店主雑感
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2003年10月09日(木) 安っぽい人生観

 この人生は自分にふさわしくない。
 現代人の多くが漠然とそんな不満を抱いて
いる。
 むろんそれが確固たる自信に基づく向上心
なり、上昇志向なら何も問題はない。
 しかし、大抵は何の根拠もない勝手なうぬ
ぼれや錯覚からくる愚かな幻想に過ぎない。

 一握りの成功者と自分との間には本質的な
違いなどあるはずがない。
 自分はただ単に今まで機会を得なかったか、
不当にも見送らざるをえなかっただけである。

 機会さえ然るべく与えられていれば、何者
にでもなれたはずの自分にとって、現在の境
遇はどう考えてもふさわしくない。

 何のことはない。
 不本意な現実と幻想の隔たりを埋めるべく
躍起になるよう駆り立てることで、現代の過
剰な商品経済が成り立っているのである。

 誰もが頭を冷やし、不必要な投資を控えて
しまっては大変都合の悪い一部の人々が、そ
の他大勢の人々に、愚かなうぬぼれや錯覚を、
絶えず吹き込んでいるのだ。

 本来望ましいのは、優れた一握りの人間が、
普通ならしなくてもすむ苦労を買って出て、
大多数の人々の生活を豊かなものに引き上げ
てくれることである。

 そのための名誉であり、高収入である。

 しかし、それら一握りの人間が俗事に頓着
せず研究や創作や政治経済に邁進できるのは、
大多数の人々が徒に脱俗を衒わず、俗世間を
良く支えるからにほかならない。

 現代人の多くが、自分にできることを放棄
して、できもしないことで成功するのを望ん
でいる。

 日常の雑事が人並みにこなせれば、百メー
トルを九秒台で走れなくっても一向に恥じる
必要はない。しかし、その逆は大いに恥じな
くてはいけない。

 すべての人々にとって最も不幸なことは、
猫も杓子もが雑事をほっぽり出して、勝手に
人々を豊かで幸せにできる、などとうぬぼれ
ることである。

 人としては先ず、ごくあたりまえの常識人
であることが優先する。
 これはどうも常識に納まらない人間らしい
という場合に、はじめて何か才能でもあれば、
それをいかす道を考えるのである。

 何れにせよ、安心してスポーツ競技や音楽
の演奏を楽しむことができるように社会基盤
を整え、支えるのは大多数の常識人である。

 なにもスポーツや音楽にかぎらず、本当に
優れた人材はその他大勢の人間に幸せをもた
らすのである。
 幸せをうけるのは、その他大勢の方なので
ある。
 おもしろい小説を書く苦労は大変なものだ
が、おそらく世間の人々が漱石を読んでたの
しむほどには、漱石自身はたのしい時間を持
つことはなかったろう。

 国家にせよ、会社にせよ、生徒会にせよ、
優れた指導者を得た場合、指導者が引き受け
る苦労は大変なものだが、その他大勢が受け
る利益は計り知れない。
 逆に、ひょんな間違いから愚劣な指導者を
戴いた場合、大変な災厄を被ることになるの
もその他大勢である。

 クラス全員が学級委員に立候補の手を挙げ
るような教育が理想だと考えるのは馬鹿げて
いる。

 可能性と言うなら、オリンピックで金メダ
ルを取ることもノーベル賞を受賞することも
全ての人に可能であるのはあたりまえだ。し
かしその確率というなら、それはかなしいほ
どに小さい。
 オリンピック金メダリストやノーベル賞受
賞者ほどの人ならば、ぜひここを誤魔化さな
いで子供たちに伝えてほしいと願う。


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