップに取り組むには、それなりの労力と時間がかかるのです。これが12ステップの欠点と言えると思います。

最近では断酒補助薬も発売されました。薬を飲むだけで断酒維持率が約10%向上したそうです。薬を飲むだけで、10%も改善されるのです。素晴らしいことじゃありませんか。12ステップよりもずっと簡単で、労力も時間も少なくてすみます。だが、それでも100%ではない。いままでのどんなやり方でも100%のものはありません。

それを考えると「12ステップさえあれば良い」とは言えません。他のやり方も必要だし、時には組み合わせていく必要もあるでしょう。


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10月15日(火)
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