2002年01月25日(金)  絨毯に宿る伝統

東京ビッグサイトで行われている日本最大のインテリアの国際見本市JAPANTEX2002へ。インテリアとわたしの接点といえば、絨毯。映画『風の絨毯』に登場する絨毯製作でご協力いただいたフジライトカーペットのブースが風の絨毯をテーマに展開しているということで、見学にうかがった。イランの伝統芸術であるペルシャ絨毯と飛騨高山の匠たちの技と心を注ぎこんだ祭屋台。それぞれの魅力と、この二つが作品で出会う経緯がわかりやすく展示されていた。ロケハンのために来日したタブリーズィー監督、プロデューサーのショジャヌーリ氏も訪れていて、ご挨拶する。監督は3分の1サイズの展示用の祭屋台を見て、「本物を見るのが楽しみだ」と穏やかな口調で語っていた。『Spring 春へ』『トゥルーストーリー』の翻訳をされたゴルパリアンさんにもお会いできた。日本で公開するイラン映画は、ほぼすべて訳しているという。「こんな若い人とは思わなかった」と言われたが、わたしも名前の響きからてっきり男性かと思っていたら、チャーミングな女性だった。

ブース内にはペルシャ絨毯織りを体験できるコーナーもあり、講師の方の手ほどきを受けて、挑戦。資料で見たビデオではリズミカルに結んでいたが、相当熟練しないと、ああはいかない。番号を書き分けた方眼紙、番号と織り糸を対応させた色見本、織り糸。この3つを見ながら織っていく。中には11113332244……と数字だけ書かれた指示書もあり、織り上げるまで、どんな図柄が出てくるかわからないという。

フジライトの常務取締役の富田明博氏ともご挨拶する。やわらかい大阪弁を使う、あったかい雰囲気の方。「うちは、もともと大阪の会社なんです」。わたしが堺市出身だと告げると、「発祥は堺市の北野田です」と言う。「堺式だんつう(段と通に糸偏がつく)という織り物があったんですが、今では継承者がいなくなり、かろうじて堺刑務所で守り伝えられているんです」とのこと。こんな話も聞けて、実り多い二時間だった。

今日はこれから大学時代の応援団仲間と会う。大学は別々だが「激動の四年間を共に生き抜いた」という連帯感から『激四会』と名付け、たまに集まる。最初に盃を干した者が先輩の名刺を頂戴できるとか、石油ポンプで酒を飲むとか、部外者とは分かち合えない特殊な世界だったが、これも日本特有の文化なのかも。


2002年01月24日(木) 主婦モード

■午前中、得意先でミーティング。主婦向けの商品だが、出席者はわたしを除いて全員男性である。「家族の健康を気づかう主婦としては、こういう方向のメッセージのほうが……」と、ここぞとばかり主婦の視点を主張。ふだんは忘れているが、いちおう主婦なのだ。実感が伴っていると、説得力がある。■家の近くの生協で晩のおかずを買って帰る。今日は「組合員 お魚1割引」の日。なのにレシートを見ると、割引になっていない。組員メダルを持っているか聞かれなかったので見せなかったら、非組合員だと見なされたのだ。甘エビ298円。約30円の損である。だが、迷った末に、レジのお姉さんに言うのを諦めて店を出る。甘エビには、すでに4割引のシールが貼ってあった。「この人、4割引で買った上に、まだまけさせようとしてるわ」と思われるのを恐れたのだ。弱い。会社や映画製作では一千万単位の話をしているが、主婦のわたしは十円の世界に生きている。■主婦の自覚がないのは、主婦らしいことをしていないからである。わたしのレシピ集は教訓集にしかならず、片付けているつもりの部屋が明らかに散らかっていく。「炊事、掃除以外なら、まかせて」とダンナに開き直ったら、「それで許されるのは美人だけだ」と一喝された。お気楽主婦を容認されているということは、美人の証?いや多分違う。あまりのダメ主婦ぶりに、自分で嫌気が差すこともある。昨日帰宅したら、台所から異臭がしていた。流しに積まれた食器をかきわけると、案の定、排水溝が詰まっていた。イヤなことは後回しにする性格なので、今夜ヌメリ退治を決行。新聞紙、穴のあいた靴下、毛先の開いた歯ブラシ、ビニール袋などを動員し、ヌメヌメと闘う。とりかかるのは億劫だが、やり始めると、ムキになり、楽しくなってくる。ピカピカになった排水溝に、生協で買ってきた『五日間だけ待って頂戴』を吊るす。納豆菌の仲間の酵母が自然分解するチカラで、汚れやヌメリが付着するのを防いでくれることになっている。五日間というのは、彼らが本格的に活動開始するまでのウォーミングアップ期間らしい。がんばれ、納豆菌の仲間!


2002年01月23日(水)  ラッキーピエロ

■間違い電話のおかげで、ひさしぶりにさおりと話をする。携帯電話で近くに登録した人にかけるつもりだったようだ。小学五年のときの家族旅行で蓼科に行ったとき、地元の五年生が授業で観光客にアンケートを取っていた。余白に住所を書いておいたら、返事をくれたのがさおりだった。そこから文通がはじまった。今みたいにメールで気軽に全国の人と知り合える時代ではなかったので、一通一通が刺激的だった。さおりの学校では、運動場に水をまいておくと、翌朝にはスケートリンクに変身するのだ!はじめて生身のさおりに会ったのは、修学旅行で蓼科を訪れた中学三年の秋。クラスメートに「わたしってどう見える?おかしくない?」と何度も確認し、感動の面会。思った通りの女の子だった。さおりも失望しなかったのか、つきあいは今日まで続いている。大阪と長野にいた二人がなぜか今は東京にいて、去年は一時期、同じビルで働くという偶然もあった。不思議な縁だと思う。■函館のハンバーガーショップ『ラッキーピエロ』から葉書が来ていた。映画祭で訪れたとき、アンケートに「パコダテ人でお世話になりました」と書いたのだが、その返事らしい。印刷の定型文の余白に「映画完成おめでとうございます」と書き添えられているのがうれしい。97年に出会って以来のラッピファンだが、ますます好きになる。オリジナルのシナリオにはなかったが、主人公たちの行きつけの店をどこにしようという話になって、「ラッキーピエロがいい!」と言ったのを、監督やプロデューサーが実現させてくれたのだ。監督は自腹で買ったラッキーピエロのTシャツを着て、交渉に行ったらしい。わたしのイチオシのチャイニーズチキンバーガーもちゃっかり出演。自分の好きな食べものが作品に登場するなんて、愉快だ。


2002年01月22日(火)  夢

■就職活動時代、東京から西へ向かう新幹線の中で出会った同級生のS君は、第一印象から不思議な人物だった。先日五年間の渡米生活に終止符を打ち、日本に帰ってきたが、渡米のきっかけは地下鉄サリン事件に遭って会社を辞めたことだった。ひょんなことからアソシエートプロデューサーとして関わった映画『Bean Cake』がカンヌ映画祭で受賞し、授賞式にも行ってきたという。そのS君から「team Oscar」メールが届くようになった。オスカーはあのアカデミー賞のオスカー像だ。それを手にするために今日自分は何をしたかが短い文章で綴られている。「しまった!何もやっていないのに一日が終わった!」「今日はこういう本を読んだ」といった具合。誰かに読んでもらうことで自分を奮いたたせているのかなあと思う。わたしは何をめざすのかな。■『ディズニーファン』のコラムで、パパイヤ鈴木さんがかつて東京ディズニーランドのダンサーだったことを知る。Disneyland is your landの歌詞に「好きなことはなんでもかなう」という一節があるという話に続けて、「必ず雨が降る雨乞いの踊りというのがあるんですけど、それはどうしてかというと、雨が降るまで踊り続けるからなんです。だから、夢だって見続けていれば絶対かなうんです」。夢を見続けるにはエネルギーが要る。雨乞い踊りを続けるように。ほめられたり認められたりすると馬力が出るが、神様のごほうびがないと、ガス欠になって立ち止まってしまうわたし。
(後日談。2004年、朝日新聞で、漢字一文字をタイトルにして毎回一人の行き方に光を当てるコラム連載があった。ある日、目に留まったタイトルは『夢』。取り上げられていたのはS君だった。記事を読んだときはこんな日記を書いていたことを忘れていたけれど、タイトルが同じでびっくり。2004年6月16日)


2002年01月21日(月)  祭り

■文化祭、体育祭が大好きだった。お祭りと聞くと血が騒ぐ。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭。そそられる名前だ。国際とつくと、カンヌ広告祭のあの熱気と興奮を想像してしまう。パコダテ人は招待されたが、脚本家はされない。早く無名時代を脱出するぞ。三木プロデューサーから「行かないんですか?」と電話。14日の開会式から参加し、16日の札幌初日に立ち合うスケジュールらしい。面白そうだ。■会社近くのカフェSolare(URLがpront.comということはプロント系列?)で夕食。前から気になっていた「きなことアーモンドと黒蜜のパンケーキ」がどうしても食べたくて、さんざんおかずを食べた後にオーダーしてしまう。薄っぺらいのが一枚だけ来るかと思ったら、堂々たるホットケーキが三枚。しかもてっぺんにはアイスクリーム。アイスの山を崩して大胆にほおばると、なんとバターだった。一枚でギブアップし、残りは朝ごはん用に持ち帰る。


2002年01月20日(日)  浮き沈み

■プロデューサーに追加の原稿をメール送信した後で、着信メールに気づく。前回送ったものに満足されていない様子。時間がなくて、プロット打ち合わせをすっ飛ばしてシナリオにしてしまったせいか、ずれているようだ。■夕方まで家にいたので散歩したくなる。「歩いてない道を行こう」とダンナと話し、行くべき場所があったことを思い出す。家から一時間ほど歩いた場所にある教会。使用済み切手をボランティアに役立てているという新聞記事を読み、集めていたのだ。地図をたよりに閑静な住宅街を抜け、着いた教会は椿山荘の向かいにあった。最近はメール中心になり、切手のついた手紙を受け取る機会も減ったが、手に取って読む便りの温もりは、何にも替えがたい。かつてわたしにうれしい知らせや楽しい話を届けてくれた切手たちを見ながら、ひさしぶりに便せんに向かうのもいいかと思う。■cafe発掘に失敗し、二年ぶりのfreshness burgerでスープとバナナケーキの軽食。黒板にはラザニアバーガーの誘惑。■家に帰るとプロデューサーから、昼に送った原稿の返事メール。「素晴らしい!」の言葉に胸をなでおろす。温度差が広がったらどうしようかと心配していたが、同じ方向をめざしているなら大丈夫。


2002年01月18日(金)  ショーシャンクの空に

■プロデューサーに勧められた『ピクチャーブライド』を借りにビデオ屋へ。あっさり「置いてません」と言われ、他の作品を探すことに。ダンナが「これはどう?」と差し出したタイトルを見て、思わず叫ぶ。「ショーシャンクの空に(THE SHAWSHANK REDEMPTION)!」。昨日、掲示板に書きこみがあったばかり。そんなこと知らないダンナは、「スティーブン・キング原作(『刑務所のリタ・ヘイワース』)だから面白そうだな。『グリーンマイル』もよかったし」と単純に考えたらしい。しかし、ここまで感動するとは思わなかった。主人公は、妻殺しの濡れ衣を着せられ、終身刑に処せられた元銀行員。絶望的な状況の中で希望を持ち続ける難しさと尊さを、彼とともに考えさせられる。「心の中には誰にも侵されない場所がある。それは希望だ」。ラストのoak treeのシーンから後は涙。「無事国境を越えられたらいいと思う。友と再会を喜べたらいいと思う。太平洋の海が想像したように青かったらいいと思う」。I hopeを繰り返すモノローグが美しい。希望は生きる力になる。■FMシアター『ホンジョイル』を聴く。韓国から来日した大エースと在日韓国人の二流バッターがプロ野球で対決するという設定が面白い。野球選手としても日本人としても揺らいでいた在日韓国人が、自分のよりどころを見つけるまでが丁寧に描かれていて、引きこまれる。


2002年01月17日(木)  HAPPY

■外資系のジョブハンターから電話。「今の会社でハッピーだから転職は考えていない」と断ると、「Happyな人は、どこに行ってもHappyだ」。思わず「いいこと言いますね」と言ってしまう。■セブンイレブンで700円に1枚スクラッチカードがもらえ、4か所の数字をめくって当てると500円券になる。1つの数字をめくるのに3つの箱から選ぶので当選確率は1/3の4乗で1/81(でいいのかな)。昔は光に透かすと数字が見えたのだが、最近は印刷技術が発達したのかインクの盛りが良くなったのか、家の蛍光灯では読めなかった。で、会社のライトボックス(透過光でポジを見る機械)に挑戦したが、やはりダメ。「何やってんの?」と同僚が集まってきたので事情を話すと、みんなも財布からスクラッチカードを出してきた。蛍光灯に透かしながら「見えるような、見えないような…」。たまたま勘が当たって4ケ所的中したところ、エスパー並みにもてはやされる。でも、その後は全部ハズレ。指で銀色の部分を薄く削ったり、紙を真ん中で剥いだりしたが、見えない。こういうことをする人間がいるので、対策を講じたのだ、きっと。「全部めくってから、間違えたとこに銀色のクロマ(インレタ)を貼ればいい」と言い出す人も。スクラッチカードひとつでこんなに盛り上がれる、やっぱりハッピーな会社だ。■昨日の夕刊に新ドメイン「.name」の記事が出ていたのでネットで検索する。日本ではまだ受け付けてなかったので海外のドメイン取得サイトへ。DomainProcessor.comというサイトに出会う。料金はフリーの転送サービス込みで年間20ドル(.nameは25ドル)。日本のサイトで登録すると、年間4200円+月々980円の転送料がかかり、一年で約16000円。この差は何なんだろう。よくわからないが、とりあえず申し込んでみる。


2002年01月15日(火)  ノベライズ

■大学時代のクラスメートI君から、パコダテ人ノベライズ原稿の感想メールが届く。「地下鉄で読んでたんだけど、乗り過ごしてしまった。しかたなくUターンしたが、そこでもたまらず読んでしまいまた乗り過ごし。読んでるあいだは目的地に着けないな、こりゃ」。先日部屋を片付けたとき、I君が入院中にわたしが出した『宿題』(創造力テストみたいなもの)を発掘。「紙コップの使い方をできるだけ述べよ」という問いに「検尿ぐらいしか思いつかない」と答えていた。そんな人(どんな人だ?)の心をつかんだことに気をよくする。ほめた後に「気になったところ」としていくつかポイントを挙げていたが、どれも的確。人の意見は貴重だ。I君の指摘をもとに書き直してみようかなと思う。■前田監督からは「もっと文字を少なく、子ども向けのすなおな絵本にしたい」と電話。それもわかるので「絵本とノベライズ両方出しましょう」と言うと、「そんなに簡単に本は出せませんよ」。小説家も絵本作家も、夢見た頃があった。一度に夢をかなえてしまうのは贅沢なのかな。■小山さんにいただいたファースト・コレクションの『マミング』はおかきの柿の種にチョコレートをまぶしたお菓子。家の人と分け、会社の人にもおすそわけ。一人でたくさん食べるのも好きだけど、みんなで少しずつ食べるのもおいしい。■タイカレーを食べながらNHK-FM青春アドベンチャー『カレーライフ』第6回。今日の舞台はインド。子どもの頃、隣に住んでいたインド人のポピーちゃん一家を懐かしく思いながら聴く。晴れた日には太陽で庭石を熱してチャパティーを焼いていた。


2002年01月14日(月)  災い転じて

■ジャリリ監督の『ダンス・オブ・ダスト』を見ようと三百人劇場へ急ぐ。上映ぎりぎりに到着。と思ったら、財布を忘れていた。お前はサザエさんか、と自分に突っ込みを入れ、とぼとぼ帰る。ハリーポッターの故郷を訪ねるNHK番組を見て気を取り直し、再び三百人劇場へ。毎回作品が替わるので、今回は『トゥルー・ストーリー』。主役に選んだ男の子が足を大怪我していると知った監督が急きょ設定を変更し、少年の足を治すまでをドキュメンタリー映画にしたもの。15才までに9つの職を転々とした少年が「こう見えて苦労人なんだ」「貧乏は身にしみてる」といった台詞をさらりと言う。結果的にはこの作品に出会えてよかった。■家に帰る途中でおなか鳴り出す。九州土産でいただいた松翁軒のカステラ、残り5センチを一気に食べる。考えさせられる映画はブドウ糖を消化するのか。■テレビのインタビューでビョークが「年を取ることに興味がある」。年を重ねるほどいろんなものを身につけていけるから。「60歳まではリハーサル」。すごいことを言う。

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