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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■バック・ツー・ベーシックス騒動(その1)
そこで彼らは一計を案じました。ちょうどビッグブックができあがりつつあった時期でもあり、彼らは新しい人を一室に集め、ビッグブックを教科書(テキスト)として使い、古いメンバーを教師役にして、教室形式でステップを伝えました。そしてステップで酒をやめて二週間にもならない人が、今度は教える側に回って次の人たちの相手をすることで、爆発的にメンバーが増加しました。これが「クリーブランド現象」とし語り継がれるものです。ビッグブックの重要性が最初に実証された機会でもありました。

こうしたミーティングは「ビギナーズ・クラス」と呼ばれ、『リトリ・レッド・ブック』『スツールと酒酒ビン』の著者もこうしたクラスを運営していたことが知られています。

ワリーさんが再発見したものはこのクリーブランドの流れを継ぐものでした。彼はそれを60分×4回のミーティングに仕立て上げ、週に一度の出席で、4週で12ステップ全体をおおよそ把握できる仕組みを整えました。それが「バック・ツー・ベーシックス」(B2B)という本として出版され、アメリカ国内で広まりつつありました。

なぜそのような「集団で教える」仕組みが、20世紀後半のアメリカAAで廃れてしまったのかは分かりません。しかし、J&Cのビッグブック・スタディにせよ、B2Bにせよ、そのような「教える仕組み」の再興運動だったとも言えます。(おそらく廃れた原因は、その役割を施設が代行したからでしょう)。

B2Bは、ビッグブックからの抜き書きと、抜き書きについての解説になっています。B2Bミーティングではこれを読みながら進行します。実際には本を読むばかりでなく、インタラクティブな要素もあるようですが、スクリプト(台本)ミーティングと呼ばれるように、ミーティングはB2Bという台本に従って決まった形で進められます。

鴨川でのビッグブックの集いは、一泊二日でこのB2Bを実際にやってみようという試みでした。しかしこれが、AAメンバーの過敏な反応を呼び起こしました。

考えてもみて欲しいのです。それまで日本のAAメンバーは、「12ステップは教わるものではない」と捉えている人もいたし、AAミーティングというものは一人ひとりの「語り」によって成立するもので、台本通りに進行するミーティングなんてあり得ない、と多くのメンバーが考えていたのです。

(これについてはナラティブ文化の影響なのではないかという雑記を書きました。日本においても12ステップが「薄められる」現象が起きていたのではないかと思います)

AAにはミーティングはこのように進めなさいという決まりがあるわけでもなく、ステップを教えてはいけないという決まり事もありません。参加者が納得し、12の伝統に反しない限り、どんなやり方をするのも自由です。

しかし鴨川の集いに対して強固に異を唱える人たちもいました。そのような反AA的(!)なイベントの広報を、AAの月刊誌に掲載したり、AAミーティングでチラシを配らせるのは良くないと主張する人さえいました。おそらくその主張の背景には感情的なしこりがあるのではないか、と推測し、僕は評議員活動の一部として、その背景をさぐることとしました。

(続きます)

04月10日(火)
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