ID:1488
頑張る40代!plus
by しろげしんた
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■鳩と戯れる 後編
まず手始めにぼくが打った。
見事命中した。
しかし、鳩はキョトンとした顔をしている。
追うと、奥に籠もってしまい出てこようとしない。
次は取引先の番である。
しかし、口ほどにもなかった。
何度かゴム銃作戦をやったのだが、効果がなかった。
おそらく傍で見ていた人は、中年が二人で遊んでいるとしか見えなかっただろう。
しかし、少なくともぼくは真剣だった。

ゴム銃作戦に失敗したぼくは、威嚇作戦に出た。
鳩のとまっている付近を、例の虫捕り網で叩き、他の場所に移すのだ。
鳩が高い場所にとまっていたので、ぼくは脚立を用意した。
鳩と目があった。
ぼくは持っていた網で、鳩の足下をドンと叩いた。
鳩は後ろに退いた。
もう一度、ドンと叩いた。
再び鳩は退いた。
もう一度…
何度やっても、鳩は後ろに退いてしまう。
このままだと鳩との距離が開いてしまうばかりである。
そこで、ぼくは鳩の横あたりを、ガンガン叩いてみた。
すると、それまで後ろに退いていた鳩が、早足で前に出てきた。
「これだ!」と思ったぼくは、再び鳩の横あたりをガンガンやった。
思惑通りだった。
鳩はそれ以上前に出られないのを悟ると、サッと飛び上がった。
そして再び店内を飛び始めた。

ここからぼくと鳩の一騎打ちが始まった。
ぼくの目的はただ一つ、鳩を捕まえることだった。
そのために策を練った。
すばしっこく飛び回る鳩に、人間は太刀打ちできるはずがない。
その上、相手は障害物なく飛び回れるが、こちらは数々の障害物を気にしながら追いかけなければならず、闇雲に網を振り回すだけでは、捕まるはずがないだろう。
そこで鳩を追い回して、疲れさせる作戦をとった。
どこかにとまったら、すぐに網攻撃を加える。
鳩はまた飛び回る。
そして、またどこかにとまる。
そこを休ませない。

時間が経つうちに、だんだん鳩が疲れてきているのがわかった。
方向感覚がなくなってきているようだった。
あっちにふらふら、こっちにふらふら飛んでいる。
こうなれば後は時間の問題である。
ぼくはふらふらになった鳩を追いかけていった。

そしてついに、鳩が地面に降りてきた。
「チャンス!」
ぼくはゆっくり鳩に近づいていった。
ところがその時だった。
子供がバタバタ走ってきたのだ。
その音に驚いた鳩は、最後の力を振り絞って、吹き抜けの2階窓まで飛んで行った。
万事休すである。
しばらく鳩を見ていたが、降りてくる気配はなかった。
ついにぼくも諦めた。

鳩を追い回し始めてから20分が過ぎていた。
その間、ぼくは走り続けていたのだ。
後になって疲れが一気に襲ってきた。
そういえば、風邪を引いていたが、それはどこにに行ったのだろう。
あれだけ走っても咳は出ないし、気分も悪くならない。
今回の風邪は、どうやら運動不足から来ていたものらしい。

午後になった。
遅番のパートさんがやってきた。
「こんにちはー。午前中ご活躍だったそうですね。」
「え?」
「鳩追っかけてたんでしょ?」
もうその頃には、鳩のことはすっかり忘れていた。
「みんな言ってましたよ。しんちゃんが少年の目をして鳩を追っかけてたって」
「え?」
「昆虫採集やってる子供と同じ目ってことですよ」
どうも熱くなりすぎたようだ。

あれから鳩はどうなったか?
しばらく2階窓にとまっていたが、日が差し込む場所なので、暑くなったのだろう。
降りてきて、そのまま外に出て行ったという。
何か馬鹿にされたような気がする。
今度は負けんわい!
05月13日(火)
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