FILL-MIND [フィルマインド]心情記 

   
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2002年04月30日(火)  ■時候記:雨模様の勝る午後■

地下鉄出口から踏み出したと同時が、雨の降りはじめだった。

なんて間が悪い。
空ももう少しがまんしてくれれば、社まで濡れずに戻れたのに。

今年初めておろした、ふじ色のスーツに水玉柄の雨模様がにじむ。

少し冷たい。七部袖では早過ぎた。雫がはじけて震えた。
移り気な春の天気は、気まぐれで困る。今日の選択は失敗。

雨音にシンクロさせて、泣きそうにパソコンに向う。

今日は先に泣き出したのに、お天気に軍配。
恋模様は、来週に持ち越しになった。

雨模様の勝る午後、少し滅入って。心は冷えて。


明日は晴れますように。皆のもとにも。



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2002年04月28日(日)  ■時候記:芥子はオレンジ色に■

私は花の名前に詳しくない。正式名称はわからないけれど、小振りで可憐な花びらは、その道の形相と似つかわしくなく印象的だった。鮮やかに上品でこじんまりとした、芥子の娘のようなそれ。道行く人の注目を一気に集めて艶やかに輝いている。

メイン通りからは少し外れた車道沿い。外れているとは言え、日中でもかなり渋滞のする車通りの激しい道。小綺麗なレンガ敷の表通りと比べて、随分とくたびれた道路だ。継ぎはぎに施されたアスファルトの舗装も。白いラインで区切っているだけの歩道も。

排気ガスにまみれながら、太陽に向って咲き誇るオレンジ色の芥子。民家のブロック塀の合間のわずかな土の隙間から争うように伸び出ている。
その周辺にも野草が様々に描かれているのに、オレンジ色の彼女らはその狭い隙間だけにしかいない。

確か去年は咲いていなかった。今年初めてそこに現れた淑女。いったいその種はどこから運ばれてきたのだろうか。誰かがこっそり、まだ冬の寒い朝に仕込んだのだろうか。

私はガーデニングもてんでダメ。芥子が生命力の強い花なのかもわからない。でも、きっとたくましい花なのだと思う。確か芥子は麻薬にもなるのだから。

そう、まるで掃きだめに咲く悪女のように。

どんな逆境でも、たくましくしなやかに可憐に美しく、自然は生きる力を持っている。
挫けていられないよ、人間たち!

春は嬉しい。生命力が一斉に芽吹く季節。毎日をイノセントに映す。

ありがとう、今日も。こうやって感じていける安心、皆がいる安堵に。




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2002年04月27日(土)  ■時候記:おぼろ月夜な家路■

路地を曲がって住宅街を抜ける帰路は、少しの間、感傷的な気分になる景色が続く。通っていた小学校も中学校も、保育園もみ〜んなその道の上にはある。

昔、辺りは畑ばかりだったのに、今はマンションや新興住宅が並んだおしゃれなベッドタウン。

それでも広く重々しい地主家の周辺は、なつかしい夜を醸し出している。うっそうとして杉が聳え立ち、月明かりを遮って昔話の世界に誘う。それこそ天狗やもののけが迫ってくるような緊迫。

おぼろ月夜の空は、母の手に引っ張られ泣きべそで歩いた過去を引き出す。

うっすらとぼやけて、暖かく照らす春の月光。

今はもう怖い道では、なくなった。あの頃の母と同じほどの歳になった春、そこは、おぼろが染みる道だった。


春は思い出が沢山。皆に楽しいそれらが増えていきますように。


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2002年04月26日(金)  ■時候記:小冬日和■

どんよりと曇った重たい空は、まだ午前中だというのに夕暮れの趣。
木々がざわめき少しだけ肌寒く、襟をたてて歩く連休前のオフィス街。

冬の木枯らしの季節の中、ぽっかりと暖かい日を人は小春日和というけれど。
春のこんな薄暗い寒い朝は、小冬日和とは言わない。

人って単純。暖かさを心待ちする想いが、そんな暖かな言葉を生み出す。

小春日和な天気は、インディアン・サマーと欧米では言うらしい。
小冬日和な天気は、さしずめロシアン・ウィンター?

そんな、東京・千代田区の朝の風景です。
皆様、今日も無事でありますように。



※初出 2002.4.26「かぼすログ」


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2002年04月23日(火)  ■時候記:彩りの花の道■

桜が終わってしばらくたったこれくらいの季節になると、私の街では駅までの道のりにあるツツジ並木が一斉に花を咲かせてバス通りを彩ります。

白、赤、ピンクと鮮やかな色彩で、朝の喧噪から抜け出て豪勢に咲き誇る姿に魅せられます。

ほんの少し、気が滅入ること、なんだか他人と上手く距離を保てなくなったり、自分のわがままな性格に耐えられなくなったり、したそんな時、救われる気持ちになるのは、それが自然の色だからなのかもしれません。

めげずに、嘆かずに、悲観せずに、挫けずに、嫌いにならずに、華をさかせよう。いつの日も、どんな時も。

今そこで、ここをのぞいてくれているあなたに、幸せが舞い降りますように。



※初出 2002.4.23「かぼすログ」



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2002年04月16日(火)  ■時候記:命日の今日の日■

ほんの少ししんみりしてしまいますが、書かせてください。
いつもの忙しない朝仕度の最中、ふと日付が飛び込んできて気づきました。
今日は会社に入って初めて仕事を教わった上司の亡くなった命日でした。

彼の下にいた3年間、私は本当に扱いにくい部下だったと思います。いつも反発ばかりしていました。仕事をするのが楽しくて夢中だった時期です。
まだ小さいお子さんがいらして、早く帰ろうとする彼を困らせるかのごとく、私は残業ばかりしていました。生意気にも、自分ひとりで仕事ができるようになったと思ってもいましたっけね。

そんなふうに3年勤めて自信もついた頃の、ステップアップに転職しようかと悩みはじめた矢先での訃報でした。

その日彼は、深夜過ぎ自宅で心臓の痛みを訴え、病院へ駆け込みました。一時は落ち着き帰宅しようとしたものの、途中で悪化しそのまま未明に息を引き取ったそうです。持病があったわけでもなく、原因がはっきりしない突然の死でした。小学生にも上がらないお子さんを残し、30代半ばで逝ってしまった彼。まわりにいた皆が自責の念にかられた、もの悲しく辛い葬儀でした。

会社の要的な仕事をしていた彼が急にいなくなったその後、私の部署は混乱しました。全容をおおまかに知っていたのは私が主で、引継ぎもなく書類をひっくり返しては、その道筋を繋いでいくために奮闘に明け暮れました。1年くらいは本当に大変な毎日だったように思い出されます。転職熱など吹っ飛んでしまった数年でした。

やり残して思い半ばの企画、積み上げてきた業務の形跡、きちんと私を評価してくれていた証、それらの彼の仕事を目にした時、自分の未熟さを思い知り胸を痛めては懸命にこなしたものです。

あれから数年の時が過ぎ、彼の年に近づいて同じ立場に立ち、改めて思います。彼の成し遂げられなかった思いを少しでも叶えられるような仕事をしようと。それが感謝と供養になるのだと、信じて…。

困難にぶつかった時、空を見上げて見守っていてくださいと、祈ります。
達成して上手く運んだ時、思いは叶っただろうかと、問いかけてみます。

今、少なからず私を信じ、ついてきてくれる部下たち。気持ち深く彼女たちに思いを引き継いでいこうと、伝えていこうと思うのです。

そして、私を支えてくれている人たちを、決して悲しませたり困らせたりするようなことをしてはならないと強く思うのです。

頑張って仕事に励もうと、命日に心新たに思う今日の日なのです…。



※初出 2002.4.16「フリートークログ」


 
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