2004年05月05日(水) 【 3人で競作企画(兼 取説番外編) 】 |
【秘密道具/チェルリン/ベンチ】 上記3つのキーワードを使って短編を書いて同時にアップしようと言う企画。公開日が10日程伸びているのは秘密の話。
参加者:自分・クロさん【短編直通】・亮さん(那由汰さん)【短編直通】
自分が『生まれ変わった』直後の事。 俺は、さっちゃんに誘われて近所の公園のベンチに座っていた。 「はいどうぞ」 さっちゃんが買って来たジュースを貰って、けれど飲まずにぼんやりと空を見る。同時に自分の前髪が目に付いて、空の色と同じである事に苦笑した。 「青」 「そうですね」 横でジュースを飲み始めていたさっちゃんが俺の方を向かずに言った。それから思い出したように自分のポケットを探り出す。左手だけを動かして、それを俺に投げて来た。 「うわ」 投げられたそれは手の中にすっぽりと収まる位に小さな箱だった。意味が分からなくてさっちゃんの方を見たら、さっちゃんがこっちを向いていたから俺は驚く。 「何これ」 「あなたにとって便利なものです。開けて下さい」 そしてまたジュースを飲んだ。俺は何となく、恐る恐る箱に手をかけて開けた。中に入っていたものを見てつい眉を潜める。 入っていたのは、ピアスと指輪だった。共に銀色に光るそれを手に取って俺は呟いた。 「なんで?」 便利と言ったってどう見ても普通のピアスと、指輪。指輪の方には小さな四角い、深い青色の突起があって、そうやって観察していたらさっちゃんが自分の右手を俺の目の前に動かして来た。その右手の人さし指を見て、俺は少しだけ目を大きく開いていた。 「あ」 そこにさっちゃんが付けていたのは、今俺が持っている指輪とおそろいのそれだった。突起の部分だけ、さっちゃんの物は赤い。そして良く見るとさっちゃんは左耳にだけ、小さな青い石のピアスをしていた。俺が何度がまばたくと、さっちゃんはにっこりと笑ってみせた。 「お揃いです」 「いや、お揃いって言うか何これ」 「便利なんですよ」 「それは聞いたよ」 そうしたらさっちゃんが『とりあえず付けて下さい』って言った。俺は恐る恐る、言われた通りに指輪をはめる。さっちゃんが付けてるしまぁ、大丈夫だろうと思って。それを見て『ピアスも』と言われてしまったから、元々付けていたのを捨ててしまって穴だけ空いている左耳に付けた。 「……で?」 「まぁ見てて下さい」 さっちゃんは妙に楽しそうに笑うと、自分がしていたピアスを指で軽く叩いた。それから口元に指輪をしている人さし指を近付けて、 「あー、テステス」 喋った。その瞬間、俺の耳もとで全く同じ声が、聞こえた。 「っ!?」 俺は驚いて目を見開く。思わず手を離してしまって落ちかけたジュースを、さっちゃんが器用に横から受け止めた。 「ね?」 「ね? って……なな、何これ」 「榊原印の秘密道具その3・通信機です。無いと不便でしょう」 サラリと言って、それから淡々と機能や使い方の説明をされてしまった。聞いていて、まぁ確かに便利なシロモノだとは思う。まずこんなものが世の中に存在するとも思えなかったし──今の自分もか…… 思考が逸れてそのままボケッと空を見上げていた。さっちゃんはその横で気付いているのかいないのか、話を続けている。 「開発には苦労したんです。どうしても戦地に行ってしまった子とのコンタクトが取りたくて、でも許されなかったので上に見つからない形にしなければいけなかった。そして更にここまでの機能を持たせないといけなくて──」 戦地。いつか自分も行く所だ。 「まぁ、作っても答えてくれない子もいるだろうとは思いましたけど、それでも」 そこへ行く理由はきっと色々。色々な理由があって、それを否定はできない。自分の理由は──もう守れる人がいなくなった所に唯一いてくれたこの人、か。 「私は悩みました。どうしたらいいのか行き詰まってそれで、」 あとは、あの時会った子にもう一度会えれば……
「チェルリンさんが」 「はい?」
どこかへ彷徨い始めていた思考の端を掴まれ、一気に引き戻された感覚だった。素頓狂な声が自然と口から飛び出して、自分の目がさっちゃんを凝視する。 「何今の愉快な名前」 「チェルリンさん?」 「そうそれ」 「私の師です」 「いたの!?」 何人だ。むしろ何者だ。俺の動揺を無視し、さっちゃんは続けた。 「チェルリンさんは素晴らしい人でした。才に恵まれ、それを最大限に上手く活用する事ができ、そして猫が好きでした」 「関係ないじゃん最後」 「料理もチェルリンさんに習いました。チェルリンさんは本当に猫が好きでした」 「猫2度目」 俺も猫好きだけどさ。さっちゃんは更に続ける。もう止めてもいいと思う。 「政府はチェルリンさんのキャラについてゆけなかったようで、だから私が雇われました。私は行き詰まるとチェルリンさんの元を訪れて……ああ、当時は10匹位いましたね……」 「猫!?」 「そこでチェルリンさんが私に教えてくれたんです。彼は言いました『やれば出来るニャー』」 「語尾が!!」 流石さっちゃんの師と言うか、チェルリンとやらがさっちゃんの人格を作り上げたのかは分からない。分かるのは、猫が好きなんだなぁと言う事だけ。分からなくていいこんな事。 「で、やったら出来たんですよ。それがその通信機」 「チェルリンさんとやらよりもさっちゃんの方が凄いんじゃないの……?」 「私はチェルリンさんにはかないませんよ。彼の猫好きっぷりには誰にもかないません」 「猫ネタ引っぱり過ぎると読んでいる人が飽きると思うんですよマイマスター」 「番外編なんで何でも有りですよ」 俺はすっかりベンチに体を預けてうなだれていた。疲れた。物凄く疲れた。さっちゃんはそんな俺を不思議そうに見ながら、ずっと持ってしまっていた俺のジュースを渡してくれた。俺はそれを受け取って一気に飲み干そうとする。 「で、そのチェルリンさんなんですが、ある日『私は猫になるんだニャー』と言って、どこかへ行ってしまいました」 「痛いよチェルリン!!」 吹きました。
「チェルリンの馬鹿ー!!」
まだ空が薄暗い明け方、突如家中に響き渡った叫び声に純平は目を覚ました。 「なっ、何だ!?」 叫び声は自分のすぐ真横から聞こえていた。わぁわぁと何かを叫び続けているのは、いつも自分の横で眠っているローランド。目でそれを確認出来る程度には明るかったので肩を掴んで声をかけた。 「おいローランド!? 何だチェルリンって──」 「チェルリンが猫に!」 「意味分かんねぇよ」 よく変な起こされ方をするが今日みたいなものは初めてだと純平は冷静に思う。しかしどうにもやかましい。 「いいから黙れ落ち着け。何なんだよ全く……」 「だってだってさぁ! 純平のそれ(譲った秘密道具)だってチェルリンのアドバイスが元でって言うか俺らの元ってもしかして突き詰めれば全部チェルリンの『やれば出来るニャー』!?」 「意味分かんねぇって言ってんだろ! どんなトンチキな夢見やがったテメェ!!」 と、その純平の怒号にローランドが止まった。きょとんとした顔で、ふらふらと辺りを見回す。純平はそれを呆れ顔で眺める。 「あ……夢……」 「何だかは知らんけど夢だ」 どうやら混乱して夢と現実の区別が付かなくなっていたらしい。しばらく呆然とした後で、突然安心しきったようにローランドは長く息を吐いた。 「良かった……本当に良かった……」 「あー良かったなぁーじゃあまた寝るぞー」 すっかり慣れてしまっている純平は、感涙しているローランドを軽くあしらって再び布団にもぐり込もうとした。ローランドは嬉しそうにしながらおもむろに指輪を外し、裏側を見た。今まで気付かなかったが銘が入っている事に気付き、目を凝らす。
『 Special Thanks "chelurin" 』
「チェルリンがー!!」 「てめぇ出てけ!!」
ローランドが部屋から追い出されるまで、あと3秒。
3人で単語を出し合った際に『チェルリン』と言ったのは自分なんですが、これがをどう使うかが一番のキーポイントになってしまったようです。この設定が本編の公式設定なのかどうかはチェルリンにしか分からない──
……と、流石にこのシメ方は嫌なので。多分公式設定じゃないですよ。あとローランドは実は結構ツッコミ属性。
ここ書いてる現在は、クロさんと亮さんのがとても楽しみです。終わり。
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