きりんの脱臼
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2004年06月05日(土) 村上きわみ

くちびるに包まれるまで水でした     なかはられいこ



おそろしく純度の高い憎悪をかかえこんだまま
おまえがやってくる
脛には かわいた泥がこびりついていて
それは火傷のあとのようで

(夏だね)

(うん 夏だ)

葡萄の蔓を編んでこしらえた籠に
いびつなかたちのパンがいくつもほうりこまれる
コンビーフの缶の底は錆びついていた
どこかの国の戦争のように

(水をくんでこよう)

(うん 水をくんでこなくちゃ)

廃屋の濁った窓ガラスに悪態のことばを書きなぐる
悪態は愛のことばによく似ている
あるいは やむことのない憧れに
あるいは ねじまがった鉄骨に

(だれもいないね)

(うん だれもいない)

下着をつけていないおまえのからだからは
干したあんずの匂いがした
死んでしまった者たちにかわって
おまえのなかに ゆっくりはいっていく

(今 なにを考えている?)

(ふるい井戸の底に沈んだ小石のこと)



えいえんをほしがっているドラゴンの翼のうえで抱き合いながら  村上きわみ



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