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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■早期発見・早期治療は役に立ったか
元々依存症の人たちは援助を求める能力が低いのですが、それが援助を求める方向へ転換するのが底つきです。早期診断を受けた人たちは、確かに酒をやめたかもしれません。でも援助を求める方向へは転換しませんでした。とりわけ当事者同士の援助である断酒会やAAにはつながりたがりませんでした。それを「とりあえず酒はやめられているから良いではないか」と追認する雰囲気が、医療や援助職の中に生まれたのではないか、そう考えています。

結局、早期発見・早期診断は実現したけれど、底つきの底上げにはつながらなかった、というのが本当のところではないかと思います。

最近こういうケースに接することが増えています。比較的早めに診断を受けて(最初は少し苦労するけれど)自力での断酒に成功している人たちです。この人たちが、何年かすると再飲酒します(場合によっては十年以上のケースも)。断酒の初期の頃に、短期間AAや断酒会の世話になっている場合もあるし、なっていない場合もあります。いずれにせよ、飲む人は飲みます。

依存症の人が再飲酒するのは、ある意味「当たり前」なので、そのことをとりわけ問題視する必要はありません。しかし、早期診断を受けて何年間か自力断酒が出来た人というのは、その後がこじれてしまう場合が多いのです。

一つには、自力で何年間か(10年以上も)やめられたという成功体験がアダになり、改めて断酒会やAAの援助を求めることがますます難しくなりがちです。もう一つ、「飲んでいない期間も依存症は進行する」という考え方がありますが、実際その通りだと実感させられます。まるで酒をやめていた期間などなく、その間も飲み続けていたかのような、急激な悪化を見せます。そのために、やめるのがますます困難になっています。

しかし、最も切ないのは子供のことです。最初の断酒が始まる頃には、子供が小学校に上がる前か、低学年くらいという年代が多いわけです(早期発見のおかげです)。それが、それが数年後とか十年ほど後になると、ちょうど子供が高校受験とか大学受験のころに差し掛かります。その頃になって、家族の悪夢が再現されるわけです。それまで以上に金銭が必要になる時期でもあり、ご本人もなんとか働き続けて稼ごうと思いますし、家族にもそれを応援しようとします。しかし、回復よりも仕事を優先すれば何が起こるか。再飲酒や入院、失職、離婚、自殺など。結局子供の人生は大きく狂ってしまいます。

最初の時にきちんとしていたら、こうはならなかった・・はず、なのになぁ、と残念な気持ちにさせられます。

早期発見・早期診断は良いことですが、それが継続的な援助を求める方向に向かわないのが大きな欠点です。医師からは「断酒会やAAに導きたくても、患者が診察室に現れなくなってしまえば接点を失ってしまう」と聞きます。

早期発見・早期診断は(少なくともそれだけでは)失敗だったと思います。何年間か自力でやめられる人たちを作り出したので、見かけの成果が挙がっているだけで、本質的な問題の解決には至っていないというだけのことではないかと。クライアントが目の前からいなくなれば問題は解決したことになる、それが医療や援助職の理屈であり、その理屈が「底つきの底上げ」作戦が成功したかのような幻想を作り出しただけだったと思うのです。

医療や援助職にとってはそれでいいかもしれません。でも当事者にとっては、中途半端な解決は悪夢そのものです。せいぜい数ヶ月か数年しかコミットしない専門家と違って、当人にとっては一生の問題なのですから。

もちろん早期診断が生涯の断酒に結びつく人もいるでしょう。しかし、その割合はそれほど多くないというのが印象です。具体的数字を持っているわけじゃありませんが、「底つきの底上げ」が言われるようになって10年・20年が経過し、年単位の断酒を経た後の再発の問題が顕著になってきているのじゃありませんか?

だから、早期の診断を、一生続く援助(つまり当事者活動たる自助グループ)へとどのように結びつけていくか。医療・援助側と当事者活動の橋渡しが必要なのだと思います。

「大事なのは最後の一杯を飲んでから何年経ったかじゃない。次の一杯を飲むまで何日あるかだ」

03月09日(金)
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