あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 2005年11月18日(金)

うつくしい、夜の野原はうつくしい
言葉に満ちている
月の描き出す影をぬいながら
鹿が駆けてゆく。一頭、また一頭

わたしは声をひそめていた
いつだってそうやってひそめて
うつくしい、うつくしいと放たれる
賞賛の声を食んでいるのだ

草の上には落とすものか
ひとかけらとて
蟻どもに分けてはやるものか

うつくしい、ものは、うつくしい
走り去る獣の尾の先までも
その言葉は満ちて
はちきれてしまう、影の中に隠れていても

月が落ちる、いつか曙の山並みの影に
明るく、私が照らし出されるとともに
その声はどこかへ来てしまうだろう

 2005年11月14日(月)

あなた土を耕して、幸せになれますか?
温かな土の黒い色を擦り付けて
ああ自分は此処から生まれてきたのだと
アレチウリの蔓を払い
アカザの太い茎を抜き
いつか私の帰る場所だと大きな穴を掘り
そこからサヤエンドウの芽がにょっきりと起き上がるのを
幸せだと、

   ほんとうにつちにかえるのか
   あなたはしっているのですか
   きおくとかんかくとがくろいつちに
   とけこむことをおぼえているのですか?

暗い土の奥からは
確かに過ぎて言った人の声が聞こえるが
そこに私の足が繋がれているのか
確かめることなどできないのですが

ねえ、ねえ、見えるんですか、それ?



 2005年11月13日(日)

名付けてしまうことは、簡単だ
けれど
朝のミルクよりも薄いその境界を
教戒、と置き換えて
留めている。まだ、今この瞬間は。

ぐるぐると煮立てている鍋の中で
渦巻いている、同じものばかりが
名づけてしまえ、名づけてその口から
放り出してしまえ、と
囁く、
のは、
甘くはない、誘惑。

許してください、
許してください、あんまりにも簡単で、それは、
飲み干すよりも簡単なことで、

鍋の中で煮詰めてゆく
とろとろと火を燃やしながら
日々が焦げ付くまで
絶えずに、絶えずに、絶えずに。

 2005年11月02日(水)

ハナは行ってしまった。
「わたしたち」という言葉の、つうじない場所へ

明日には雨も上がる。
土を押しのけて双葉は、
小さな頭をもたげるだろう。

そういうものに、ハナはなるのだ。
明日、黒々とした土をかけて、
踏みしめて笑ってやるべきか。

それとももう一度雨が降り、
ぬかるむのをまつべきか。

ハナは行ってしまった。花というものにでもなるために。


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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe