きりんの脱臼
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ここは、なかはられいこ(川柳作家)と村上きわみ(歌人)の
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生乾き 朝の線路も樅の木も なかはられいこ
銀座線上野広小路駅の改札を抜け、2B出口の階段を昇ると、ちょうど松坂屋のシ ョウウインドウの前に出る。そこで声をかけられた。ひょろっとした22,3歳の男。 茶色いサングラスみすぼらしいあごひげを生やし、深緑のダウンジャケットに白銀の ナイロンパンツという格好で、小刻みに震えていた。
男は、自分のことをユウジだと名乗った。ユウジの部屋は、極めて物が少なかった。 部屋のど真ん中にベッドが置かれてあり、その周囲には、服などを入れる収納ラック が囲んだ。 俺達はベッドに並んで腰掛けて口づけをした。それからユウジは丁寧に俺の服を脱 がすと、俺をベッドの上に仰向けにさせ、自分も全裸になると、そっと覆い被さるよ うにしてきてまた口づけをした。ユウジの唇や舌は滑らかに俺の耳やうなじへと移動 してゆき、その後じっくりと時間をかけて乳首を吸った。ユウジはまんべんなく俺の 上半身を愛撫した後、今度はじらすように俺の足の指先をしゃぶり始めた。俺は、我 慢が出来なくなり、ユウジの名をやさしく呼んだ。ユウジは上目遣いをしながら、俺 の方を見ていじわるく笑った。 それからユウジは俺を四つん這いにさせようとしたが、俺は拒んだ。俺はユウジの 髪の毛を軽く掴むと、自分の股間へともっていった。 俺は全身の神経という神経が黄泉がえるような気がした。たまらなくなって体が 震えた。そして、果てた。
ユウジは一緒にシャワーに入ろうと言ってきたが、俺は断った。待っている間、空 き缶を灰皿代わりにして、煙草を3本吸った。3本目の途中で、おえっ、となった。 おそらく、すっかり胃がやられているのだ。バスルームから、ユウジの鼻歌が聞こえ てきた。あ〜れ〜か〜らぼくは〜い〜く〜つの〜、という歌だ。ユウジがそのフレー ズを繰り返していたので、さすがに覚えた。だが、なんていう歌で誰が歌ってるのだ か、俺は知らなかった。 俺も簡単にシャワーを浴びた。バスタオルを貸してくれとバスルームからユウジを 呼んだ。ごめん、うち、バスタオルいっこしかないんだよ〜、とユウジが言った。だ からぼくがさっき使ったの使って、と。 生乾きのバスタオルは嫌いだ。フジテレビの女子アナくらい嫌いだ。けれど、己の ことを文化人だと思っている馬鹿よりはマシだ。けれど、やつらも一晩中続く歯痛よ りましだ。こういう順位付けがなんだっていうんだ?
毛布にくるまりながら俺達は一緒にベッドの上で寄り添った。腕まくらして、とユ ウジがせがむので俺はその通りにしてやった。 「ねえ、一緒に死のうよ」 ユウジが言った。 「やだよ」 俺は答えた。 「どうして?」 「どうしてって、そりゃホモの心中なんてさすがに恥ずかしすぎるだろ」 するとユウジは笑った。 フェフェフェフェフェフェフェフェフェエフェフェフェフェフェフェフェフェフェ フェフェフェフェフェフェフェフェ・・・・ ユウジの笑い声は、この上なく気色が悪かったが、ユウジのその時の顔はとても哀 しそうだった。 やれやれ、一体全体、この世のどこが楽園だって言うんだ? そう思いながら俺はユウジの頭の後ろにそっと手を回し、自分の胸もとへ抱き寄 せた。
眼裏の世界地図から日が昇るかみさまはどこ行ってんだ今週 ぶさぶろう
乾かない昨日の水着はくようだ淋しさだけで重ねたからだ 望月浩之
がまんできないことっていうのは世の中にたくさんある。 穫れすぎたキャベツみたいにそのへんにごろごろ転がってる。 ほったらかしにされて。 なかでも、湿ったままの水着をつけなきゃいけないケースっていうのは、 上位にランクインされることまちがいなしだ。 サイテーだもの。
ふだん外気に晒されたことのない皮膚に、 じとーっと冷たい布が触れる、あの瞬間。 ほんのかすかになまぐさい匂いが立ちのぼる。 まるで爬虫類かなんかと肌を合わせているみたいでぞっとする。 ああ、思い出すだけでも全身に鳥肌が立つよ。
*
悪かったわね。 乾ききれてなくて。 だからってそんなに嫌わなくてもいいじゃない。 右の足を通るとき、思いっきり顔しかめたわね。 続いて左の足を通るとき、ふかーいため息をついた。 ええ、ええ、悪かったわよ。 あたしだってこんなつもりじゃなかったんだから。 あなたが身体を押し込むのに苦労しなきゃいけないほど、 カラカラに乾いてきちんと縮んでいるつもりだったんだから。
湿ったあたしの内側があなたの乾いた肌をじっとりと包みこむ。 あなたの体温であたしはゆっくりとあたたまってゆく。 そして、ほんのかすかに水蒸気が立ちはじめるころには、 あなたはあたしに親しんでさえいるんだわ。 あれほど不快だったはずなのに。
「やれやれ、なんてやっかいな……。」 って思ってる? 生乾き 朝の線路も樅の木も なかはられいこ
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