ID:1488
頑張る40代!plus
by しろげしんた
[221101hit]

■おいちゃん、しかぶる
このところ、毎日のように酔っ払いのおいちゃんが現れる。
今日は昼間から酔っ払って、他のお客さんにからんでいた。
まあ、この間警察に捕まったばかりなので、トラブルを起こすまでは至ってない。
ぼくのいる売場の隣にある、お客さんの休憩所から時折怒号が聞こえてきた。
「コラー、殺すぞ」
しかしいつものようなドスはきいてなかった。
そのうち静かになり、帰ったものとばかり思っていた。
ところが、たまに「コラー、文句あるんか」とか、「せわしいんたい!」などという声がする。
覗いて見ると、おいちゃんは海老のような格好をして寝ている。
休憩所にある団子屋さんに、「また、おいちゃんの怒鳴り声が聞こえたんやけど」と聞いてみると、団子屋さんは「寝言よ、寝言。時々寝たままで何かしゃべりよるんよね」と言った。
「しかし、今日は珍しくおとなしいね」
「うん、そう言われれば、そうやねぇ。来てすぐは、ほかのお客さんに絡みよったけど、いつもの迫力はないねぇ」
「まあ、起きたらまた荒れるやろうけ、何かあったら呼んで」
とぼくは、自分の持ち場に戻った。

それから30分ほどしてだろうか、さっきの団子屋さんが、「しんたさーん」と血相を変えて走ってきた。
「どうしたと?」
「おいちゃんが、おしっこ漏らしとるんよ」
「ええ?! 寝小便したんね」
「うん、床がもうビショビショ」
「わかった、すぐに行く」
ぼくは、バックヤードに行き、ぞうきんとバケツを用意した。

現場に駆けつけてみると、団子屋さんの言うとおり、おいちゃんの寝ているベンチの下は、一面おしっこだらけになっていた。
ズボンの股付近が濡れている。
ぼくが「おいちゃん」と声をかけても、全然起きる気配がない。
しかたなく、ぼくはおいちゃんのおしっこの後始末をした。
そこにいたパートさんが見かねて、「ゴム手袋でもはめて拭いたらいいのに」と言ってくれたが、ぼくは「たかだか、小便やないね。別に毒薬を触るわけじゃないんやけ」と言って、ぞうきんを絞った。

閉店時間になった。
おいちゃんはまだ寝ている。
ズボンはまだ乾いてないようだ。
「おいちゃん。もう時間よー」
起きない。
ぼくは何度かおいちゃんの体を揺さぶっった。
ようやく目を覚ました。
しかし様子が変だ。
普段なら、ここで大声を上げて、「なんか、コラー!」とくるところだが、今日はそれがない。
「おいちゃん、店閉まるよ。早よ帰らな」と声をかけても、ボーっとしている。
おそらく、「ここはどこか?」などと考えているのだろう。
もしかしたら、「私は誰?」と思っているのかもしれない。
顔が腫れている。
声にも力がない。
高校生のアルバイトをつかまえて、「おまえはおれの子供だ」などと訳のわからないことを言っている。

何分か後に、おいちゃんは立ち上がり、ヨタヨタしながら店を出た。
外は寒い。
股の部分は濡れたままだから、応えるだろう。
ぼくたちは、「今からどこに行くんやろうか」「おそらく、警察やろう」「警察が自分の家ぐらい思っとるけね」などと言い合った。

さて、明日は朝一番に、おいちゃんが寝ていたベンチを拭かなければならない。
これが苦痛です。
臭かったからなあ。
11月09日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る