台所のすみっちょ...風子

 

 

がんばれ日本! - 2003年03月06日(木)

それは銀座線であった。

夜10時。週末の金曜日、ほろ酔い気分の人々で賑わう

電車の人混みの中、そのオヤジはシートに座っていた。

泥酔し、目を閉じている。

体から心棒をとってしまったかのようにうなだれ、

だらしなくぐてぇ〜と開かれた足と手は、

重力というものがこの地球にあることを、まったく感じさせない。


不況、倒産、リストラ、減給・・・・新橋、そしてきっと・・巨人ファン・・

今の日本のすべてを背負ったサラリーマンであった。


オヤジはピクリともしなかった。

とてもおとなしかった。

なのにも関わらず、ある時を境にして、まわりの人達の目は、

彼に釘付けになった。

長い長い鼻水を垂らし始めたからだ。

例えて言うなら、乳白色の千歳飴。

それは「鼻の穴から出てしまいました」というよりは、

「瑞々しい生命が、ゆっくりと誕生してゆく・・」といった感じ。

「鼻水」で片付けてしまうには惜しいぐらいの美しさを持って、

オヤジの膝に今にもつきそうであった。

私達まわりの”観客”はその瞬間を今か今かと待った。

が、鼻水はかなりの粘着力なのか、「あと一歩!」というところで、

びよ〜〜〜んびよ〜〜〜んと微かに揺れはするものの、

決して到達することはなかった。

惜しい・・・。


そんな時間が15分も続いただろうか?

私がその光景に、ある意味感心までし始めた時、

ズッ!と大きな音と共に鼻水が一瞬にして視界から消えた。


・・吸ったのだ。

泥酔し、ほとんど意識なんかないと思われるオヤジが、力強く、一気に

それを吸い上げたのだ。

オヤジの秘められた力、そう、底力を見た。

いや、サラリーマンの、と言った方がいいかもしれない。


日本はまだまだ大丈夫だ。



なんちゃって。


おしまい。


...

本能 - 2003年03月05日(水)

あれほど「買ってくるなよ!」とお願いしていたのに、

先週、旦那がついにスケートボードを我が家に連れてきた。


35000円也。


彼は私と目を合わせようとはせず、しかし口からはするすると高いトーンの

音を出しながら「このボードでサーフィンの体重移動の仕方を練習するんだぁ〜」

などと言う。


私は「年末にウエットスーツを購入したばかりというのに、またこんな物を・・」

と思い、同時に頭の中では無意識に今までサーフイングッズに

かかった金額が足されてもゆき、「しめて〜〜円也〜〜!!」という合算が

出た瞬間、彼の明るい声とは裏腹に、さめざめと泣きたい気持ちになって

くるのであった。

ふ〜〜・・彼のサーフイン熱は留まることを知らない・・・。


もともとスポーツ好きである。

私はまったくそれをしないので、彼の熱中ぶりは理解できないところもあったが、

「スポーツに対する思いは、きっと私がかつて持っていた絵に
 対する情熱と同じであるのだな・・」

と、そんな彼のすべてを呑み込むように、私は努めてきたのだった。

こんなふうに「趣味と金のバランス」が崩れるまでは・・。


しかし、今となってはもう遅い。

文句を言おうにもボードは稲荷町のスポーツ店から、

彼の手によりドナドナ的にこの家に、やって来てしまったのである。

まさか返して来い!と言うわけにも行かず、仕方なく我が家の一員と

なってしまった。


その夜、彼は本当にうれしそうであった。

寒い日であったのに、10時頃に夕飯を食べ終わると

「ちょっと滑ってくるね〜〜」といそいそと出掛けて行った。


スケボーのできる場所は近所で限られている。

私は彼が帰ってくる間中、古参の若いスケボー少年達に

「ジジイがこんなとこで若ぶってんじゃねぇ〜よ!」と因縁をつけられ、

ボコボコにされるんではあるまいか?と非常に心配だったが、

一時間後帰ってきた彼は、頬を紅潮させとても愉快そうであった。


そして「すっごく良かったよ〜ありゃ〜練習になるね!」

と、いかに陸上でスケボーをやることがサーフイン技術の向上になるか

私にトクトクと説明してくれ、「こうやってぇ〜・・こうやってぇ〜・・」と

フローリングの床の上でポーズまで取ってくれる。


その恰好を見てるうち、彼が急にボードを買ってきてしまったことなど、

なんだかどうでもよくなってしまった。

というか、可笑しささえ感じた。

両腕を広げながら、肩を少しいからせ、腰を落とし、足をたぶんボード

の幅であろうと思われる分だけ開いた姿は、まさに類人猿。

食べ物を他の仲間にとられて唖然と固まる、人類の祖先のようであった。


その時、私はようやく分かったのだ。

彼のスポーツ好きは趣味ではない。それは体からむくむくと自然に湧いてくる

例えば性欲とか食欲と同じたぐいのもの。

そう、”本能”なのだと。


おしまい。


...

相談。 - 2003年03月04日(火)

日曜日の夜からなんとなく具合が悪く、

家にいても、パソコンにちょっと向かっては、ぐてぇ〜と

横になってしまう始末。

そんな時、やはり目に浮かぶのは、愛する旦那。

彫刻刀で丸太を粗彫りしたような力強い彼の顔である。

一目見れば、具合の悪さも吹っ飛ぶに違いなかった。

「きっと、今日も遅いんだろうな・・。早く帰って来ないかなぁ」と

いつになくしおらしい私になって、日中を過ごす。



夜も更けた10時半、やっと旦那が帰宅。

赤ん坊と大差のない”パンツ一丁”のくつろぎ姿の旦那に、

換気扇の下でぼんやりしたこの体のだるさを訴えていると、

とりとめのない話に丁寧に耳を傾けていてくれた彼が、私を見つめ

そして優しくその手を差しのばし、まくっていたセータからむき出しに

なっていた私の腕をそっと撫でながら言うことには、


「取り敢えずさっ!この腕の剛毛、剃ってみよぉ〜〜〜!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」



その時、換気扇だけがゴウゴウと音を立てていた・・。


おしまい。


...




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