ID:1488
頑張る40代!plus
by しろげしんた
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■鬼太郎という子
小学生の頃、隣の町内に『鬼太郎』というあだ名の子が住んでいた。
目が異様に大きく、少し出目ぎみだった。
その印象から『鬼太郎』というあだ名が付いたのだと思う。
いつもグジグジして何を言っているのかわからず、そのために友だちもいなかったようだ。
町内が違っていたので、ぼくたちの遊ぶ場所には来なかった。
が、たまに来ると、いつも騒ぎを起こしていた。

ぼくたちがよく遊んでいた公園の横に、カツという友だちの家があった。
カツは同じ野球のメンバーで、よくいっしょに野球をしていたのだが、夏のある日、いつものように野球をやっていると、メンバーの一人が、
「カツ、鬼太郎がおまえの家の庭におるぞ」と言った。
みんながカツの家のほうを見てみると、鬼太郎は長い棒を持って何かやっていた。
カツは慌てて家に戻って行き、みんなはカツのあとを追った。

カツの家に行ってみると、鬼太郎は手にビワを持っていた。
カツの家の庭になっているビワを、例の長い棒でつついて落としたもののようだ。
「おまえ、ここで何しよるんか?」とカツは言った。
「何もしよらん」と鬼太郎が答えた。
「『何もしよらん』があるか。そのビワどうしたんか?」
「この家の人にもろた」
「何でこの家の人にもらえるんか?」
「ここ友だちの家やけ」
「そうか。じゃあ、その友だちの名前を言うてみ」
「ブツブツ…」
「あっ、聞こえん!」
「ブツブツ…」
「わからんのやろうが。ここはおれの家たい。おまえはおれの友だちなんか?」
「‥‥」
鬼太郎はずっと下を向いたままで、ブツブツ独り言を言っていた。
そしてカツからさんざん文句を言われ、逃げて行った。
鬼太郎は方々でこういう騒ぎを起こしていたのだ。

鬼太郎の起こした事件で忘れられないことがある。
あれはお盆のことだった。
ぼくたちが、いろいろな町内の盆踊りを見て回っている時のことだった。
ある町内の盆踊り会場が、踊りもせずに、何か殺伐とした雰囲気になっている。
ぼくは、その町内の知り合いの上級生を見つけ、尋ねてみた。
「○○君、何かあったと?」
「おう、鬼太郎がおるやろ」
「うん」
「あいつが、砂をレコードめがけて投げつけたんよ。それで演奏がストップした」
「え、鬼太郎が。で、あいつどこ行ったん?」
「走って逃げて行った」
「そうなん」
「見つけ出して、ボコボコにしてやる」
と、上級生は息巻いて、鬼太郎を探しに行った。

その後、その上級生と鬼太郎の間に何があったのかは知らない。
ただ、その日を境に、鬼太郎はぼくたちの前から姿を消したのだった。
11月29日(水)
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