きりんの脱臼
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ここは、なかはられいこ(川柳作家)と村上きわみ(歌人)の
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雨なので ポケットの中のくしゃくしゃのレシートをわたしにくださいな 村上きわみ
拝啓。 きのう、ドトールの柳橋店ですれちがったものです。 あなたが座っていた席にくしゃくしゃのレシートが一枚落ちていました。 わたしは噛んでたガムを捨てようとして、 なにげなく皺を伸ばしてみたのでした。 ファミリーマートのレシートでしたね。 おにぎり2個と、洗濯バサミと、ウナコーワ。 「ふっ」と笑いました。
いや、ですからね、たとえばあれが 紀伊國屋書店とかタワーレコードとかESSOだとかのレシートならば、 わたしは「ふーん」と思ってそのままガムを丸めて捨てたでしょう。 100歩ゆずって、ファミリーマートのだとしてもですね、 スパゲティと、歯ブラシと、シェービングクリームであったならば、 やっぱり「ふーん」と思っただけなような気がします。
わかりますか? この「ふーん」と「ふっ」の差は大きいです。 あなたがおにぎりを食べながら洗濯機に洗剤を放り込んでるところや、 ウナコーワを塗って「くー。」とか言ってるところを想像するだけで、 はからずも口元がゆるみます。 それはなんだか、ほわんほわんしたしあわせな気分です。 たぶん、もう二度と会わないでしょうけれど、 いつかどこかのコンビニですれ違うこともあるかもしれませんね。 それまでどうぞお元気で。 かしこ。
しわくちゃの空とぼくとを記憶する なかはられいこ
あいさつはしたし雨だし、だいじょうぶ なかはられいこ
むかしむかし、とある森の奥に「どうしようの人」がひとりで住んでいました。 「どうしようの人」はとてもこわがりなので、四六時中「どうしよう」と考えて 夜も眠れませんでした。 ・・・眠っているあいだに空が破れてしまったらどうしよう。 ・・・明日の朝、枕元で巨大な栗鼠がじぃっとこっちを見ていたらどうしよう。 「どうしようの人」はどうしようと考えるのが仕事のようなものなので、こんな ことはいくらでも思いつくのでした。
同じ頃、川のほとりには「だいじょうぶの人」がひとりで暮らしていました。 「だいじょうぶの人」だからといって何事にも確信をもっている、というわけで はありません。「困ったなぁ、でも、だいじょうぶ(確信はないけど)」という のが彼の基本スタンスです。まあ、口癖みたいなものです。けれど「だいじょう ぶの人」はその口癖のおかげで、とりあえず夜はぐっすり眠れるのでした。
と、ここまできて「当然この先ふたりはどこかで出会うんだろう」と思った方に は申し訳ありませんが、ふたりは一生出会うことなく終わります。 「どうしようの人」は森の奥で、「だいじょうぶの人」は川のほとりで、ふたり 別々に「どうしよう」「だいじょうぶ」と言い続けながら、生涯を終えます。 それだけのお話。教訓もオチもありません。
でも、ちょっとだけ、会わせてみたかったよね。
雨なので ポケットの中のくしゃくしゃのレシートをわたしにくださいな 村上きわみ
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