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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■ステップ4の訳のmoralについて
商売の棚卸しでは、帳簿上の在庫と現実の在庫を一致させます。帳簿上では存在しているはずの在庫でも、実際には万引きされてなくなっていたり、日焼けしたり腐ったり賞味期限を過ぎていたりで売り物にならないかもしれません。帳簿の数字が間違っていたらどうなるか。帳簿より実際の在庫が少なく商品棚に並んでいなければ、客は商品を買うことができませんから、売り上げが落ちてしまいます。逆に実際の在庫が多いのに、帳簿だけ見て少ないからと次の仕入れをすれば過剰な在庫を抱えてしまいます。「棚卸しをしない商売は、たいてい倒産する(p.93)」のです。

棚卸し表と実際の商売の姿がきちんと一致しなければ、商売が破綻してしまいます。世界的に有名な光学機器のメーカーも、何年も帳簿の数字をごまかし続けてきたために、大変な窮地に陥っているではありませんか。

ビル・Wは、人の生き方を商売に例えました。12&12でもステップ1の冒頭で人生を「私たちが営む人間商会」と表現しています。商売の仕方、つまり生き方が変わらなければ、私たちも破綻します。だから私たちはステップ4で棚卸しを行うのですが、その対象は自分自身です。

商売の棚卸しにおいて帳簿と在庫が一致しなければならなかったように、ステップ4でも実際の私たちの考え方や行動が棚卸し表にありのままに書かれなければなりません。だから怠ることなく探し求め、目を背けることなく向き合って、自分自身の真実を表に書きます。

こうして見ればわかるように、ステップ4では moral という言葉が「真実」あるいは現実・実際という意味で使われています。表(帳簿あるいは棚卸し表)と棚卸しの対象(在庫あるいは自分自身)が一致することが最も肝要な点ですから、それを fact-finding/searching, fact-facing/fearless, truth/moral と言葉を変えながら繰り返し強調されているわけです。

モラルがどうのこうのという議論は、12ステップのあの短い12個の文章だけを元にして議論しているわけですが、そこで使われている一つ一つの言葉がどんな意味で使われているのか、それはビッグブックに書かれています。ここまでの話は僕の考えではなく、緑本(『ビッグブックのスポンサーシップ』)のp.87に書かれていることです。緑本では moral を「生き方に即した」、truthを「事実に即した」と訳しています。

なぜAAの12のステップが moral を「モラル」と訳さなかったのか分かっていただけるでしょう。逐語訳をするよりも、原文の意味に忠実な訳を選んだほうが、読者に正確に伝わるからであり、回復をもたらすことができるからです。

11月11日(金)
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