ID:1488
頑張る40代!plus
by しろげしんた
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■はーい
最近口癖になっているのが、「はーい」である。
これを低いだみ声で言うと、酔っぱらいのおいちゃんの物まねになる。
酔っぱらいのおいちゃんは、店長に優しくしてもらっているせいか、調子に乗っている。
大声で怒鳴るだけなら、かわいいほうである。
最近は他のお客さんからタバコをたかったりもするし、ひどい時には店の中で立小便をすることもある。
売場でタバコを吸われて以来、ぼくはおいちゃんに冷たく接するように心がけている。
それを感じたのか、おいちゃんのほうもぼくを避けるようになった。
それでも、おいちゃんの怒鳴り声が聞こえたら、他のお客さんに迷惑がかかるといけないので、素早くおいちゃんのいる場所に駆けつける。
そして、散々文句を言う。
「おいちゃん、店の中で大声出したらいけんち言うたやろ」
「お前に関係なかろうが。コラッ!」
「『コラッ』ちゃ、誰に言いよるんね」
「・・・」
ぼくが睨むと、おいちゃんはすぐに目をそらす。
そして、下を向いて、聞いてないふりをする。
「ここにおりたかったら静かにしとき。わかった?」
「わからん」
「わからん?」
「あ、わかった」
「ここはあんたの家じゃないんやけね。大きい声出すと、他のお客さんがびっくりするやろ?」
「何をっ! わしは若い頃、声を鍛えたんぞ」
「はいはい、そんなに大声が出したかったら、こんな狭いところじゃなくて、洞海湾に行って叫んできたらいいやん」
「何かコラッ!・・・。はーい」
「今度大声を出したら、つまみ出すけね」
「はーい」

その後しばらく様子を見ていると、おいちゃんは独り言を言い出した。
「おれは悪い人間じゃない。お、コラッ。・・・、はーい」
「ブツブツブツブツ。はーい」
一人で言って、一人でうなずいている。
いよいよ頭がおかしくなったのだろうか。

それから、ぼくはおいちゃんに文句を言うたびに、「はーい」と真似してやることにした。
おいちゃんは、きっとなめられていると思っているのだろう。
が、相変わらずぼくの顔を見ない。
顔をよそに向けて、言い返している。
「何で、おればかりに文句を言うか!おれは前科モンぞ、コラッ!」
そこですかさずぼくは「はーい」と言う。
「ふざけんなよ、コラァ!」
「はーい」

先日、ベンチの周りにポテトチップスの食べかすが散らばっていた。
お客さんが「そこ、例のおいちゃんが座ってましたよ」と教えてくれた。
その翌日、おいちゃんがベンチに座ってポテトチップスを食べているのを見つけた。
案の定、周りに食べかすが散らばっている。
「ポテトチップスを食べるなとは言わんけど、もう少しきれいに食べり。昨日おいちゃんの食べかすを掃除したんやけね」
「大将、わたしはですなあ。悪い人間じゃありませんけ」
「悪い人間やないんなら、ちゃんと自分の食べた後始末ぐらい片づけなね」
そう言ってぼくは、売場からホウキとチリトリを持ってきた。
そして、それをおいちゃんに突きつけ、「自分が散らかしたんやけ、ちゃんと自分で片づけり」
おいちゃんは相変わらずぼくの顔を見ず、「はーい」と言うと、ぼくからホウキを取り上げ、そのへんをはわきだした。
「やれば出来るやないね」
「わたしはきれい好きですけ」
「誰がきれい好きなんね」
「・・・。はーい」

今日、店内放送で店長から呼ばれた。
行ってみると、店長は一枚の紙をぼくに渡した。
その紙には、
『酔っぱらいのおじさんから、「山芋を買え」としつこくせまられました。こちらが「いりません」と言うと、大声で怒鳴り出し、子供が泣きだしました。ああいう人は出入り禁止にして下さい。店の人も、もっと強気に対応して下さい』
とお客さんの苦情が書かれていた。
ぼくがそれを見て、「『強気に対応して下さい』と言われても、他のお客さんの建前、言えませんよねえ」と言うと、店長も「そうよねえ。その人はいいかもしれんけど、知らないお客さんには良く映らんとねえ」と言う。
こちらとしては、おいちゃんが他のお客さんに絡み出したら、注意することしかできない。

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11月28日(木)
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