デイドリーム ビリーバー
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私は、スポーツの試合見るなら、野球よりサッカーが好き。 だって、サッカー選手ってタイプの人が多いんだもの。野球選手より。
彼は断然、野球が好き。つうか、阪神が好き。
しかも、私が不用意に発してしまった 「サッカー選手って、野球選手よりかっこいい」発言に 「俺は絶対、サッカーなんか見―ひん!」 と、かなり意固地になっていた。
うかつ。 関西人は皆阪神ファンなのだそう。 ほんと?
だけど先日。W杯の初日。フランスがセネガルに負けた日。 「うっそー!」って興奮しつつも けなげな私は、阪神戦の結果だけはニュースでチェックして、夜電話で
「今日の試合結果見た?」 「おう見た見た!勝ったなー」 「勝ったねー」
「阪神!」(私) 「セネガル!」(彼) ←しかも同時。
彼の愛読書は「キャプテン翼」だったらしい。
なら先に言ってよね。 珍しく、気を使ってみたのに!
しかも、いつのまにか 日本対ロシアの国立競技場のチケット、手に入れているし。 「スクリーン観戦に金出すなんて、アホやアホ!」って言っていたくせに。
待ち合わせ場所に行ったら なぜかナンバー入りの青いTシャツ着てるし!
私も、「Tシャツぐらい買おうかな」って思いつつ 手持ちの、青いノースリーブのポロシャツを着て行ったんだけど
そしたら 「気合が足りん」とかなんとか言って、日の丸の、顔用のシールみたいなやつ ほっぺたに無理矢理貼られた。
「なんなのよ、その張り切りようは!」 「俺は、形から入る男や!」
って、もしもし。そこ、威張るところじゃありません。
両腕ふり挙げて、大声で叫んで キックする時には「オオオオオーーーーー!」とか 「日本!」「日本!」って叫ぶのも、考えてみたら初めてのこと。
彼なんて、私以上に興奮していろいろ叫んでいるし
私よりルール詳しいんじゃないの?って思っていたら えらそうに胸はって 「これでも小学校の頃はサッカー少年やったからな!」
え?野球少年じゃなかったの? ちなみに中高はバスケらしい。野球は?
大興奮だった試合が終わって、しばらく勝利に酔いしれていたかったけど 次の日仕事だし、急いで帰ろうとしていた時 彼の携帯がなって。 相手は、彼の、小学校の頃のサッカー友達(関西在住)。
なんでもW杯のおかげで、 数年ぶりに、連絡をとりあっていたらしく ちなみに今日は、大阪の、スクリーン観戦で応援していたそう。 内容は、「勝ったー」っていう喜びの電話だったんだけど。
携帯で話をしていた彼が、なぜか突然ぶぶーっと噴出して 携帯を私によこすから
今回のチケットが、この人関係からまわってきたものだったから お礼しなさい、ということかな、って思って
彼の友達なら、そそうのないように、きちんとお礼を言わなくちゃって 少し緊張して、携帯に耳をあてたら
かすかに、歌がきこえた。
多分、会場全体の大合唱。 聞いたことあるようなないような…。
「オーオー、オーオー!」 「はーんしーん、タイガース!」 「フレー!フレッフレッフレーッ!」
なんで、W杯で、「六甲おろし」歌ってるんですか。
大阪ドームの皆さん! それ、絶対間違ってるから!!!
関西って恐ろしい…。
色々な人の日記を流し読みしていて、その一つに目がくぎづけになった。 息が、とまるかと思った。
写真と短い文章の、写真日記。 うつっていたのは、短い期間だったけど一度住んだことのある土地だった。 なつかしさに時間を忘れて見ているうちに、その写真にめぐり合った。
本当に、息がとまるかと思った。
町の中の、橋の上から撮られた写真。
私は、あの橋の名前を、知っている。 そして あの橋から見えるだろう、雪化粧した山の名前を、知っている。
あの橋は、私が 雪の結晶を肉眼で見られるということを、初めて知った場所だ。
私は、雪なんてめったに見ることのない田舎の町で生まれ育った。
私が高3で、その人が浪人生。 私たちは、予備校の休憩室で知り合った。 予備校が肌に合わなくて、すぐにやめてしまった私たちは 家が近所だったこともあり、図書館で、一緒に勉強するようになっていた。
田舎だったから、目立ったらしい。 こっちがびっくりするぐらい、周囲はうるさかった。
「受験」「男女交際」なんて言葉を振りかざす教師達は、意外にも簡単で 夏休みの間に偏差値を10あげたら、ぱたりと何も言わなくなった。 (元々が低すぎたということもあるけど)
面倒くさかったのが、同級生。
いわゆる「恋バナ」をしたがる女の子達。 キスやセックスの、体験談や噂話をしたがる女の子達。
こういうこと、このジャンルで書いたら、ヒンシュクかな。 いつもノロケ書くくせに、矛盾って思われるかな。
ま、いいか。そんなにたくさんの人が読んでいるわけでもないし、 いーや。書いちゃえ。
私、実は、そういうの、大っキライなんです。
恋愛やセックスに、興味がなかったわけじゃない。 ただ、私のスタンスとしては
恋愛?そういう相手にめぐりあえたら、するよ。 セックス?そういう相手にめぐりあえたら、するよ。 当たり前でしょ?騒ぐことじゃないでしょ? それにそれが、早かろうが遅かろうが、関係ない。
そんな感じだった。
「○○ちゃん、彼に告ったんだって!」キャーッ! 「△△さんがホテルに入るとこ見ちゃった!」キャーッ! 「□□さん、彼と別れたんだって!」エーッ!ナンデーッ! 「×組の×さん、子供おろしたんだって!」エーッ!ウッソー!
なんて、さすがにここまでひどくはなかったけど でも、近いものがあったようにも思う。
こういう人たちが、将来 「結婚まだなの〜?」 「お子さんまだなの〜?」 って言うんだって思った。うるさいって、思った。
こういう人達は、頭は沸騰しているくせに、心が冷たいんだと思った。
私は 体の成長は遅いけど、心は、ちゃんと成長させようと思った。 頭はきちんと醒めて冷静に、心はあたたかく そんな大人になろうと、思っていた。
私と彼はつきあってはいなかった。 だけど、そう言うと 「えー、早く告っちゃいなよー。受験なんて気にしないでさー。 私達が言ってあげようか?」
勘弁してよ、もう、って 同級生みんなが、バカに見えた。(つまり自分自身もガキだったってことだけど) 田舎のこの町を、はやく飛び出してしまいたかった。
誰も信じてくれなかったけど 私達は、お互い好きあってもいなかった。
言うなれば、同士のような。
思春期特有なのか、どうなのか どこか生きにくい、息苦しい世界に、それぞれの方法で戦っている 戦友のような。
でも、そんなふうに思っていたのは、私だけだったのかもしれない。 彼は、私といるのが居心地よさそうでありながら、 どこか秘密を持っている感じがしていた。
ずっとあとになってから、ふと思ったことがある。 彼はもしかしたら、ゲイだったんじゃないだろうか。 そう考えると、いろんなことが腑に落ちるのだ。
今となっては、確かめるすべはないけれど。
彼は、成人するのを拒むかのように、死んでしまった。 みずからの手で。
雪の結晶の写真を、一緒に、図書館の本で見たことがある。 肉眼で見ることができるなんて、思いもせずに。
彼が死んで 春、逃げるみたいにして、東京に出てきた。
その頃私には、絶対に叶えたい夢があった。 彼を見殺しにしたのだから せめて私は、せいいっぱい生きなくちゃって、必死にもがいていた。
でも、それも限界の時は来て。
今も私の左腕には、その時の事故の、小さな傷跡が残っている。 夢を諦めなければならなくなった日。 ばかみたいに、ボロボロ泣きながら夜道を歩いて その橋にさしかかったとき
埃みたいに、パラパラと落ちてきた雪が 私のコートの腕に引っかかるようにして、とまった。
結晶。
彼に「もういいよ」って言われたような気がした。 許されたような気がした。
そんなの、ただの都合のいい空想だっていうことはわかっているけど
彼は天にいる、そう思った。 天で、雪の結晶をつくっている。
彼に、借りっぱなしになっているCDがある。
『島唄』 THE BOOM
このうたを、彼に返したくて 届けたくて 私は、時々一人で口ずさむ。 最近では、もう、年に一度ぐらいだけど。
“ウージ(さとうきび)の森であなたと出会い ウージの下で千代にさよなら”
“島唄よ 風に乗り 鳥とともに 海を渡れ 島唄よ 風に乗り 届けておくれ 私の涙”
“島唄よ 風に乗り 届けておくれ 私の愛を”
島唄は 風に乗り、海を渡って、天にも届くのだろうか。
彼が生きた証拠に 私は、今も 強くなりたいともがきながら、何かと戦って生きている。
近頃の彼は、私のことを「オオトリさま」と呼ぶ。 オオトリさまって、ええ。 『千と千尋』のひよこみたいな神様です。
以前は「トトロ」だった。
全部、私のおなかを表現しているのだそうで。 かなりむかつく。 反論できないだけに。
確かに、決してやせているとは言えない。 でも美容体重より重いけど、標準体重よりは軽いっつうの!(かろうじて) だいたい私は、自分の体に、それなりに満足してるし。
「だから、いいやん。俺も、このお腹がいいって言ってるやろ」 「なんでムキになるん?自分の体好きなんちゃうん?」 と、ニヤニヤ。
くー。 くやしい。今に見ておれ。
日曜日はデートだった。 二人の休日が一般の休日に重なるなんて、私の転職前はありえなったことなので 日曜デートは初めて。
楽しく歩いていたんだけど (前の彼女とのデートは、いつも週末だったはず)と また、くだらないことに気付いて、歩きながら、ちょっとむかむか。 私、相変わらず、ちっとも進歩していません。
彼には、すぐ気付かれてしまった。 ていうか、気付かれるような顔をしたんだけど。 今にして思えば気付いて欲しかったんですね。相変わらずガキだ。とほほ。
私のむくれ顔を見て、彼がニヤっと笑う。 「お?また、何かヤキモチやいてきたな?」
私の不機嫌や情緒不安定の理由なんて だいたいいつも、くだらないヤキモチだから 「そういう時は、ほっといていいから」と言っていたので 最近は、いちいち理由を聞いてこずに、よしよしだけしてくれる。
いちいち言ったらキリがないし、 だいいち、なんといっても情けないので、言えるわけもない。
道を歩けば、「この道一緒に歩いたことある?」 美味しいもの食べれば、「この店一緒に来たことある?」 海に行く話になれば、「どこの海に行ったことがあるの?」 手料理食べたいな、と言われれば、「前の彼女は何作ったの?」
前の彼女はどの沿線に住んでいるの? 私とのデートで、彼女の家の近くを通ったことなかった? いつもどこで待ち合わせしていたの? 結婚しようとか言った事ある? 私といる時と、どっちが楽しい? どのくらいの頻度で、彼女のこと思い出す?
しかも最近は、ヤキモチの対象が 会社の女の人や 私の夢に出てきただけの、実在しない浮気相手にまでエスカレートしている。
だいたい、この日曜の朝にしても モーニングコールしてくれた彼に、寝ぼけ声のまま突然 「浮気者!」 は、ないと思うんですが。 彼もそろそろ慣れたらしく、それどころか楽しみにまでしているらしく おかしそうに「ふうん、誰と?」って聞いてくる。
「エヘンスキーって人(怒)」 「ぶっ…今回はすごい名前やな…しかしエヘンて…ぶぶぶっ。ロシア人?」 「うん、たぶん」 「あのな。“なんとかスキー”っていうのは、男の人の名前やで」 「そうなの?でも女の人だった」 「どうせ寝る前、W杯のロシアチームのニュースでも見てたんやろ」 「は、そういえば」 「で、なにしてたん?」 「風船でオセロ(怒)」 「ぶっ。それって浮気なんや?」 「浮気だったもん!」 「で、どこで?」 「海底都市(怒)」 「ぶぶぶっ」
まあ彼自身が、もともとヤキモチやきだそうなので 私を見ていると、自分を見ているようで、おかしいらしい。
で、ところで彼は、今まで誰にやいていたっていうんだ。 むかむかむか。
まあ、それはさておき さすがにヤキモチのプロなだけに、彼は、対処の仕方にも精通していて この日は、腰にまわした手をぎゅーっと抱き寄せるみたいにして ほっぺたがくっつくんじゃないかってぐらい近づいて 「オオトリさまは、ヤキモチやきさんでちゅねー」
いつもなら 人目!人目!人目を気にしろ、バカヤロー!、か 「オオトリさま」発言に怒るところだけど 怖いぐらい低い声で言う「でちゅねー」が、あまりにもおかしかったので ゲラゲラ笑ってたら、気持ちが楽になった。
そんな時、彼が前方の何かに気付いて、腰に回した手をするっとはずした。 なんと、彼の職場の女の人。日曜日って、だから恐ろしい。
紹介なんかされてしまった。 「会社の○○さん。でこっちが、例のオオトリさま」
!!! オオトリさまって!
しかも。彼は、当たり前みたいにさらっと続けた。 「な、かわいいやろ?」
!!!!! あのね。 「かわいい」って、やっぱり 「かわいい」人のことを言うべきでしょ。 ちっちゃくって華奢で、「わあ、かわいい」って思うような人に。
私みたいに身長170とかあると そんなに太ってなくても(ほんとか?)大きく見えるし、ていうか 体のパーツパーツが既に大きいわけで、「かわいい」とはかけ離れているわけで
ていうか、さっきのセリフで、びっくりしたのは 「かわいい」の部分もそうだけど、それ以上に
「な、」よ。 「な、」。
「な、」ってなに!
まさか、会社でノロケ話とかしてるわけ? 私はしてないよ!?友達にも!そんな恥ずかしいことできますかい! だから、ここでこんな駄文を書いて発散(?)してんだってば。
「かわいい、かわいい」って、ニコニコデレデレしているのは 私の前だけだと思っていたのに、会社でもそうなわけ? そういうキャラだったの? そんなノロケ、まわりはゲンナリじゃないの?
うそでしょーーー。
なんて、軽いショック。
でも、その会社の人と別れてから、単純な私は さっきまでのくだらないヤキモチが、すっきりと吹っ飛んで ニコニコ。ていうかニヤニヤ。
彼は何を勘違いしたのか 「な、○○さんって、俺の好みじゃなかったやろ?安心したやろ?」と、ニコニコ。
違うんだけどね。 まあいいか。
でもね。 でも。 「オオトリさま」は許しちゃいけないですよね。
女として。
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