ID:1488
頑張る40代!plus
by しろげしんた
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■伊藤君2
伊藤の車の助手席には『彼女以外乗車禁止』というステッカーが貼っている。
この間、ぼくが伊藤に「お前はバカか。 何か、あのステッカーは」と言うと、生意気にも伊藤は「当然じゃないですか。彼女以外の誰を乗せると言うんですか」と答える。
「じゃあ、一生誰も乗せられんやないか」とぼくが突っ込むと、伊藤は黙っていた。
その後、ぼくはこっそりと『彼女…』の写真を撮り、彼の部署のJ子にメールで送っておいた。

ところが、そのメールがちょっとした問題を起こすことになる。
昨日のこと、何と伊藤の助手席に女の子が乗っていたらしいのだ。
部署の子は、さっそく伊藤にメールを送った。
(しんたさんから写真を送ってもらったんですが、『彼女以外乗車禁止』ということはあの人は彼女ですか)

そして今日。
ぼくが食事をしていると、伊藤が入ってきた。
彼はぼくを見つけるなり、「しんたさん、J子さんに車の写真送ったでしょうが」と言う。
ぼくが「ああ、送ったよ。何かまずかったか」と聞くと、伊藤は「昨日、助手席に女の子を乗せてたのを、J子さんに見られたんですよねぇ。あんな写真送られたら、バレバレじゃないですか」と言った。
「それは彼女か?」
「まあ、いちおう…」
そう言って、伊藤は嬉しそうな顔をした。
彼は、彼女のことをぼくに話したがっているように見えた。
そこで、ぼくはわざとはずしてやった。
「ふーん、よかったやん」
「ええ、まあ…」
「ところで、お前いくつ?」
「え? 今年22歳ですけど…」
「22歳か。小便恋愛やのう」
「え、小便恋愛なんですか?」
「どうせ、またすぐふられるんやろうが」
「いや、今度は…」
「まあ、小便恋愛なんかに興味ないし、別にお前が誰とつき合おうと、おれは気にならんわい」
「はあ、そうですか」
伊藤が答えた後で、ぼくは一呼吸置き無表情に言った。
「で、相手は誰なんか?」
伊藤はあ然とした顔をし、急に笑い出した。
「何がおかしいんか」
「いや、あまりにしんたさんが真顔で言うもんで」
「そうかのう。で、相手はバイトか?」
「はい」
「誰かのう」
「しんたさん、昨日最後までいましたかねえ?」
「ああ、おったよ。あの中におるんか」
「はい」
「M君か?」
「男じゃないですかぁ」
「そうよ」
「…『そうよ』って、ぼくにそんな趣味があるように見えますか?」
「おう」
「ホントにもう…。ぼくはまともです」
「そうなんか」

「ところで、お前の妹は元気か?」
「えっ、妹ですか?」
彼はもっと彼女のことを聞いてほしかったようだが、ぼくが突然彼の妹の話をしだしたので、ちょっと戸惑ったようだった。
彼の妹も、以前うちの店でアルバイトをしていたことがある。
「妹は元気にしてますよ」
「あの子、かわいかったのう。『YAWARA!』に出てくるキョンキョンみたいやった」
「キョンキョン…? 知らないなあ。最近、妹はまた男を変えてですねぇ…」
「で、お前の相手は誰なん?」
「あ、またその話ですか」
伊藤はそう言いながらも、嬉しそうな顔をした。
「もしかして、N子か?」
「N子は、妹と同い年ですよ」
「そうそう、お前の妹は、前に酔っぱらったことがあってのう」
「妹がですか?」
「おう。あの時は大変やったわい」
伊藤は(また妹の話か)と、ちょっとがっかりした顔をした。
そうこうしているうちに、伊藤の休憩時間は終わった。
結局、伊藤はぼくに彼女の名前を告げられなかった。
食事が終わって、店内で伊藤に会ったが、ぼくはわざと彼を無視していた。

実は、ぼくは今朝J子から伊藤のことを聞いて、彼女の名前を知っていたのだ。
伊藤が誰とつき合おうと、大したことではないのだが、彼をからかうには格好のネタになった。
ぼくは、当分の間、伊藤にそのことを触れないでおこうと思っている。
そうすれば、また彼が『伊藤君3』を提供してくれることだろう。


02月23日(日)
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