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| 2002年03月31日(日) 目覚め。 |
| 夜勤明け。正午に仕事が終わり、午後2時から昼寝をする。 嫌な夢を見た。おまけに寝違えてしまって首を痛めた。 夢の内容は、僕は本当に幸せになれないんじゃないかという内容。 悲惨な結末。夢の中で、これは夢であってほしいと願っていた。 午前2時に目が覚める。12時間も昼寝をしていた。 もはや、これは、昼寝ではない。 夢の内容が内容だったので、僕が寝ている間に、 僕の周りで何か大きな事件が起きたのではないかと思い、心配になって彼女に電話をした。 「友達と、花見に来てるの」 彼女は深夜2時の夜桜を見上げながら言った。 僕は安心してシャワーを浴びた。 現在、午前3時。 深夜のキッチンには、キーボードと蛇口から落ちる水滴の音だけが聞こえる。 蛇口のパッキンの調子がおかしいのか、いくら蛇口を閉めても 一定の時間を置いて水滴が落ちる。 その一定のリズムの水滴が、再び僕を眠りの世界に誘う。 もう、あんな夢は見たくない。 現実に追われる夢なんて、現実だけで充分だ。 |
| 2002年03月30日(土) 月の満ち欠け。 |
| 毎日毎日、自分で早めに目覚まし時計をセットしておいて、あぁもう少し眠れる。 と意思の弱さを露呈しています。 ところで、キミは僕の何を知っていますか? 毎晩毎晩、自分で予定を入れておいて、ああ忙しい忙しい。 と嘆いています。 ところで、キミは僕のことが見えますか? 毎週毎週、休日の度に今日は、布団を干そう。と思うけれど、紫外線が強い時間帯には まだ僕は深い夢の中を彷っているのです。 ところで、キミは僕の熱を認識できますか? 毎月毎月、月末になると、何を得て何を買えばこんなにお金が減るんだろう。 と頭を傾げています。 ところで、キミは僕の思いが伝わっていますか? 毎時毎時、何か、大きな、黒い雲のようなものに追われているような感に つきまとわれています。 ところで、キミは僕の囁きが聞こえますか? 毎秒毎秒、僕は出来損ないの消しゴムのように 無駄に消耗しています。 ところで、キミは僕のためらいを感じていますか? 毎夜毎夜、僕は月を見上げています。 欠けた月が、好きです。完全なるものが、欠けた姿が、好きです。 完全なるものは丸く、そう満月のように。 欠けているものは、尖っています。そう三日月のように。そう僕のように。 同じ夜空を見上げても、キミには星がいっぱい見えるだろうけど、 僕には、1つも見えないよ。1つも、見えない。 |
| 2002年03月29日(金) 憐れ加藤紘一62歳。 |
| 政治資金を自宅マンションの家賃に充当していた事実が発覚した加藤紘一衆院議員。 馬鹿ですね。そういう意味で憐憫の想いでいっぱいです。 僕なんて雀の涙のような給料を自宅アパートの家賃に充当しているのです。 おまけに光熱費やら電話料金やら車のローンが、勝手に、僕の意志に反して 容赦なく通帳から引き落とされるのです。 これは税金でも献金でもありません。 朝8時半から夜7時まで働いた血と汗と涙とその他なんやかやの汁の結晶なのです。 僕は首相よりも自民党よりも野党よりもアパートの大家さんが怖いので、 毎月30日までにはしっかり家賃を払っているのです。 そりゃあ、僕の通帳に政治資金が数千何百万も振り込まれたら僕だってそのお金で家賃払いますよ。 ただ僕の通帳には政治資金なんて振り込まれないだけの話であってね。 まぁ、それ以前に東京・南青山にマンションなんて持っていないけど。 それにしても憐れです。加藤紘一。 自民党を追い出され、元事務所代表が脱税事件を起こし、本人は税金で家賃を払っていたなんて。 情状酌量の余地もありません。 政治不信というか人間不信になっちゃいます。 ていうか国会のワイドショー化。どうにかなりませんか。 チャンネル回すたびに政治家の汚職のことばかりで、見ている方はとても面白いです。 不景気になって当たり前です。そりゃ雪印もラベル貼りかえるって話です。 まぁ、今回の件は、氷山の一角的事件であって、 掘り起こせばいくらでも甘い蜜を吸ってる政治家が出てくると思います。 僕は将来、そんな甘い蜜を吸いながら東京・南青山にマンションを借りている政治家になりたいです。 これが僕の公約です。 |
| 2002年03月28日(木) 現代2択。 |
| 「電波の届かない場所にあるか電源が入っていないため、かかりません」 今日も電話は繋がらない。 僕は携帯をソファーに放り投げて、小説の続きを読む。 2・3ページ読んで、しおりもはさまずにパタンと小説を閉じ、 溜息をついてから、携帯の電源を切る。これでフェアだ。 「電波の届かない場所にあるか電源が入っていないため、かかりません」 これだけ発達した御時世に、精密機械が「〜or〜」の単純な2択の問題も解けないなんて。 「電波の届かない場所or電源が入っていない」 何かしらの問題を抱える人々の携帯が繋がらない理由は、たいてい後者だ。 何かしらの問題。 キミにはどんな問題があるの? ボクにはどんな問題があるの? これは多分、発達したらいけない分野の問題なんだろうな。 「電波の届かない場所にあるか他の女性と戯れているため、かかりません」 なんて言われたら洒落にならないもの。 「電波も届かないくらい、あなたから遠く離れていってしまっています」 なんて文学的な表現されたらたまらないもの。 「電波は届きますが、彼氏自体の電源が入っていません」 なんてちょっと意味深なことなんて言われた日には、彼女の不眠は決定的です。 「電波も届いて、電源も入っていますが、彼氏が受話器を取りません」 なんて包み隠さず言われたら、僕は21世紀を呪い続けることになるだろう。 携帯電話なんて、なけりゃないでみんなそれぞれ、多少の悩みや苦労を抱えつつも、 それなりに平和に暮らしてたと思う。 僕は決意しました。 今、部屋のソファーに横たわっている電源の入っていない携帯電話という名の所在確認装置。 僕は、もう、こんなものいりません。 着メロは未だに4和音だし、充電はすぐ切れるし、液晶はモノクロだし。 もう、こんなもの、いらない。 明日、給料日なので、新機種に買い替えたいと思います。 |
| 2002年03月27日(水) 耐えることの優しさ。 |
| 僕が朝、なかなか起きれないのは周知の事実だが、 最近特に朝の弱さが重症化してきた。 常日頃、温厚(に努めている)な僕も、午前7時には人格が一変する。 「不機嫌」の意味を知らない純粋無垢な子供たち 午前7時に僕の部屋のドアをノックするがいい! 午前7時の僕の髪型に驚くがいい! 午前7時の僕の言動に落胆するがいい! 落胆するがいい! ウソ。落胆しないで。ごめんなさい。 布団に入り、あんなに愛を語り合った僕もあんなにキミを引き寄せた僕の腕も ほんの5・6時間後には キミを布団から追い出し、毛布を独り占めし、反対方向に背を向け、 口から出るのは物騒な言葉ばかり。 「あと5分寝させないと殺すよ」 なんて気が強いのか意思が弱いのかわからない言葉を発するのです。 しかし、彼女はとても優しいので、そんな物騒な言葉の乱発にも耐えて、 前日僕が「7時に起こして」と言ったら、しっかりと7時に目覚めて 何度も何度も何度も何度も優しく声を掛けたり、 優しく毛布を剥いでくれたり、優しくコンポの音量を最大にしたりするのです。 「わかったよ。起きるよ。ちょっと毛布たたむから返してよ」 なんて言って、毛布が手元に戻るとすかさずまた横になるのです。 しかし、彼女はとても優しいので、そんな卑怯な行動にも耐えて、 それでも何度も何度も何度も何度も優しく声を掛け続けるのです。 「このくらいの苦労だったら平気で耐えられるわよ」 彼女は部屋を出るときにそう言いました。 このくらいの苦労しか提供できない僕を許して下さい。 |
| 2002年03月26日(火) 卑怯者の業。 |
| 先週、僕がまだ東京にいるときに、友人から久々に電話がきた。 「帰ってきたら話があるの」 と言っていたことを僕はすっかり忘れていた。 鹿児島に帰ってきてからもう5日経つ。 友人のあの声の暗さからして、なんだか尋常じゃないような感じがしたけど、 5日も経って一度も電話がないということは、もう何かしらが解決したのかな。 と、思っていたら今日電話がきた。 「やぁ、久し振り」 「・・・うん」 暗い。友人に何があったというのだ。 何かしらの衝撃的、若しくは、波乱に満ちた話の内容を聞くときは、 できれば電話で話をしたほうが、僕としては聞きやすい。 相手のペースに、相手の表情に巻き込まれることなく、冷静に助言なり否定なりすることができる。 「仕事で何かあった?」 「ううん。何もない」 仕事の件では、ない。そしてその話題の流れを持った5分程度の会話を続ける。 話が一段落ついたところで次の質問。 「そういえばこの前、時々動悸がするって言ってたでしょ。あれ大丈夫?」 「あ、うん。大丈夫。もうどうもないよ」 身体的な件では、ない。そしてその話題の流れを持った5分程度の会話を続ける。 話が一段落ついたところで次の質問。 「あ、最近、彼氏とはどうなの?」 「・・・うん。うまくいってるよ」 これだ。話の内容はこれだ。ずばり彼氏とうまくいっていない。 仕事の件と身体的な件の質問には、両者ともすぐ否定した。 しかし、彼氏の件になると、「・・・うん」というコンマ何秒かの空白があった。 これは僕が長い臨床経験で培った1つの技術。一種のカウセリング法。 ポイントは質問の合間のなんでもない5分程度の会話。 この5分間の他愛のない会話で相手の会話に対する集中力を分散させる。 間髪入れずに次々と質問をすると、 相手は「質問をされている」ということを意識してしまうのだ。 大きな会話の中に聞きたい質問を散りばめる。そしてその質問に対する反応を注意深く観察する。隙を窺う。 友人の場合は、コンマ何秒かの空白が、一種の隙となって現れる。 だけどこの場合、それ以上は詮索しないんだけどね。 結局は会って話をするんだろうけど、 僕は会う前にこうやっていろんな答えを準備する期間ができたというわけなんです。 |
| 2002年03月25日(月) なめこじる。 |
| 職場の綺麗な看護婦さんに 「ねぇ、『なめこじる』って漢字でどう書くか知ってる?」と質問された。 なめこじる? なめこじるって何だ?どういう意味だ? 僕はその言葉の意味をしばらく考えてから「知りません」とだけ答えて、 患者さんに注射を打つときや傷の処置をするときに 『なめこじる』のことについて頭を巡らせた。 漢字検定準2級所持者の僕が『なめこじる』という漢字を書けなかったことにショックを受けたのではない。 それ以前に『なめこじる』という言葉そのものの意味がわからなかったことにショックを受けたのだ。 そもそも『なめこじる』という言葉はどういう状況の時に用いる言葉なんだろう。 なめこじる・・・なんだか言葉の響きがイヤラシイ。 バーで知り合った女性をベッドでなめこじる。・・・ふふふ。イヤラシイワ。 「今日の夜はキミを思う存分なめこじってやる」・・・ふふふ。ふふふふふ。 「昨日の夜は、いっぱいなめこじられちゃったわ」 「夜のキミはとってもなめこじり甲斐があるよ」なんてね。ふふふ。 なんと淫猥な響き。 職場の綺麗な看護婦さんはどういう意味を込めてこの質問をしたのだろう。 「昨日、亭主にいっぱいなめこじられちゃってとっても疲れちゃったけど、 なめこじられてる最中に、あれ?なめこじるってどういう漢字書くんだろう? って思ったの。だれか漢字に詳しい人いないかしら。 あっ!そうだ!ヨシミ君に聞いてみよう。暇な時間を持て余して漢字検定準2級 なんて何の得にもならないような資格取っちゃったヨシミ君に聞いてみよう!」 なんて思ったのかしら。 というわけで今日は仕事が終わる直前まで『なめこじる』の意味のことで頭がいっぱいだった。 『なめこじる』という謎の行為の事で頭がいっぱいというか妄想だらけだった。 仕事の時間が終わり、看護婦さんの元へ走った。 「ねぇ。『なめこじる』ってどういう意味なんですか?(ドキドキ)」 「は?」 「『なめこじる』ってどういうときに使うんですか?(ドキドキ)」 「はぁ?」 「だからどういうときに『なめこじられる』って言うんですか?(バクバク)」 「はぁ?意味わかんないわよ。何言ってるのよ。『なめこじる』ってなめこの入ったみそ汁のことじゃない。知らないの?」 「・・・・!!」 思考の暴走。見事になめこじられた。 |
| 2002年03月24日(日) 無関心。饒舌。愛の言葉。 |
| スクーリングの講義の時、 教授が「愛情の対義語は何か?」という質問をした。 皆、「憎悪」と答えた。 僕は「無関心」と答えた。 教授は僕を指差して「その通りです」と答えた。 「その通り」の意味はよくわからないけれど (それはたまたま教授の概念と共通した一事項に過ぎない) 「愛情」の対角線上に「無関心」が鎮座しているのは間違いない。 「あなたの愛情は『無関心』の愛情なのよ」 と言われたことがある。 それを聞いたとき、はじめ意味がわからなかったけど、 その言葉を心の引き出しにしまって、バスや電車に乗っているとき 引き出しを開けて咀嚼してみると、 あぁ。なるほど。 と思うようになった。 「妻が美容院に行って、少しでも髪型を変えて帰ってくれば、亭主はその髪型について 『キレイだね』『サッパリしたね』など、声を掛けるべきである」 と教授は行った。それが愛情なのである。 僕にはその一言が、その言葉を出すまでの過程が決定的に欠如している。 彼女の髪型が変わったことなんていたことがない。 彼女の洋服が春物に変わったことなんていたことがない。 彼女に「今日の夜何してる?」なんて聞いたことがない。 彼女に「昨日の夜どこ行ってたの?」なんて聞いたことがない。 しかし「無関心」によって、「愛情」全てが否定されるのは なんだか居た堪れないなぁ。 「好きだよ」って思いついた時に言ってるだけじゃ駄目なのかしら。 言葉で愛情が評価されるのならば、僕はいくらでも饒舌になることに情熱を注ぐだろう。 ほら、ゴスペラーズも歌ってるよ。 ♪愛してる〜って最近 言わ〜なく な〜ったのは〜♪ あら。続きの歌詞忘れちゃった。 |
| 2002年03月23日(土) 月とズボン。 |
| プロ野球開幕を目前に控え、 近所のソフトボールリーグも来週開幕する。 今日は久々の練習。 グローブどこしまってたかなぁ。ユニホームは・・・あったあった。 あれ?帽子がないや。どこしまったかなぁ。 バットはどこにいったかな。あ、もともと持ってなかったんだ。 えっと、あとは、スパイクだ。えっとスパイクスパイク・・・。 という具合にまずは道具探し。 冬場は練習がないので、道具もどこに収納したか忘れてしまう。 この練習がない間に、僕はベースボールキャップを失くし彼女が1人できた。 ユニホームはしわくちゃになって、指輪を失くした。 午後8時。グランドに集合。 野球選手らしく、まずはランニングから始めたが、 グランドを3周ほど走ったら飽きてしまって、しゃがみ込んでタバコを吸った。 後輩と何の得にもならない話をしながら2本目のタバコに火をつけようとしたら監督に怒られた。 僕は今でも週に1回はプールで泳いでいるので基礎体力には多少の自信があるのだが、 キャッチボールの最中に、またもや飽きてしまって早々に切り上げてベンチに戻り 後輩と何の得にもならない話をしながらタバコに火をつけようとしたら監督に怒られた。 いくら探してもユニホームのズボンが見当たらなくて、 今日は上はユニホーム、下はジャージというなんとも情けない格好だったので いまいち気合が入らず、バッティング練習も平凡なフライを連発。 来週のリーグ開幕に多大なる不安を残した。 守備練習。ここは気合を入れて鋭いライナーをジャンピングキャッチ! 「人数足りないんだから怪我しそうなことするな!」 と監督に怒られた。僕はいつでもどこでも全く評価されない。 ユニホームについた土を払って空を見上げる。 薄い雲に覆われたお月様。嗚呼ハラヘッタ。カエリタイヨゥ。 3月の夜はまだ寒い。 リーグ開幕まであと1週間。バッティングと守備はどうにかなるにしても、 ユニホームのズボンが見つからないのが気にかかる。 僕は1つのことが気になると、次の行動にまったく移せなくなる。 要領の悪い7番レフトの今シーズンが始まろうとしていた。 |
| 2002年03月22日(金) 好色一代男。 |
| 鹿児島に帰ってきて最初の休日。 僕はとても疲れていて、ずっと布団の中に潜っていた。 体は石のように重く、風のように軽かった。 荒波の中の帆舟のように揺れて、春先の小川のように静かだった。 とても不幸な夢を見たり、覚めないでほしい幸せな夢を見た。 何度も寝返りをうって、何度も毛布を剥いだ。 彼女が来て、僕を何度か起こした。 静かに声を掛けたり、激しく体を揺り動かしたりした。 林檎の甘い匂いで僕を誘ったり、温かいスープで僕を優しく包んだりした。 それでも僕は起きなかった。 彼女は多分、朝から来ていたはずなんだけど、 僕がいつまでも起きないので、遂には諦めてしまって、 パソコンの電源を入れて、「好色一代男」を読んでいた。 「どのくらい読んでたの?」 「ん〜。3時間くらい」 「どのくらいの量を読んだの?」 「1年分くらい」 この「好色一代男」という日記のようなコラムのような駄文は、 毎日1000字近くの文章を書いているわけだが、 彼女はその約1000字の文章を約365日分読んだわけだ。 毎日毎日いろんな事が起こり、いろんな事を考える。 いろんな人がいて、いろんな感情が渦巻く。 過去の日記には、もちろん昔の彼女のことだって書いてある。 幸せだった時も書いてあるし、勿論不幸な時も書いてある。 まぁ、これは自分だけの日記じゃないから 多少の加味装飾が施してあるかもしれないけど、 全般的に、僕の正直な気持ちが記してある。僕の全てが書いてある。 「で、どうだった?」 「ん〜。複雑。読まなければよかったような」 「ような?」 「読んだほうがよかったような」 「ような?」 「なんだか、本当のあなたがわからなくなった」 ハハッ。そりゃそうだ。 |
| 2002年03月21日(木) 先入観。 |
| 3日前の話。 まだ僕は東京にいて「アメリカの文化と言語�掘廚箸い� まったく専門外の講義を受けていた。苦痛以外の何物でもなかった。 おまけに教室を間違えて、約40分遅刻した。 僕は2人の女性に挟まれるように、 半ば割り込むように、一番後ろの席を確保した。 教授からより遠く、授業にはより消極的に。 「おはようございます」 「おはようございます」 隣の女性とのあいさつも適当に済ませて 僕はポケットからカロリーメイトと缶コーヒーを取り出して、 脇目も触れず、朝食を摂り始めた。 左隣の女性は、とても大人しくて、講義にしきりに肯いていると思いきや ただカクンカクンと居眠りをしているだけだった。 右隣の女性は、とてもお喋りだった。 教室が暑過ぎるのか、喋り過ぎに関係あるのかわからないけれど、 話している途中に突然鼻血を出して僕をとても狼狽させた。 慌てて、サンシャイン通りで貰ったテレクラのティッシュを差し出した。 彼女は鼻血が出ている最中も絶えず話し続けていた。 左隣の女性は驚く程眠り続けていた。 驚く程眠りつづけるほどつまらない講義だった。 その女性は突然目覚めた。 そしてしばらく憮然とした表情をした僕の横顔を眺めていた。 授業はつまらないし、右隣の女性は喋り続けるし、 左隣の女性は珍しいものでも見るように僕の顔を眺め続ける。 「もう何年くらい美容師をやってるんですか?」 質問の意味がまったくわからなかった。 頭を傾げていると、講義が終わった。 |
| 2002年03月20日(水) 30分の井戸掘り。 |
| 東京最後の朝。午前8時起床。今回の東京生活で一番の早起き。 10時チェックアウト。あと2時間ある。 顔を洗って急いで着替える。最後に会いたい人がいる。 同じ大学の咲さん。 一種の井戸掘り的思考に関しては驚く程共通している女性。 違いといえば、僕がフロイト信者なのに対して彼女はユング信者だということ。 しかしそういうことは致命的な違いにはならない。 心理学、精神医学という大きな共通点が存在するからだ。 しかし今回の再会は多忙を極める。 咲さんは仕事に行く途中なのだ。池袋駅で一端降りて、朝食の約束をする。 時間にして30分。 咲さんからメール。 「西口のエクセシオールカフェわかります?」 わからない。西口の唯一の目印だった天心甘栗売り場も今は存在しない。 というわけで西口中央階段で待ち合わせる。 半年振り以上の再会。 彼女は今から仕事に行って、僕は今から鹿児島に帰る。 彼女は午後から大学に言って、僕は午後から夜勤。 まだ、ここは池袋。今日の夜には白衣を着ている。殺人的スケジュール。 カフェで朝食を摂りながら、お互いの近況と大学の愚痴を言っている間に あっという間に30分経過。 次回はゆっくりと井戸を掘ることを誓って別れた。 今回の池袋生活は、ものすごく充実していて、 充実していたってことは日記のネタも数え切れないほど存在するわけで、 もう鹿児島に帰ってしまったけれど、好色一代男はしばらく東京ネタが続きます。 |
| 2002年03月19日(火) 鳥目。 |
| 東京最後の夜。講義を終え、胸を張って雑踏の中を歩いていた。 「アメリカの文化と言語�掘廚僚�了試験が思いのほか上出来だったのだ。 遅刻しても居眠りしても教室間違えても、終わりよければ全て良しとした。 東京最後の夜。池女さんと食事。 今回の東京ライフは池女さんにお世話になりっぱなしだった。 食事中、気が利かない僕を叱らずに見守っていてくれる。 友人たちは気が利かないと、いつも僕を叱る。怖い。 最後まで、地理的に理解不能なこの池袋で、 目を閉じてでも歩けそうな感覚でスムーズに足を進める池女さん。 さすがに池袋のオンナを名乗っているだけある。 「このね、ほら、いっぱい人いるでしょ。次から次に湧いてくるでしょ。 だけど、池袋のこんな大勢の人の中で、自らを池袋のオンナって名乗ってる人は 池女さん1人なんだよ」 「そうだよね〜」 池袋駅の構内にいけふくろうという銅像がある。 去年の夏1週間。今回も1週間池袋駅を通って大学へ登校してたけど そんな銅像があるなんて全然知らなかった。 「ほら、ここ」 池女さんが駅の地図を指す。ホントだ。地図の端の方にいけふくろうと書いてある。 「見に行こう。僕が連れてってあげる。池女さんは道順を教えなくていいよ。 1週間ここで生活してましたっていう証明をしてみせるよ」 僕が先頭を歩いて池女さんが僕の後ろを歩く。今まで見られなかった光景。 僕は胸を張って駅の構内を歩く。頭の中に先ほどの地図を叩き込み、 その地図の中を僕は歩く。 「・・・y氏」 なに?いけふくろうはもっと先だよ。 「・・・行き過ぎ」 とうとう最後まで僕の致命的な方向音痴は治らなかった。 |
| 2002年03月18日(月) 頑張れ若造。 |
| 「アメリカの文化と言語�掘� 本日の講義の内容。僕はこの大学に編入学しているので、 「アメリカの文化と言語�機廚函岫供廚話碓滅�定されていた。 しかし単位認定されるほど、僕は英語の知識があるわけではない。 そもそも大学で英語を学ぶほどの英語の知識があるわけではない。 もっとも初めから「アメリカの文化と言語�掘廚鰺�解できる能力があるはずがない。 というわけで今回のスクーリングの山場を迎えることになった。 基礎も身につけていない僕が、いきなりヒヤリングできて当然という世界に挑むのだ。 「Hello!!」 さっそうと女性の教授が登場する。とうとう始まった。 まず教授が延々と自己紹介をする。一言も聞き取ることができない。 まるで外国の言葉だ。外国の言葉というか確実に英語だ。 みんな教授の自己紹介にしきりに肯いたり感動したりしている。 感動するも何も僕が唯一聞き取れた言葉は「ニューヨーク」って言葉だけだ。 みんなが肯いてワンテンポ遅れて僕も肯く真似をしてみたが 馬鹿らしくなって爪の甘皮をいじることに集中した。 20分程でようやく教授の自己紹介が終わる。20分もの間ずっと英語で話していたのだ。 「それでは出席をとります。アダチさん」「ハイ」 50音順で出席を取っていく。このクラスは60人。僕の苗字はヨシミ。 や行が廻って来るまでしばらく時間がかかる。 よって僕は爪の甘皮をいじることに集中した。 約10分後。 「ミツイさん」「ハイ」 「ヤマグチさん」「ハイ」 来た。ようやく廻ってきた。 「ヨシドメさん」「ハイ」 次だ。絶対次だ。 「ワタナベさん」「ハイ」 ・・・・・・!! 僕の名前が飛ばされた。飛ばされたというか無視された。 教授の自己紹介をマジメに聞いていなかったからかもしれない。 「はい、みんな来てますね。それでは授業を始めます」 いや、まだ始めないで下さい。僕の名前を呼んで下さい。 心配になったので、教授のところまで行って確認をとる。 いくら自己紹介をマジメに聞いていなかったくらいでそんな陰湿なイジメをしないで下さい。 「ん?キミは出席簿に載ってないわよ」 ・・・・・・!! オチはわかりましたか? 僕が出席すべき教室は壁1枚隔てた隣の教室だったのです。 クスクス笑うクラスの人たち。 僕は心の中で ガンバレワカゾー!! と叫びました。 |
| 2002年03月17日(日) 新しい世界。 |
| 午前11時。池女さんと池袋駅西口で待ち合わせ。 今日は少し早めにマンションを出たので、約束の時間まで池袋駅周辺を少し探索。やがて迷子。 西口で待ち合わせて、僕はなぜか北口の方角から登場。 むろん本人はどういう経緯を得て北口の方角を歩いていたかわからない。 僕は東京で常に狐につままれ続けている。 浅草。 どういう経緯で浅草に到着したのかわからない。 何度か電車を乗り換えたような気がするけど、よく憶えていない。 何度か他の駅の中を歩いたような気がするけど、よく憶えていない。 池女さんがすごく頼もしく見えた。実際に頼もしかった。 僕が違う方向へ歩こうとすると、服の袖を引っ張って道のりを修正した。 頼もしかった。というか僕が頼りなかった。 浅草。学生の頃、修学旅行で来たことがあったけど、 バスから降りてすぐトイレに駆けこんだことしか憶えていない。 大きな提灯があって、煙がモクモクしている。テレビで見たことあるー。 しばらく浅草をブラブラと探索。 「ねぇ、池女さん。どうしてここにいるおじさん達はみんな新聞を熱心に読んでるの?」 「あんまり見ちゃダメ!競馬に未来の夢を託してる人達なの」 「ねぇ、池女さん。どうしてあのオジチャン、指がなく・・」 「早く行きましょ!ジロジロ見ちゃダメ」 「ねぇ、池女さん。浅草は昼間からストリップ劇場開いてんの?」 「知らないわよそんなの!」 とにかく第一次産業が盛んなうちの近所ではまず味わえない世界。 浅草花やしきを横目に、道は観光スポットから徐々に外れていく。 路地も徐々に狭くなり、そこは、もう、賭け値なしにディープな世界。 路上でおでんと謎の煮物を売っているおばちゃんに引き止められ、 3月の陽の光を吸収した思いきり熱いアルミのテーブルで食事をする。 周りを見るとやっぱり新聞を熱心に広げる人達。 熱心に新聞を読んでいる割に料理はものすごく適当。 鍋に牛肉と大根と豆腐をごった煮にした料理。しかし結構美味い。 「おばちゃん。この料理の味付けは?」 「適当よ」ぶっきらぼうな答えが帰ってきて僕を恐縮させた。 路上で春の光を浴びながら、梅を眺め、深い人達と、怖い会話に抱かれて なんだかよくわからない食事をする2人。 「なんだか、こういうのって、すごくいい」 本当になんだか、こういうのって、すごくよかった。 『新しい世界 ―2―』 浅草を出て、次は隅田川を走る水上バスに乗る。 「手前に見えますのが吾妻橋でございます」などアナウンスが流れて 観光気分を盛り上げてくれる。 かつては江戸情緒溢れていた川沿いも、今は高層ビルが立ち並び、 少し残念に思ったどころか、僕はその雲まで届きそうな建物にド肝を抜かれた。 そしていつまでもサッポロビール本社の屋上にある巨大なウンコみたいなオブジェが 頭から離れなかった。 浜離宮という日本庭園で降りて少し散歩。 都会にもこういう自然が溢れている所が存在することに驚いた。 桜の木の間から見える高層ビルがとてもアンバランスだった。 銀座を通り、青山へ。 ここで舞台は一転する。洗練された人たちが肩をなびかせて道を歩く。 そう。表参道では、全ての人たちが洗練されて見えるのだ。 「あのおばあちゃんの色あせたジーンズも計算されつくされたファッションなんだよねぇ」 「いや、池女さん。それは考え過ぎだと思う」 表参道のオープンカフェで軽食を摂る。 静かな通りのオープンカフェで、目の前にはアニエス・ベーのブティック。 梅がさりげなく蕾を開き、道行く人は主張しすぎないお洒落な人たち。 ここはどうみたってテレビの世界。 テレビの世界でカプチーノとサンドイッチを食べる。 サンドイッチにアンチョビが入っていたので池女さんにあげる。 その後、あの岡本太郎記念館に行く。岡本氏の自宅を階層した記念館。 芸術が爆発してるといえばしてるだろうけど、 「これってよくわかんないよねぇ」 「芸術って評価する人にコネがないとダメだよねぇ」 僕達の発想の方が爆発していた。 青山のインテリアショップにいくつか寄って、さも自分達の家のように 写真を撮る2人。何十万もするソファーに座り、足を組んで澄ました表情。 何十万もするキッチンやテーブルを見て 「これって機能的じゃないよねぇ」 ケチをつけるのも忘れない。 この日記は1日あたり文字数が1000字に区切られていて、 とても1000字じゃ収まりきれないので、2つに分けて書いたけど、それでも収まりきれなかった。 この後、渋谷に寄って、僕は今回最後の大失態を演じてしまうわけだが、 またいつか書こうと思う。 池女さんに多大なる感謝の意を込めつつ。 |
| 2002年03月16日(土) 舌鼓鳴りっぱな。 |
| 「池女さん。僕をどっかに連れてって!」 「まっかせなさいっ!」 というわけで、今日は池女さんと東京デート。 僕は1人じゃ何もできないと東京に来るたびにひどく痛感して、 もう開き直って、1人じゃ何もしないようにしているので 今回のように東京案内をしてくれる人がいると非常に助かるのです。 会うのは今回2度目。前回は鹿児島での新女会御深会。 今回は東京池袋マルイ前。 春風のように、いや、春一番のように思いきり息を切らせて池女さん登場。 「ごめん遅れちゃって」 時計を見る。約束の時間に5分遅刻。そんなの遅刻に入らない。 僕はいろんな意味で時間に関しては寛大になっているのです。 茶カフェに行く。本当の名前を忘れてしまったけど、中国茶を煎れてくれるカフェ。 1つのお茶にいくつもの容器を使う。飲むまでにいくつもの過程を経なければならない。 こっちにお湯を注いで、こっちにお湯かけて、こっちは温めて、こっちは香りを楽しむ。 僕は、なんとかの幼虫の糞で作ったというお茶をオーダーする。 お茶という前にこれは糞なんじゃないかという疑問がずっと頭を過っていたが、 池女さんが笑顔で勧め、好奇心旺盛の僕もすんなりとその笑顔に騙されて 最初の一杯を飲む・・・・・・美味しい! たとえ糞でも侮ってはいけないと思いました。 店を出て、電車に乗って、月島というところにもんじゃ焼きを食べにいく。 茶カフェでも電車の中でももんじゃ屋でもいっぱい話をしたけど、 久々に会うだけに話題に事欠かない。というか池女さんは話上手だし、 何よりも聞き上手だと思った。大抵のことを話した。大抵のことを暴露した。 旅の恥をかき捨て。って言葉を思い出したら、もっといっぱい話がしたくなった。 さすが本場のもんじゃ焼き。 味に全然うるさくない僕も素直に美味しい。と呟いてしまった。本物は理屈抜きに美味しい。 もんじゃ焼き食べてお好み焼き食べて、あんこ巻き(なぜか金粉入り)というものを食べた。 全部美味しくて、今度鹿児島まで出前して下さいと言ったらあっさりと断られた。 茶カフェといい、もんじゃ屋といい、東京の店員さんは、とても気さくです。 僕の東京への冷たいイメージを払拭するかのようにみな暖かい。 池女さんがそういうところをセレクトしてくれたのかな? どっちにしても感謝の気持ちでいっぱいです。 |
| 2002年03月15日(金) 傘の隙間をすり抜けて。 |
| 窓を明けると外は雨。時計を見ると午前9時。 ・・・。 今日は仕事でも休日でもない。ましてはここは鹿児島ではない。 大学の講義だ。 時計を見る。午前9時5分。案の定、時間は戻っていない。溜息をつく。 講義の開始時間、午前9時。外は雨。僕は寝坊。 半ば諦めて半ば急いで支度をする。外は雨。傘はない。 午前9時半。ジャケットはびしょ濡れ。教室のドアを開ける。 そんな、田舎者を見るみたいな目で、僕を、見ないで。 昨日おにぎりをくれた子もクスクス笑っている。 「鹿児島の時間で動いちゃだめだよ〜」 「ゆとりを持つことは大切なんです。あ、昨日はありがとう」 「どういたしまして〜。美味しかった?」 「都会の味がした」 「おにぎりなのに?」 「田舎のおにぎりは、もう少し柔らかい」 「ハハハッ!」 彼女が大きな声で笑うので、皆一斉にこちらを見る。 僕は小声ですいませんと言う。遅刻してすいません。私語をしてすいません。 鹿児島でも東京でも僕は謝ってばかりいる。 バッグから慌てて(慌てるフリをして)教科書を出していると、 ポンポンと後ろから背中を叩かれる。振り返るとメガネの女性。 「ハイ。授業が始まってからの内容、メモしといたから」 僕はその優しさにひどく感動する。 このメガネの女性とは、昨日少しだけ話しただけなのに、こんなに親切に接してくれる。 横に座っているおにぎりの女性といい、後ろに座っているメガネの女性といい、 都会の人は、思いのほか、優しい。 |
| 2002年03月14日(木) おにぎり。 |
| 退屈な講義。ふと僕の横に座っている女性を見ると、その女性も睡魔と闘っている最中だった。 カクンと首が落ちて、はっと我に帰ったとき、ちょうど目が合って、照れた後、舌を出して笑った。 休み時間、校舎の通路で2人でタバコを吸いながら話をした。 彼女は、10分の休み時間の間に4本ものタバコを吸った。 少し吸っては消して、間髪入れずに新しいタバコに火をつけて、吸っては消した。 「なんかわけわかんないのよね〜」彼女は曇った空に煙を吐きながら言った。 「何が?」僕も曇った空に煙を吐きながら言った。 「何のためにこんな勉強してんだろって」 「それ、僕も思う」 僕は何のために社会システム理論とか個人援助技術の概念を勉強してんだろう。 「鹿児島からここまでいくらくらいお金かかるの〜?」 「4・5万くらいかな」 「えっ!そんなにかかるの〜!?」 彼女の言葉は必要以上に語尾を伸ばす。 「キミはここまでどのくらいかかるの?」 「バスに揺られて往復400円」 「でも、得られるのも眠くなるのも一緒」 「一緒だねぇ〜」 あまりにも講義中眠っていたので、講義が終わる頃には何を学んだか全然わからなくて 僕は教室に残って、教授に質問していた。 「ニーズってそもそも何なんですか。要求と欲求の区別って何ですか。 どこまでが要求でどこからが欲求なんですか。僕はクライアントの何を援助すればいいのですか」 教授は少し困っていたけど、丁寧に教えてくれた。 教室を出ると、彼女は通路で休み時間と同じようにタバコを吸っていた。 「随分熱心に質問してたね〜」 「講義についていけなかっただけだよ」 「何質問してたの〜?」 「要求と欲求の違い」 「何それ!?今日そんなの習ったかなぁ」 「いや、習ってないかも。ただ気になっただけ」 「変なこと気にするんだね〜」 「4・5万かけて東京まで勉強しにくる奴は変わり者なんだよ」 彼女は帰り際、「講義中おなか空くかなぁと思って作ったんだけど結局食べなかった」 と言って、僕におにぎりをくれた。 初対面の人が作ったおにぎりを、しかも東京で食べるなんて不思議な感じがしたが とても美味しかった。 |
| 2002年03月13日(水) イメージの再構築。 |
| というわけで今日の日記は 冷蔵庫が壊れている池袋のウィークリーマンションで書いています。 しかしウィークリーマンションってあれですね。ビジネスホテルより使いづらいです。 極端な話、何も置いてません。部屋をぐるりと見渡してみます。 見渡すといっても180度ぐらいしか首を回せない狭さだけど。 電子レンジがあります。 電子レンジがまだ一般家庭に存在しなかった頃に発売されたような形をしています。 僕は最初、これはアンティークな飾り物だと思ってしまいました。 ベッドがあります。 部屋の真ん中にベッドがあります。部屋の真ん中に佇んでいるお陰で あらゆるところにデッドスペースが存在します。 シンクがあります。 僕の家の近所の定食屋の和式トイレより小さいシンクがあります。 電気コンロがあります。 部屋が完成して管理人さんが部屋を見渡してみてフムフムと満足気に肯いていると 突然「アーッ!!」と叫んで、慌てて業者を呼んで取り付けたような電気コンロがあります。 ユニットバスがあります。 終末の風俗店顔負けの狭さです。大人1人やっと入れません。 テレビがあります。 僕はまだ鹿児島にいるということが抜けきれてないためか いつまでもテレビの前に座って「ドォーモ」(ローカル番組)がやっていないかと チャンネルを回し続けていました。 冷蔵庫があります。 壊れてます。全然冷えてないです。むしろ小さなサウナと化しています。 部屋は9階です。高いです。風俗店のネオンが光る池袋の夜景を眺めるために カーテンを開けたら、隣のビルの壁しか見えません。 タオルだってありません。先程ローソンにタオルと洗面道具を買いに行きましたが 誰かが僕が来た道に魔法をかけてまして、マンションから徒歩3分の距離を 20分かけて帰宅しました。このように僕は救い様のない方向音痴なのです。 そういえばティッシュもありません。 もし、今ここで、突然、溢れんばかりに、鼻水が流れ出したら、 僕はそれを止めるすべを持っていないのです。 というわけで鼻水が溢れないうちに今日は就寝します。 実は僕は夜勤明けなのです。今日は朝まで働いていたのです。 何万キロ先の病院で患者さんに注射を打っていたのです。 「おつかれさまでした」と看護婦さんに言って、その足で池袋までやってきたのです。 こういう人生って、少し楽しい。 |
| 2002年03月12日(火) 本と天井。 |
| 僕はキッチンの椅子に座っていて本を読んでいる。 彼女はキッチンから見える僕の部屋のソファーに座り天井を眺めている。 音楽もかけずに、雑誌も開かずに、ただ天井を眺めている。 それでも僕はキッチンの椅子に座っていて本を読んでいる。 それでも彼女はソファーに座り天井を眺めている。 どちらから話し掛けるわけではなく。 どちらかが相手を見つめるわけでもなく。 僕は本を読み 彼女は天井を眺める 僕達は喧嘩しているわけじゃないし、心が通じ合っていないわけじゃない。 ただ、そういう時間が人より少し多いというだけで。 僕は(少なくとも僕は)そういう時間を苦に思っていない。 ふと彼女を見る。 彼女は相変わらず天井を眺めている。理由はわからない。 虫が這っているのかもしれないし、不思議な模様が描いてあるのかもしれない。 そういう姿を見ていると、時々とても悲しくなることがある。理由はわからない。 虫も這っていなくて不思議な模様も描いていない天井を眺め続ける彼女の姿が 僕の胸を苦しくさせる。 彼女は、自分の部屋でも、僕のいない僕の部屋でも こうやって何かが現れるのを待っているような瞳で天井を眺めて続けているのだろうか。 いまいち情景が伝わらない小説を読むより、何もない天井を見上げるより、 話をしたいことが、いっぱいあるけど、僕達はとても不器用で 気の効いた言葉も知らないから 僕は本を読み続けて 彼女は天井を眺め続ける。 |
| 2002年03月11日(月) 人は考える葦かしら。 |
| 毎日毎日いろんなことに頭を悩まして、自問自答を繰り返し、 見当違いの答えばかり出しているけど、 人生には(人生なんて言葉を一丁前に使う歳でもないけど)、 疑問に思ってはいけないことも結構存在する。 結構存在する。 例えば、食べるということ。 どうして僕は目の前の白ご飯に心奪われているわけでもないのに 自然に箸が進むんだろう? こんな疑問は、野暮です。毎日ご飯を食べることに倫理も哲学も必要ないのです。 「食べる」ということは「愛」だ! なんてグルメ雑誌にさも決定事項かのように書いてあるけど、 そんなものは建前なんです。 「食べる」ということは「空腹」なんです。 「食べる」は「空腹」以外に繋がっているものは存在しない。 「空腹」は「満腹」に繋がって「満腹」は「糞」に繋がるのです。 「糞」に哲学なんて存在しないのです。 同様に生理的な現象(眠る、呼吸する、排泄する)に疑問を持つのはナンセンスです。 ほっといても眠くなるし、息をするし、糞は垂れるのです。 しかし、生理的現象以外にも疑問に持ってはならないことが実に多々存在するのです。 仕事をするということ。 これも疑問に持ってはいけません。わかりますね? 世のため人のため?そんな馬鹿な。 僕のため金のため生きるため。結局はそれなんです。 僕は看護という職に従事していて「看護とは奉仕の精神」なんて学校で 耳にタコができるほど聞かされましたが、やはりそんなのは建前なんです。 心が狭いですか?狭いかもね。 だけどね、綺麗事を語るほど、僕は経済的に余裕があるわけじゃないんです。 仕事をするということと、糞を垂れ流すということ。たいして変わりはないんです。 お腹が痛くなったらトイレに駆け込むでしょ? お金がなくなったら仕事をするしかないんです。 だからキミは、考え過ぎなんです。 仕事のことでそんなに悩んじゃあ、いけない。 僕達が常に考えなければいけないことは次の休みは何をしよう?ということだけで充分なんです。 |
| 2002年03月10日(日) 方程式。 |
| 「1+1は?」 簡単!答えは2! 先生。なんだか物足りないや。もっと難しい問題解きたいな! 「4×3は?」 ・・簡単!答えは12! 先生。ぜんぜん物足りないや。もっと難しい問題解きたいな! 「21÷7は?」 ・・・簡単!答えは3! 先生。まだまだ物足りないや。もっと難しい問題解きたいな! ―――― 「2.5x+1=1.5(2+x)は?」 ・・・・・・簡単!答えはx=−1! 先生。ちょっと難しいけどまだ大丈夫!もっと難しい問題解きたいな! ―――― 「a=√3+1,b=√3−1のとき,ab の値を求めなさい」 ・・・・・・・・簡単!答えはa(b2−4)=a(b+2)(b−2)! 先生。かなり難しいけど頑張るよ!もっと難しい問題解きたいな! ―――― 「0<a<3のとき、√a2+2√a2+4a+4−2√a2−6a+9を簡単にせよ」 ・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・ (x)は経験を重ねて理解していくと、それ以上の問題を解こうとする。 しかし、(x)を理解すれば理解するほど、本当の答えが見つかるまで時間がかかってしまう。 答え:x=恋愛 |
| 2002年03月09日(土) 広さと深さ。許容範囲と許容量。 |
| 人の心を看るという仕事柄、 毎日、実に様々な感情に触れ合うことになる。 普段の日常生活では決して遭遇することのないような怒りや、 決して対峙することのない悲しみ、 決して感じることのない不安や、認知することのない恐怖。 その人の病の程度に応じて、表出される感情の種類も度合いも様々で、 僕達は、いかに柔軟にその感情に接していくことができるかが重要になってくる。 時に受容し、時に支持し、時に指導し、時に共感する。 しかし、臨床に出て、もう何年も経つけれど、 いつまで経ってもよくわからない感情が1つだけある。 イライラする。 このイライラするという感情がよくわからない。いや、わからないでもないのだけど。 イライラとは即ち、自分の欲求や要求が満たされないとき、 そのエネルギーを外に向けて発散する感情だと思う。 なぜ、そういうマイナスの感情を外に向けるのか。内へ閉じ込めないのか。 理由は人それぞれだと思う。 ある人は自分を守るためだったり、ある人は自分を理解してほしかったり。 そういうイライラする人たちを、僕は寛容な心の持ち主だと捉えている。 その人は、あらゆる事象を捕える心の許容範囲が広いのだ。 広いと、深いとは意味が違う。しかし、確実に許容範囲は広いのだ。 あらゆる事象の波長を、いちいち拾ってしまうのだ。 そしてそれに好き嫌い問わず反応してしまって、イライラとして表出する。 その分、僕はイライラすることが全くない。 人は心が広いと言ってくれるけど、実はそれは正反対。 僕は心が狭いのだ。 心の許容範囲が狭いから、あらゆる事象の波長を、いちいち拾わない。 往々にして無関心なのだ。 燃えるゴミと不燃物と危険物はしっかり分別する。 この話は簡単に燃えてなくなる。 この話はいつまでたっても燃えなくてイヤな臭いがする。 この話は取り扱いに注意しなければ危険。 僕の狭い心の中では、せっせとこのような分別作業が行われている。 それを人間的というかどうかは別として。 |
| 2002年03月08日(金) 青い鳥症候群。 |
| 向上心が強いというのも結局、青い鳥症候群の1つなんだ。 社会適応した青い鳥症候群。 僕がこうやって専門学校卒業して通信大学で勉強するのも、 ソフトボールのチームに入ったり、プールで泳いだりするのも、 洋服に気を遣うのも、白衣を着るのも、 恋人とすぐ別れたりするのも、 全て青い鳥症候群。 僕の中のチルチルとミチルは、幸せの青い鳥を求めつづけているんだ。 「幸せ」の本質というものもわからないまま。 形だけの自己満足を積み重ねて 失敗を繰り返して 成功を恐れて 過程を愛して 終末を恐れて 今まで追い求めていたある物が手に入っても、決してその鳥は青くない。 あれだけ追い求めていたのに、青くない。 要求が高すぎるんじゃなくて、見えないだけで。 幸せを追い求めてるんじゃなくて、見えないだけで。 頂点を目指してるんじゃなくて、見えないだけで。 その翼は青く輝いているんだけど、見えないだけで。 差し出されたその手を握ることを躊躇して 求める唇に顔を背け 美味しい料理は、いつまでも手をつけない。 このまま腐るのならば、冷凍庫で保存していたほうがいい。 (仕事は上手くいってますか?) もちろん。責任ある地位を与えられて、それを、うまく楽しんでるよ。 (恋人とは上手くやってますか?) もちろん。彼女は本当に僕のことを愛してくれてる。僕も本当に愛してる。 (私生活は上手くやってますか?) もちろん。充実してるよ。仕事帰りにプールに行ったり、いろんな人と食事に行ったり。 (あなたは幸せですか?) そんな、質問は、野暮だ。ほら見てみなよ。いつまで経っても青い鳥は捕まらないじゃないか。 |
| 2002年03月07日(木) ていうか浮気。 |
| 昨夜、ある女性と食事に行った。 彼女以外と2人きりで食事に行くのは久し振りで 柄にもなく待ち合わせ時間前になると妙に浮かれたりして これは、いけない。などと鏡に映る自分に言い聞かせながら 首筋に香水を振ったりして、 罪悪感から反映される高揚感にゾクゾクさせる複雑な男心。 夜7時。待ち合わせの洋風居酒屋に到着。 今日2人で食事をすることに特に深い意味はない。 一般的な恋愛相談。今夜の僕はみのもんた。 軽い白ワインを飲みながら、重い会話をする。 時々、彼女は涙を浮かべる。 今夜は、ただ話を聞いているだけのほうがいいような気がしたので 僕は慰めもせず、ただ小さく肯いているばかりだった。 傍から見れば、僕達2人は、別れ話をするカップルに映ったかもしれない。 静かに、感情を表出せず、冷静に、相手の目を見ずに。 僕達が醸し出す雰囲気は、ワインはとっくの昔に空いているのに、 ウェイトレスがボトルの交換に来ないことが証明していた。 しかし、どうなんでしょう。 悲観に満ちた女性と、胃袋の関連性というものは。 僕達はコースを食べていた。 メインディッシュのなんだかよくわからない肉のような白身魚の 今日はここまで。日記を書いている途中で、再び同じ女性に呼ばれて、 同じ店で、同じ料理と、ワインを3本空けた。 とても文章が書けるような状態ではありません。 この後半の文章は、なぜか体が斜めに傾いたままキーボードを打っています。 僕の部屋には、なぜかその女性がテレビを見ています。 彼女に連絡したいけど、連絡できない状態。 これは、浮気じゃ、ありませんよ。 |
| 2002年03月06日(水) 野球バットに見る男らしさ。 |
| 数日前、近所で通り魔事件が発生した。 小学生が刃物で指を少し切られ、服を裂かれた。犯人はまだ捕まっていない。 「物騒な世の中になってきたねぇ」 といつもなら他人事のように話すのだが、いかんせん今回は近所で起こった事件。 全然他人事ではない。かといって僕と関係のある出来事ではない。 そう考えると少し怖い。道で擦れ違う誰かが刃物を持っているなんて考えたことない。 これからも考えない。考えることによって世の中が物騒になる。 職場に刑事が来た。「こういう顔の人に心当たりはありませんか?」 僕は初めてモンタージュというものを見た。 そのモンタージュは深いニット帽をかぶり、鋭い目でこちらを凝視し、右の首筋に黒い痣があった。 看護婦さんは僕に似ていると、本物の刑事の前で洒落にならないことを言った。 僕は犯人じゃないのに、なぜか動揺してしまった。 「僕には、アリバイがあります」なんて僕も洒落にならないことを言った。 まだ犯人は捕まっていない。 休日の夕方、物騒になった近所を散歩する。 近くの小学生は集団下校をしている。遠足にでも行くみたいにみんな手を繋いでいる。 1人の小学生の男の子が、その男の子より小さい女の子と手を繋いで下校していた。 左手は女の子の右手をしっかりと握り、右手にはプラスチックの野球バット。 僕はその男の子の幼いながらの男らしさに微笑む。 僕のベルトの位置ぐらいの身長で、同じ長さくらいのバットを振りかざしながら歩くその姿は、 本当に男らしかった。 |
| 2002年03月05日(火) 流行。 |
| なぜか僕の職場では、空前の釣りブーム。 昼休みの看護士は釣りの話で持ち切り。 休日はパチスロばかりしていた先輩も食べてばかりいた後輩も、それをパッタリやめてしまった。 みんなの休日の優先順位に釣りが頂点にきてしまった。 職場は看護士が10人程いるんだけど、 その10人が昼休みに釣りの話ばかりするのだからたまらない。 みんな「あの釣竿はどうだ」とか「あの港はよく釣れる」とか「オレはこの前何十センチの魚と釣った」とか 釣り番組も真っ青の内容を話し合っている。 僕は生憎その釣りブームに乗り遅れてしまって、昼休みは小説を読みながら 「あぁ、小説ブームでもこないかなぁ」 なんて思っているのである。 僕はあのパチスロブームにも乗り遅れてしまった。 当時、休日の看護士はみんなパチスロに行っていた。その時も僕は本を読んでいた。 あのロト6ブームにも乗り遅れてしまった。 当時、休日の看護士はみんな3億の夢に取り憑かれていた。その時も僕は本を読んでいた。 「それじゃあ先輩ってだたのネクラじゃないですか」 と後輩に言われた。釣りに誘われてあっさりと断ったのだ。 ネクラでもなんでもいいから釣りには行かない。寒いんだもの。 僕はこうやって職場の休憩室から差し込む正午の光を浴びながら 小説ブームが到来するのをのんびりと待っているのです。 |
| 2002年03月04日(月) 面倒がとても臭い。 |
| ゲイの友人がいる。 僕はゲイじゃないけど、その友人とは結構仲が良い。 普通に話をしている限り誰もゲイとはわからない。 普通の格好をして、普通の動作をして、普通の話し方をする。当然だ。 ゲイの人が全員裸で革のベストを1枚着ているわけではない。 昔、2人で飲みに行って、ワインを2本ほど開けた後、 「僕は一生結婚できないかもしれない」と友人が突然言い出した。 僕は何のことだかわからずに、かといって理由も訊ねずに 「あぁ、そうなの、今は一生独身でもそうおかしくないからねぇ」 などと酔っていたから深く考えずに返事していたら 「実はね・・・僕、ゲイなんだ」 と衝撃の告白をされた。 この友人とゲイの話をしたのはそれきり。 ゲイとわかったからって、僕たちの関係がギクシャクすることはない。 僕はどう転んだってゲイになることはないし、友人は僕に対して「男」として見ているわけではない。 まぁ、しかしゲイの人もいろいろ大変そうである。 「ゲイ」というだけで、一般的な、形而上的な、「ゲイ」という人格が与えられるのだ。 こればかりはどうしようもない。逃れられない。 勝手に、他人から、思いもしない評価を与えられるのだ。これはたまらない。 どう?大変でしょ? 「う〜ん。そうでもないよ。それって偏見だよ」 う〜ん。そうなのかぁ。これが偏見なのかぁ。 というわけで、僕はこの友人とは、一切ゲイについての話をしなくなった。 あえて話をしないことこそが、偏見なのかもしれないけど、 そんなこと考えていると、なんだか面倒くさくなってきて いつの間にか今日の夕食のことや明日の仕事のことを考えている。 僕は、いつも最後には面倒くさいで物事を終わらせてしまう。 |
| 2002年03月03日(日) ないものねだり。 |
| 今日は久し振りに天気が良くて、しかも日曜日で診察は休みなので、 外来受け付けに座り、両肘をつきながら事務のお姉さんと話をしていた。 「暇だねぇ」 「そうですねぇ」 「こんなに暇だと忙しいほうがいいわねぇ」 「ないものねだりですねぇ」 「彼氏と一緒だね」 ないものねだりについて。 結局、人は、あらゆる事象に対してないものねだりをするんです。 穏やかな彼氏には怒鳴ってほしい、怒鳴る彼氏には黙ってほしい。 おしゃべりな彼女にはおしとやかにしてほしいし、暗い彼女には笑ってほしい。 「え?彼氏に何をないものねだりしてるんですか?」 「う〜ん。これちょっと自分でもおかしいと思うんだけど」 「思うんだけど?」 「う〜ん・・・まぁいいや。聞かなかったことにして」 「ハハッ。そういうことはね、話したくて仕様がない人が言うセリフなんですよ」 2人、両肘をついたまま自動ドアの向こう側を眺める。 正門の梅はもう散ってしまった。 僕は事務のお姉さんが話を切り出すのを黙って待つ。 こういうときは無理に詮索してはいけない。 「えっとね」 ほら。 「私の彼氏、あんまり真面目過ぎるのよ。悪いことなんて1つもできないの」 「いいことじゃないですか」 「う〜ん。そうなんだけど・・・。たまにはね、浮気とかしてね、困らせてほしいなぁって」 「典型的なないものねだりですね」 僕達は、再び自分の中の沈黙に入り、それぞれに思いを馳せる。 「・・・この前、あなたと食事に行ったでしょ」 「うん。行きましたね。美味しかったね、あの店」 「あのとき、2人ともいっぱいお酒飲んだでしょ」 「飲みましたね。ワイン2本開けちゃったもん」 「あの時、憶えてる?帰る時にあなた、キ」 「してません。僕は絶対にしてません」 「したじゃない。私はただちょっと目を閉じただけでしょ」 「わ。汚ねぇ。自分を正当化しちゃあ、ダメです」 「あれって浮気でしょ?」 「・・・」 「ねぇ。あ。ねぇって!どこ行くのよ!」 ないものをねだらない人は、ないものをどこかで自ら補充する。 |
| 2002年03月02日(土) 三味線。 |
| 和服姿の店員に通された小さな座敷。小さく聞こえる三味線の音。掛け軸。 「どうぞごゆっくり」 とある料亭。僕は髪を整え、いつもより幾分地味な格好をして、 派手な時計とブレスレットを外し、携帯をマナーモードにして、 大きな座布団の上に正座をした。 僕の横に、彼女が座る。 僕の彼女は学校の先生で、今日は研究授業でもあるかのような格好をしている。 チラリと横目で僕を見る。 テーブルを向かい合って斜め前、彼女の妹が座る。 もう何度か会っているが、彼女の妹もいつもと少し違う格好をしている。 いつもの大学生らしい格好とはうって変わって、 今夜の為に繕ったようなおしとやかな服。左胸に蝶のワンポイント。 テーブルを向かい合って僕の目の前。 フェンディのセーターを着た女性がゆっくりと座る。 僕に静かな、優しさに満ちた笑顔を投げかける。 「はじめまして」 僕は、少し声を上ずらせ、挨拶をする。 僕の目の前に座っている彼女に似た優しさを醸し出している女性は 彼女の母親。 ―――― ――ねぇ、お母さんにあなたを紹介したいんだけど。 風呂上り、僕はストローで牛乳を飲んでいた。コーヒーをやめて数週間経つ。 僕は目を丸くする。え?どういうこと?どうして? ――別に深い意味はないんだけど、あなたなら安心して紹介できるかな。って。 親と会うこと自体、深い意味がありそうな気がするけど、 別に断る理由もないので、その時はあっさりと承諾した。うん。じゃあ3月1日の夜に。 ――お父さんにはまだ内緒。ふふふ。 そして3月1日の夜。僕はあの時に言った軽はずみな返事を後悔することになる。 ―――― 「緊張したでしょ」 彼女は悪戯に笑って受話器の向こう側の僕に話し掛ける。約2時間に渡る食事会。 僕はいつものようにユーモアを交え、場を盛り上げた。背中には冷たい油汗。 「お母さん、とってもいい人だったって言ってたよ」 「ありがとう。ホッとしたよ。お母さんこそ話しやすい人でよかった」 「ふふふ。ありがとう。また一緒にご飯行こうね」 「うん。また一緒に行こう」 僕の胃に穴が開いてしまう前に。 |
| 2002年03月01日(金) 用務員。 |
| 一心不乱に仕事をしていると、あっという間に時間が過ぎそうな気がするけど、 時計をみると10時30分。まだ仕事は始まったばかり。 事務のお姉さん。 「プリンタの調子がおかしいから見てくれない?」 栄養士さん。 「栄養管理室の蛍光灯がきれちゃったから替えてくれない?」 看護婦さん。 「お弁当注文みんなの分とってくれない?」 薬剤師さん。 「ちょっと背中掻いてくれない?」 ・・・・・・ 僕は、病める人を看るために、高校を卒業して看護学校へ進学したんです。 看護学校ではプリンタのメンテナンスも、蛍光灯の交換も 弁当注文の仕方も、背中の掻き方も習わなかった。 他にもいっぱい看護士さんはいるのに、皆、僕に無理な注文をする。 理由は簡単! 僕は物事を断ることができないのだ。 人が良いというか、単に小心者なのだ。自分を犠牲にして周囲を丸くするんです。 その変わり、僕自身は削れていく一方。 朝はなかなか目が覚めず、昼はトイレに長く座り、夜は枕を湿らせる。 脚立を持ってきて栄養管理室の天井の蛍光灯を替えていると 上目遣いで栄養士さんが話し掛けてくる。 「もうすぐホワイトデーだね」 「そうですね」 「私ね、クッキー嫌いなの」 「そうですか、そりゃ残念」 「だからね、別の物が欲しいなぁ。って」 「ふぅん」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・何が欲しいって聞かないの?」 「聞きません。クッキーでいいじゃん」 「ダメ。クッキー嫌い」 「栄養士さんが好き嫌いしちゃダメだよ」 ここである種の駆け引きが始まる。 僕はこの駆け引きが大好きだ。 仕事が終わる10分前。 「ちょっとこれコピーしてくれない?」 栄養士さんが書類を渡す。 僕は看護士。書類のコピーなんて管轄外。看護学校では習わない。 含み笑いをする栄養士さん。 含み笑いで返す僕。 ここである種の駆け引きが実行される。 書類の裏に書いてあるメッセージ。 |
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