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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■ジェネリクかジェリネクか
ご存じの通り、酔っ払いと話すのは骨が折れます。飲み続けている人にインタビューをしても得るものは少ない。きちんと酒をやめられた人たちの集団を相手にしたかったら、AAしかなかった。という当時の事情もあります。彼は数千人のAAメンバーと面接する研究から、AA型のアルコホーリックこそ、アルコホリズムという病気の本質であると結論づけることになりました。

彼はこの分類をすることにより、アルコホリズムにも多様性があることや、アルコホリズムという疾病概念がいたずらに拡大されることを防ぐ意図があったようです。しかし、彼の意図に反して、アルコホリズムはすべてγ型であるという解釈を広める結果になりました。

翻ってAAは、アルコホリズムは一つのタイプしかないという主張をしています。酒のコントロールを失い、そのコントロールは一生取り戻すことはなく、解決は断酒しかない(断酒を続けるために12ステップをやる)。一方で、酒でトラブルを起こしている人が、全員アルコホーリックだとも言っていません。

ビッグブックのp.31では、「大酒飲み」と「本物のアルコホーリク」を分けています。大酒飲みの中には酒をやめるのが困難で医者の世話にならなければ止められない者もいる、とあります。ジェリネク博士の分類で言えば、γ型以外のアルコホーリックでしょう。一方「本物のアルコホーリク」は、霊的な手段がないと助からないとしています。そして「本物のアルコホーリク」とは、シルクワース博士の描き出した「渇望現象」を持つ人たちを示しています。

僕は以前から、アルコールを乱用している人すべてに「アルコール依存症」とか「アルコホーリック」というラベルを貼るのはやめたほうが良いと主張してきました。境界性人格障害や統合失調症の人が症状としてアルコール乱用をするのは、いわゆるアルコール依存症の人たちの問題とは違っています。

また、ここ数年ビッグブックのやり方で12ステップを行っていると、明確な渇望現象を持たないAAメンバーの存在に気づかされます。自らの渇望の経験を捉えることができないということは、基本中の基本となるステップ1を理解することが難しい人たちです。

こうした「本物ではないアルコホーリク」がAAに存在していることに以前から気がついていた人もいたはずです。

一つは、DSMのような操作的な診断基準に従って、アルコール乱用があればその原因を問わずに「アルコール依存症」の病名を与え、自助グループを薦める医療機関の問題。もう一つは、12の伝統に従って「酒をやめたい」のなら誰でもメンバーになれるというAAの姿勢です。

僕は日本を訪れているシカゴのAAメンバーと一緒に食事をしたとき、「シカゴのAAにも本物じゃない人たちはいるか?」と尋ねました。相手の答えは「もちろんだとも」でした。でも、そういう人たちはAAに長居はしない。せいぜい2〜3年もすれば消えてしまうよ。だって他のメンバーと話が合わないからね。という話でした。

AAはメンバーになる条件として「酒をやめたい」という気持ち以外は要求しません。そうやって否認を伴いがちなアルコホーリックを幅広く受け入れられるようにしています。一方で、ミーティングではアルコールの問題を分かち合うことで、対象外の人たちがふるい落とされる仕組みになっているというわけです。少なくとも海の向こうの地では、そのふるいが有効に働いているようです。日本ではどうなのでしょう。

AAは12ステップを使って酒をやめ続ける団体です。その原則は変えることはできません。僕は5年ほど前からビッグブックを使った12ステップのやり方でスポンサーシップを行っています。その経験から、本物のアルコホーリック(ジェリネク博士のγ型)に対して、12ステップは極めて有効だと考えています。

しかし、前述のようにAAには本物ではないタイプもいます。ハッキリした渇望の経験を持たなかったり、別の原因で酒を飲んできた人たちには、12ステップの効果はあやふやです。むしろ別の方法のほうが良いこともしばしばです。薬物やギャンブルについてもおそらく同じ事は言えるでしょう。


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06月04日(月)
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