ベッド脇のサイドテーブルには、山積みの文庫本。 黄色と白の背表紙の講談社文庫。 知人からごっそり借りてきた村上春樹。
ぺらぺらページをめくりながら、ノルウェーの森が大ベストセラーになるまだ前の17年前のことをまざまざ思い出していた。
* * * * *
17年前、私は大学を卒業して、地元の企業に就職した。 会社の新入社員研修で、席が近かったH君という男の子とちょっとばかり親しくなった。
研修期間の最初の週末、免許取立ての私の危うい運転で、石川県の千里浜という有名なデートコースまでドライブした。
千里浜の砂の上で車をとめ、雲に呑みこまれそうな水平線を見ながら長い間、いろんな話をした。
「祐子サンは、村上春樹、知ってる?」 「誰それ? 研修にきてる人?」
「ううん、違うよ。作家。最近、『ノルウェーの森』って本出したの。赤と緑の上下巻で。買ってからもう何度も読み直したんだ。
俺さ、共鳴するところがいっぱいあって。登場人物で俺の知り合いによく似た女の人がでてくるんだ。
この話のどの人の気持ちも手に取るようにホントによくわかるんだよ。切ないところがうまく書き表してあって何ともいえずいいんだよ。
この本はこれから絶対ヒットするね。祐子サンも絶対に買って読んでみるべきだよ。絶対に気に入ると思うよ」
「『ノルウェーの森』って、ヨーロッパが舞台なの?」 「いや違う、日本。ビートルズの曲の名前をタイトルにしたんだよ」 「フィヨルドのノルウェーの森かと思ったのに、違うのか・・・」
「祐子サン、ビートルズの曲、いくつか知ってる? 今、歌える?」 「え? 英語の歌詞まではわかんないけど、メロディならわかるよ」 「じゃ、歌詞教えるから、サビの部分だけでもいいからはもろう。祐子サンは主旋律を歌って」
H君は、早口で歌詞を先取りして私に教えながら、私の声にはもらせながら、忙しげに歌っていた。
私はそれほど音痴なわけじゃないんだけど、熱狂的なビートルズファンでもないし、バンドのボーカルでもないし、たぶんH君の満足行くようには歌えなかったことだろう。 それでも、H君は人と歌うのが好きならしく、私たちは車の中で、ビートルズの歌を知ってる限り、ふ〜んふふふ〜ん、っと片っ端から歌った。 二週間の研修のあと、それぞれの配属が発表され、H君は遠くの営業所に勤務することになった。H君はさわやかな笑顔で研修先を後にした。
そしてその後、H君がいった通り、「ノルウェーの森」は大ヒットした。
その年の夏になる前に、H君から一枚の絵葉書が来て、私が海外に赴任して、そのままお互い音信不通になった。
本社出身の同期の仲間からの風の便りによると、今は香港社に赴任しているという。配属先は海外赴任するような部署ではなかったんだけど、狭い日本に耐え切れず、自分から海外勤務を申し出たのだろう。語学が堪能な野心家のH君らしいなと思った。
* * * * *
最近、たてつづけに村上春樹を読んでみると、ストーリーの中にH君がでてきたのかと錯覚してしまうほど、村上春樹の登場人物とH君は似ていることに気づいた。趣味とかしゃべりかたとか。それも特に初期の作品。 本当にH君は、「ノルウェー」がブレイクする前の、初期からの村上春樹作品を純粋に愛し、影響を受け、全てを取り込むべく感化されていたんだろうな・・・と思う。
H君、元気かな。今ごろ、いいマイホームパパさんしてんだろうな。
| 2004年05月15日(土) |
椎名誠著「ぱいかじ南海作戦」 |
椎名誠著「ぱいかじ南海作戦」新潮社刊
ストーリーにぐいぐい引き込まれるように読んだ。 何だか嬉しくなってきた。
この作品は椎名氏の経験をもとに書き上げたフィクションなのだろう。 海を愛して、アウトドアを愛して、サバイバルを愛して。
全体的にフィクションの視点で語られているこの作品、ところどころに生身の椎名氏の視点が混ざり、ハッとさせられる。
読者の耳元に語りかけてくる何かがある。 今後、間違いなくヒットするだろう。
今日はポプシンの森で、日本人会主催の森林浴でした。 一時間あまり、森の中を散策。 ぷらぷら歩くのは、ゴルフで球を追って歩くよりも疲れるものだ。 午後からあいにくの雨。予定より早々と退散。
今週は、外出を控えて読書をしている。純文学。
井上靖著「しろばんば」 洪作とおぬい婆さんの深い絆に涙。さき子への慕情に涙。 洪作の精神的成長に涙。何回読んでも涙。 後編のストーリーでところどころ忘れてた箇所があった。
泉鏡花著「高野聖・眉かくしの霊」 一応読破したけど、よくわかんなかった。我が解力の問題か。 夏目漱石著「それから」 最初の3分の2はストーリーに入っていけなかった。 三部作の「三四郎」は冒頭から貪るように読んだけど、これは途中で寝てしまうこと数回。でも、よくある話も、文豪の手にかかるとこんな素晴らしい文学になるものなんだ・・・と感銘。
夏目漱石著「門」 これから読む。三部作の完結編。
川端康成・三島由紀夫 往復書簡 ぺらぺらと本をめくっただけで、涙。手紙の文章はあまりにも生々しい血が流れている。文章が息づいて生きている。巻頭の二人の写真を見て涙。今週末にかけてじっくりと。
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