セピア色の思ひ出

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2003年05月31日(土) **耽る**

ファミレスで八時間近く、彼と二冊の本を貪り読んだ。
二年前に一緒に買った「冷静と情熱のあいだ」だ。
彼が辻 仁成さんのBlu
私が江國 香織さんのRosso
を持っていた。

二年間、ずっと本棚の奥にしまってあった。
買ってから一度もページを開くことはなかった。

彼はこの三月まで大学浪人していたのだが、
受かったらこの本を二人で読もう
と、買ったときに約束していたからだ。

そしてこの日、今まで重かったページをやっと開くことができた。


昔恋人同士だった、二人の男女のお話。
Blu は男性側の視点から
Rosso は女性側の視点から
それぞれ描かれている。

両書ともストリーは13章まであって
それぞれ一章ごとにほぼ同時進行している。

私と彼は、一章ごと交互に読んでいった。

読み終わった深夜一時頃、私はなんともいえない心境になった。
確かにこれらは、素晴らしい著書だった。
今まで読んだ本達(とりわけ恋愛小説)の中では一番、と言っていいほどの驚きと感動を覚えた。

でも、私にとっては同時に、激しい焦燥感に襲われた。

この小説の中で、大切な人を失う怖さを、垣間見た気がしたからだ。
そして本を読み終わった後、その「大切な人」は、
まさに私の目の前に座っていた…

ファミレスを出た後、甲州街道沿いを二人で歩いた。
深夜の国道は、相変らず車道は賑やかだったが、歩道には誰もいなかった。

そんな、車道とは隔たれた静寂の世界で、彼から初めて私の手を繋いでくれた。
私たちは付き合って二年半になるけど、一度も外で手を繋いだことがなく、そして彼はかなり淡白な人だから、彼からの行動には嬉しさと共に、驚きと戸惑いを感じた。

恋愛小説を読んだ後の陶酔感と、誰もいない深夜の歩道という普段とは少しかけ離れた雰囲気が、彼の手を動かしたのかもしれない。

でも、手を繋いだ瞬間、私には彼が逆に、どこか限りなく遠い世界に行ってしまった気がして、心がすごく痛くなった。




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