2005年07月27日(水) 【 リハビリ小ネタ 】 |
更新しなさすぎも消されそうで怖いので、htmlにして公開してたのをこっちに移動(最初からそうすれば良かったよ…)
【とある日の奥寺兄弟の会話 ─ こんなのばっかり ─】
私の管理するアパート、マヤオアザーレベには全室クーラーが備え付けてある。なにせ私が管理するアパートなのだ。そんな所でケチくさい事などしてはいられない。よくある、さもアパート用ですよ、と言った感じのクーラーでは無い。ちゃんと私が電気屋で選んで付け直したものだ。ちなみに省エネもバッチリです。 と言う訳で、例え暑い夏が来ようとも、室内にいれば快適なのだ。篭もってばかり、と言うのも個人的には好きでは無いので、日課であるアパート前の掃除はきっちりとこなし、うっすらにじんだ汗を抑えるべく、私は部屋へと戻った。暑い部屋でクーラーを付けた瞬間の、あの冷気と暖気の混ざり合う瞬間を体感する事が、私の密かな楽しみであった。
のだが、
「……ん?」 玄関を開けた瞬間、ひやりとした冷気が私の肌を撫でた。おかしい、クーラーは付けていなかったはず──……みさちゃんでも来ているのだろうか。私は首を傾げながら靴を脱ぎ、そして部屋の扉を開け── 「邪魔してっぞー」 「帰れ」 即答した。 「早ぇよ!」 ばん、と、勝手に読んでいたらしい人の買ってきた雑誌をテーブルに叩き付けながら叫んだのは、認めたくはないが我が愚弟。見ればテーブルの上に、某方用に買ってあった牛乳が注がれている。勝手に出したのか、と言うか、突然来た時に無くなっていると何がどうなるかは分からないが私の身が危ないと言うのに。 私は確かな殺意を抑えながら、それでもパキパキと指を鳴らしながら、尋ねた。 「何の用事だ」 「暑かったから邪魔してるだけだ」 「お前の部屋にもクーラーはあるでしょう」 「今月やばいんだよ。電気代すらやばい」 「知るか」 何をどんな堕落生活を送れば、(仮にも)奥寺家の者が生活困難に──と思ったが、あぁそうだ、犬だからか、と私は脳内で自己完結する。本当に縁を切りたいと言うか、こいつが長男では無くて良かったと言うか。 「頼むよ俺だって必死なんだよ」 「必死になる方向性を考え直しなさい」 ……ともあれ、私は一仕事を終えて疲れているのだ。不毛な存在の相手をしていても仕方がない。私は溜息混じりに座り、冷えた空気に身を任せる事にした。 「飲み終わったら帰るように。むしろ代わりを買ってきなさい」 「暇だよなー。暑いしなー」 「聞け」 ダラダラと、すっかりくつろいでいる我が愚弟。本当に炎天下に追い出してくれようか。 「なんかこう、暇も潰せて涼しい事とか無いのかよ」 何で命令形なのだ。取り出しかけていた煙草をへし折りそうになりながら、ふと思う。仕事を終えて暇なのは私も同じ。ならば── 「肝試しでもすればどうですか?」 犬で遊べるだけ遊べばいい。 「肝試しィ? んなガキくせー……」 「スタート地点は103号室」 「マジで怖ェ!!」 床に寝そべりかけていた愚弟が勢いよく体を起こして叫んだ。 「いいですよ、マスターキーの束を貸してあげますよ」 「いやっ、それはちょっ……」 「次に106号室。狙うタイミングは昼寝時間の午後1時」 「そこでゲームオーバーだろ! 俺死ぬだろ!」 「扉を開ける勇気でドキドキですよ」 「そんな紙一重なスリルはいらねぇ!」 予想通りの反応だ。全く、単純馬鹿は時に面白い。私は更に続ける。 「そこから生き延びたら次は203号室。文字通り寒くなれますよ」 「その寒気は体がやばい寒気だろ。伝染だろ」 「そのまま隣へ行って、更に寒く」 「肝試しに生命の危機はいらん!」 ノリの悪い愚弟だ。だからまともな恋人が出来ないのだ──いや、根本に問題があるのだからこれは関係無いか…… 「で、最後に102号室」 「……何で」 「入った瞬間に私が殺して差し上げます」 「断る!!」 雑誌を放り投げながら愚弟は立ち上がった。そして、帰る俺には美鈴の部屋と言うオアシスがあるそこで生きる、と言い残し、大げさな足音と共に出ていった。多分追い出されると思うのだが。 私は後を追うように立ち上がり、玄関扉にチェーンをかけた。これで安心だ。それから、一応の確認の為に冷蔵庫を開ける。牛乳は──もうほとんど無い。 「……あの愚弟……」 呟いた、瞬間、
『ピンポーン』
インターホンと共に、扉の向こうから声が聞こえてきた。 『こーんにーちはー。暇だったから来たんで入りますよー牛乳くださーい』 「……」
私はとりあえず、自分の死を覚悟した。
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