きりんの脱臼
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ここは、なかはられいこ(川柳作家)と村上きわみ(歌人)の
コラボレーションサイトです。(ゲスト有り)
BBSもあります。ご意見・ご感想など気軽にお寄せくださいね。
メールマガジン「きりんむすび」もどうぞよろしく。
くちびるに包まれるまで水でした なかはられいこ
おそろしく純度の高い憎悪をかかえこんだまま おまえがやってくる 脛には かわいた泥がこびりついていて それは火傷のあとのようで
(夏だね)
(うん 夏だ)
葡萄の蔓を編んでこしらえた籠に いびつなかたちのパンがいくつもほうりこまれる コンビーフの缶の底は錆びついていた どこかの国の戦争のように
(水をくんでこよう)
(うん 水をくんでこなくちゃ)
廃屋の濁った窓ガラスに悪態のことばを書きなぐる 悪態は愛のことばによく似ている あるいは やむことのない憧れに あるいは ねじまがった鉄骨に
(だれもいないね)
(うん だれもいない)
下着をつけていないおまえのからだからは 干したあんずの匂いがした 死んでしまった者たちにかわって おまえのなかに ゆっくりはいっていく
(今 なにを考えている?)
(ふるい井戸の底に沈んだ小石のこと)
えいえんをほしがっているドラゴンの翼のうえで抱き合いながら 村上きわみ
裏返すときにおかしな音たてるおまえのからだ こわしてもいいか? 村上きわみ
これは みず の音なのか それとも すな の音なのか
裏返したり 折り畳んだり 入れ替えたりするたびに 聞こえるこの音
窓ガラスにあたる雨のような 砂漠をわたる風のような とても遠くて とても近い
おまえのからだに詰まっているものの正体を 見てみたい 猛烈に
*
わたしはむすぶ。
はてしなく遠くて、 かぎりなく近いものたちを。
回覧版と飛行機雲を シャワーノズルと朝顔の蔓を 骨の折れたビニール傘と欅並木を アスファルトにチョークで描かれた魚と噴水を
はしっこをほんのすこしひっぱるだけで、 ほどけたいときに、 ほどけたいだけ、 ほどけるように。
ゆるく、ゆるく。
ほら、 いま音が聞こえたでしょう?
どれかほどけたね。
くちびるに包まれるまで水でした なかはられいこ
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