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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■口からの回復、耳からの回復
さて、翌晩に参加したミーティングも同じ会場でした。こちらは普通のディスカッションミーティングで、中身は12ステップの話でした。参加者数は70人ほど。司会者が話す人を指名していくやり方で、僕も「日本から来た」ということで指名されたので、とても拙い英語で2分ほど分かち合いました。
次の晩は、別の州の人口40万人ほどの都市に移動しました。こちらのセントラルオフィスのサイトで調べてみると、その町ではその晩に約25ヶ所でAAミーティングが開かれていることが判りました。その中でホテルから一番近い会場に行くことにしました。教会のホールに200人ほどが集まっていましたが、ミーティングが始まると半分ぐらいが外に出て行きました。どうやら喫煙者は屋外のテラスでミーティングをするようです。
こちらも普通のディスカッションミーティングでしたが、司会者が指名するのではなく、前の人が話を終えて沈黙が訪れると、誰かが名乗って話し始めるというスタイルでした。(日本だとNAでこういうスタイルが多く、AAの僕のホームグループもこのやり方です)。
日本に戻ってアメリカでAAミーティングに参加した経験を話すと、いろんな質問を受けます。みんなアメリカでのAAのやり方に関心があるのでしょう。その中に、
「ミーティングにそんなにたくさんの参加者がいたら、話す機会が与えられないでしょう」
という心配をされている人がいました。確かに、60分あるいは90分のミーティングで話ができる人はせいぜい10人か15人ほどです。僕が出たのは、アメリカにごまんとあるAAミーティングのうち3つにすぎません。日本みたいに人数の少ない会場もたくさんあるでしょう。けれど、アメリカのAAメンバー密度が日本の100倍である事を考えると、どれほどたくさんのミーティングがあっても、多くの会場に「話す機会を与えられない人」が存在するに違いありません。
話す機会が与えられないことへの心配は、裏返せば、「ミーティングで話すことが回復をもたらす」という考えに基づいています。確かに、ミーティングで話すことは回復の役に立ちます。だからこそ、日本のAAミーティングの司会者は、ミーティング参加者全員に話す機会が与えられるように腐心し、長い話をして時間を独占するメンバーに内心イライラを募らせています。
話すことは回復に大きな力を与えます。その力が大きいために、多くの人たちが、ミーティングで話すことがAAプログラムの中心だと思ってしまいます。ミーティングはAA活動の柱のひとつではあるものの、それだけでは個人に回復をもたらせるものではありません。AAにおける回復は、スポンサーとの一対一の関係の中で12ステップに取り組むことが中心です。
ビッグブックの「第三版に寄せて」には、
(AAの)核心はいたって簡単であり、個人を主体にしたものである。
its core it remains simple and personal.
という文があります。1976年にビッグブックの第3版を入稿する際に、わざわざこの文章を追加した理由は何なのか。それはAAプログラムが集団によるミーティングによるものだという考えに対して、むしろ個人的に12ステップに取り組むのがAAプログラムである、という主張をAA流に控えめに表現したものだ、という意見があります。僕も同じ考えです。
「ミーティングで話すことによって回復する」という考え方は日本のAAに深く根付いています。しかし、それにこだわると、100人以上のミーティング会場で話す機会が与えられない人は回復できないことになってしまいます。しかし、アメリカのAA会場で人数の多さを心配している人は見かけませんでした。以前に聞いた話では、あちらではAAに加わった後、1年、2年経ってもまだミーティングで話したことがない人がたくさんいるそうです。
ミーティングで話すことは回復に寄与するでしょう。しかし、AAにおける回復は、スポンサーとの一対一の関係の中で個人的に12ステップに取り組むことでもたらされます。話すことにこだわりすぎると、AAプログラムを歪めることになるのではないかと心配します。
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07月16日(火)
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