ID:1488
頑張る40代!plus
by しろげしんた
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■酔っ払いおいちゃん、逮捕される
夕方だった。
突然、聞き覚えのある怒号が聞こえてきた。
「こら、きさま〜。なめとるんかっ!!」
お客さんの休憩所からだった。
ぼくは走ってその場所まで行った。
案の定だった。
聞き覚えのある声の持ち主は、酔っ払いのおいちゃんだった。
久しぶりの登場である。
おいちゃんは、ベンチで惣菜を食べながら、酒を飲んでいた。
「おいちゃん、何大きな声出しよるんね。他の人が迷惑するやろ」
「あ、大将。すいません。でも、子供が生意気なこと言うもんで」
おいちゃんの視線の先には、4.5歳くらいの小さな子が二人いた。
脇には二人のじいちゃんらしき人が座っていた。
「生意気なことっち、まだ子供やん。いい歳して子供相手にケンカなんかしなさんな」
おいちゃんは、「はい、すいません」と言いながら、また子供に向かって、「こら〜! 前科者をなめるなよ」などと凄みだした。
「前科者やないやろ、小心者やろ。いらんこと言いなさんな」
「はい。もう言いません」
「本当やね。大人しくしときよ」
「はい、すいません」

ぼくの姿が見えなくなるまで、おいちゃんは静かにしていた。
が、ぼくが売場に戻ると、子供の泣き声がしてきた。
それから、今度は違う声が飛んできた。
「こら、きさま。子供を泣かせやがって! 表に出れ!」
「何を〜!」
ぼくはまたおいちゃんのいる場所に走って行った。
おいちゃんに絡んでいたのは、子供のじいちゃんだった。
今度は人が入って止めていた。
じいちゃんには、娘が「お父さん、もういいけ帰ろう」と言っている。
しかし、じいちゃんの怒りは収まらない。
おいちゃんには店長代理が「おいちゃん、人に迷惑かけるなら出て行き」と言っている。
しかし、おいちゃんは言うことを聞かない。
「おれが悪いことしたか!」
ぼくが「人に迷惑かけよるやないね」と言うと、おいちゃんは「子供がこちらを見るけたい!」と言い返す。
「じゃあ、こっち側向いとったらいいやん」、とぼくは子供と逆の方向を指差した。
おいちゃんは黙った。
ぼくは、じいちゃんに「すいません」と謝ったが、じいちゃんはまだ怒りが収まらないのか、おいちゃんを睨みつけながら外に出て行った。

それからしばらくして、またおいちゃんの騒ぐ声が聞こえた。
が、だんだんおいちゃんの声は遠のいていった。
「どうしたんだろう」と思っているところに、店長代理がやってきて、「おいちゃん、逮捕されたよ」と言った。
「逮捕ですか」
「うん、あのじいちゃんが連絡したみたい。よっぽど頭にきたんやろうね」
「かわいい孫を泣かされたからですね」
「ま、これでまたいっとき来んやろ」
「案外、作戦やったかもしれんですね。今日は寒いけ、警察で寝たかったんやないですか」
「ああ、そうかもしれんね」

ところで、酔っ払いのおいちゃんは、いつも地下足袋を履いているのだが、その格好といい、頭の形といい、『あしたのジョー』に出てくる丹下段平に似ている。
これからは、矢吹丈ばりに「おっちゃん」と呼ばなければならない。
しかし、段平おっちゃんはボクシングの優秀なコーチだが、こちらのおっちゃんは何をコーチしてくれるんだろう。
強いてあげれば、酒のコーチか。
「立つんだ、ジョー」ではなく、「飲むんだ、しんた」となるわけか。
しかし、おっちゃんのように酒を飲みながら小便をちびる芸当は、ぼくには到底出来ない。
だめな弟子である。
11月02日(土)
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