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 全てフィクションです

【父との秘密】エピローグ・弟 - 2002年09月29日(日)

あたしが家を出た次の年、
弟は自動車整備系の専門学校にに進んだ。
「手に職を付けたい」と言っていた。
あたしが出て行った後、やはり母は父を呼び戻したらしいが
父はすっかり大人しくなったらしい。
誰も、あたしの事を話題にはしなかったそうだ。

弟が家にいる間、父と会話する事は無かったけれど
専門学校を卒業する時には学費を出してもらった事と
それまで家に置いてもらった事を素直に両親に感謝の意を述べ、
すぐに一人住まいを始めた。

それから自動車メーカーに就職し
そこで整備士として東京で働いている。
近々、結婚するらしい。
2度ばかり弟は札幌に帰って来た際に彼女を連れてきていたが
綺麗な茶色い髪を長く伸ばした、可愛らしい女の子だった。
元気な子で、家事をするよりも外で働いている方が好きだと言っていた。
専業主婦に憧れを持たない弟とは、いい夫婦になるかもしれない。

弟は今でも、時々電話をくれてあたしを心配してくれる。
本当に優しい子だ。
あたしは、あの夜の弟の事を忘れない。
彼がいなければ、今のあたしは無かったかも知れない。
一生を掛けて感謝しても足りないくらいだ。
弟が困っている時には、万難を排しても協力したいと思っている。




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【父との秘密】 - 2002年09月23日(月)

所詮自分の欲望の事しか考えられない男と女。
自分の両親をそんな風に認識する事しか出来ず、
あたしは家を出る決心をした。
…いや、出て行かざるを得ないだろう。
多分、母は出て行って欲しいに違いない。
自分の子供をそんな風に思うだろうかと考える人も多いだろうが
母が時々あたしを別の女を見る目で見ていたのを知っている。

嫉妬されていたのかもしれない。

母から見れば、あたしは自分の夫を誘惑する女に見えたのかもしれない。
あたしには全然そんなつもりは無くても、
自分の夫が他の女に興味を抱くのは確かに面白い事じゃない。


家を出ると決めた数日後
あたしは自分の預金を確認した。
まだそれほど貯まっている訳ではないので、少し足りないかもしれない。
祖母に相談して、少し貸してもらった。
早速不動産へ行って小奇麗で自分一人でも払える額の部屋を探した。
年齢がまだ若いこともあり、オーナーが渋ったが
祖父母がそれなりに財産家であることから、
一緒について行って貰ってなんとか借りる事が出来た。

会社や"彼"との連絡の為に、電話線を引いた。
加入権が高いので半分諦めていたが、
会社の上司の知り合いの代理店の方が格安で引き受けてくれた。
引越しの方も、会社の人達が協力してくれて
トラックまで用意してもらい、荷物も全て運んでくれた。

色々な人の好意に、あたしはとても嬉しかった。
がんばろう、と思った。

これからの自分の未来に、夢を持ち始めた頃だった。



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【父との秘密】 - 2002年09月22日(日)

あたしと母が言い争っている隙に父が部屋から這いずり出た。
あたしは横目でそれを確認していたが追いかける気にもならなかった。

「パパは、あんたにはずっと優しかったでしょ?」

そう。
父は暴力を振るう男だったが、あたしに手をあげたことは無かった。
つい、先程までは。
買って欲しいと思ったものは大抵ねだる事も無く買って来たし
机の中によくお金が入っている事もあった。
あたしはそれに特に疑問を感じた事は無かったけど、
今考えればそれはあたしに対する罪悪感か
口止め料としてだったのか
あるいはあたしの体への報酬だったのかもしれない。

それが優しさかと問われれば
決してそうではないと、あたしは言い切れる。
あの優しさ(のフリ)には、裏があり、下心があったわけだ。
素直に喜べるような代物では決して無い。

そんな事も、母は分からないのか。
いやきっと、分かっていても気付かないふりをしていたいのかも知れない。
あたしがどうにかなる事よりも
自分の男がいなくなっては困るという事
男がいなくなって自分の生活がどうにかなる事の方が大事なのだ。

あの男にして、この女か。
母親はあたしを何の為に産み
父親はあたしを何の為に育てたんだろう。
あたしは自分の両親に何を望むことも出来なくなってしまった。



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【父との秘密】 - 2002年09月15日(日)

あたしはまだ叩きつけていた。
顔にはまだ笑みが残っていた。
そしてもはや蹲ったまま動かない父と
ドアの陰からおろおろしながらただ見ている母。

力いっぱい振り下ろした木製の椅子がベキッと嫌な音を立てた。
と同時に母が突然声をあげた。

「やめて!死んじゃう!死んじゃう!」

あたしは後ろも振り向かずに「死ねば」と呟いた。
すると、後ろから突然掴みかかられた。
母があたしの腰の辺りを抱きすくめてきたのだ。

「やめて、お願い、やめて!もうやめて!」

「なんで止めるのよ!こんな奴生きてたってなんになるのよ!
 こんな犯罪者、死んでくれた方が世の中の為よ!」



あたしがそういい切ると、母は顔を真っ青にしながら叫んだ。

あんたは嫌いかもしれないけど、私には大事な人なの!
好きなの!死んだら困るの!
生活だってあるし・・・
どうしてパパの言う事が聞けないの?
どうしてお前もあの子もパパに逆らってばかりなの?
どうして家族が幸せに暮らしてるのを壊そうとするの?

最後の方には母の声は小さくなって段々と聞き取れなくなって行った。
涙声であたしに訴えかけている。
どうして逆らうって…この人は…自分の言ってる事が分かっているのか。
あたしが今までどんな目に遭ってきたのか分かっているのか。
母の女の部分を垣間見たような気がした。
男無しでは生きていけない母の一番汚い所を見たような気がした。



この狂気の男の妻はやっぱり狂気に犯されている。



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【父との秘密】 - 2002年09月14日(土)

父はあたしの振り回す枕を腕で避けようとしながらも
その場から動こうとはしなかった。
ただ、あたしに殴られるまま
驚いた表情を浮かべたまま
そこに尻をついたままになっていた。


あは…あははは


あたしの口元に笑みが浮かぶのが自分でも分かった。


あははははははははははははははははははははは


今までどうしてこんな弱い男のなすがままにされていたのだろう。
あたしはいつでもこの男に勝つ事が出来たのに!
こうしてやり返せばこんな奴どうする事も出来たのに!
枕を振り上げながらも、あたしはおかしくて仕方がなかった。

枕なんかじゃ生ぬるいわ。

そう思ってあたしは机の前にあった木製の椅子を掴み上げた。
普段は重たくて移動させるのさえ面倒だった椅子。
それを掴んで高々と持ち上げると
あたしは尚も笑いながら父に向けて叩きつけた。

うっ、という父のうめき声がする。
あはっ!痛いだろうね!
あたしだってずっと痛かったんだ。
少しは分かってくれたかなぁ。
あたしの心がどれだけ痛かったのかを。
その傷を抱えて生きるのがどれだけ辛かったのかを。



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【父との秘密】 - 2002年09月08日(日)

たすけて・・・

声にならない叫びを搾り出そうとあたしはもがく。
この騒ぎを聞きつければ弟が駆けつけてくるはず。
だがまだ帰って来ないのか救いの手がそこのドアを開ける事は無かった。
寝ているはずの母に助けを求めるしかない。

「ママ・・・ママ・・・」

みぞおちが痛い。
息が、苦しい。
もう駄目

そう思ったときにドアが開いた。
母が顔を覗かせた。

助かった!

そう思ったのもつかの間、一向に母は何も言わない。
ただ、父があたしを足蹴にしているのを見ているだけだ。
青白い顔をして、父のする事を黙って見ているだけだ。
あたしは絶望した。
この人は、結局父には逆らえないんだ。
歯向かう事も出来なければ、別れる事も出来ない。
あたしは・・・こんな人に助けを求めようとしたのか。


人間、土壇場ではすごい力が出ると言うが
その時のあたしもまさにそうだったのだろう。
いきなりあたしは起き上がって枕を掴み、振り回した。
声は出なかった。
涙も出なかった。
あたしは自分の身は自分で守らなければいけない事を一瞬で悟り
無表情のままとてつもない勢いで枕を振り回していた。

父は暴力的ではあったが、元々は小心者なのだろう。
弟に殴られた時も大人しかった。
今、あたしが暴れ出して
どうしていいのか分からない顔をしていた。
ただ、驚きの顔を向けながら、あたしのなすがままになっていた。


あたしはなんだか気分が良かった。



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