きりんの脱臼
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ここは、なかはられいこ(川柳作家)と村上きわみ(歌人)の
コラボレーションサイトです。(ゲスト有り)
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屋上にピアノが吊り上げられてくのを見てます。Q1・努力しますか? 鈴木二文字
「まぶたが閉じないんだ」 どんなに努力しても。
と、あたしのあたまを両手でかかえながらYは言う
「眠るときにも?」 「そう、眠るときにも」
深夜、オレンジ色の豆電球のあかりをかすめて 兎や山羊の影が部屋を通り抜けるのが見えてしまうと言う
「眠ってるのに?」 「そう、眠ってるのに」 やつらは決まってぼくの頭の方から足の方へ移動するんだ。 つまり東から西へ、ね。 それに意味があるのかって? そんなことは知らないさ。
あのね、兎や山羊ならどうってことなかったんだ。 蝦蟇蛙の影が団体で通ってくのも、まあ、いい。 だけど、きのうなんて蝉の団体、だったんだぜ。 しかも飛んでくんじゃないんだ。 しゃかしゃかしゃかしゃか歩いてた。 あの足で。
さいあくだ。
話し続けているうちに眠ってしまったのか あたしの髪をなでていたYの指がとまる 「眠ったの?」 開いたままの目を覗きこんでみる 充血した白目のまん中に暗い夜の森の湖みたいな瞳があって 湖の中心に浮かぶ浮き島のように虹彩が揺れている
見なくてすむものまで見えてしまうことと 見せたくないものまで見られてしまうこととは どちらがつらいのだろう
閉じないまぶたと 隠せない影
首にまわされた腕をそっとはずし あたたかいベッドから起き上がる
月明かりの射し込む部屋を 東から西へ通り抜けてゆくあたしの影を映して Yの虹彩はいま揺れているだろうか
錆色の飛沫になって眠ってる なかはられいこ
ただ一度つよく呼べ 老いた竜王のようにするどくひくく名を呼べ 村上きわみ
*
ぜってー モテ殺す!
って罵声を浴びてから10年 ビクともモテないっすよ 困りましたね田中君 あんなに念を押したのに 寄せて上げてエジソン あんなにジャンプ読ませてあげたじゃないっすか 痴情のもつれ 心中 腹上死 たのしみにしていましたのに
のちに再会する田中君の言い分はこうだ だっておまえ のことが好きだ ドヴォルザーグ抜歯 知ってるよ。 こうして滞りなく予告は成就するわけですが そのまえにお裾分け名人の話をしましょう お裾分け名人とは当時の西学区で流行った怖いうわさ 高速道路に現れてはハシから持っているものをお裾分けするという お裾分け名人は いつも右手より左腕のがちょっと長くて 見蕩れているうちにまんまと握らされてしまう 乾麺 どんなに抵抗してもだめ お裾分け名人はいつも ほどよくくるぶしにまもられていて 見蕩れているうちにうかうかと分けられてしまう だらしない僕ら どんなにシカトしても 手をひらけばいつのまにか 自他共に認める手裏剣
はい 息を 大きく 吸って みたらし団子
(とか言ってるうちにもモテないっすねー)
長じて冷蔵庫のドレッシングの瓶をちょびっとずつ残したまま 片付けられんくように長じた僕は ネクタイを解くのもそこそこに 名人と出会った田中君にお裾分けされる 満月の高速道路のうえ アラザン決算 和歌山県のことばかり略さないで 知ってるよ。 こうして僕らは手を取り合って 僕らを引き合わせてくれた名人を高く高く見上げるのだが そうしているうちにも お裾分けられるものが刻一刻と微妙になっていって 黒鍵 白鍵 やさしい まぶた 僕らは名人の死期がちかいことを知る
満月の高速道路のうえ ド根性細木数子 ベンツみたくにクンクン集まってきたピアノたちといっしょに ヒントになるまで お裾分け名人を やさしく僕らはお裾分けする
*
屋上にピアノが吊り上げられてくのを見てます。Q1・努力しますか? 鈴木二文字
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